91.謎が解ける時
お兄様が神殿の警備兵を呼び、ゼーゼマン侯爵を王宮に護送するよう、言いつけた。
縄でぐるぐる縛り上げられたゼーゼマン侯爵を護送用の馬車に放り込むと、お兄様が私を振り返って言った。
「説明のため、私は王宮に行かねばならん。念のため、おまえ達も一緒に来い」
屋敷に戻るはずだった馬車に、お兄様、アメデオと一緒に私も乗り込んだ。
「……あの、アメデオ、お兄様にちゃんと謝ってください」
居ずまいを正し、アメデオを睨むと、アメデオは頭を掻いてお兄様を見た。
「あー、すみませんでした、レイフォールド様。闇の種子なんか埋め込んじゃって」
ちょっと、その謝罪、軽すぎませんか。
お兄様はフンと鼻を鳴らし、アメデオを見た。
「その件は別にかまわん。……だが、マリアを一人にし、ゼーゼマン侯爵に襲わせたことは許せぬ」
そっち!? そっちなんですか、お兄様!
「え、お兄様、それは私は構わないんで、それより闇の種子……」
「よくはない」
お兄様は私を睨みつけた。
「絶対に許せぬ。……もし指輪がなければ、おまえは大怪我をしていた。運が悪ければ死んでいたかもしれぬのだぞ」
「えええ……」
「あー、レイフォールド様、もし指輪が機能しないようでしたら、ちゃんとマリア様をお守りするつもりだったんで、それはないかと」
アメデオがきまり悪そうに頭を掻きながら言った。
「ハッ。ゼーゼマン家の手先が、何を言う。何故おまえがマリアを守るのだ」
「だってマリア様は、貴重な聖女様ですよ!」
お兄様の言葉に、アメデオは憤慨したように大声を上げた。
「一世代に一人、出るかどうかと言われる、非常に貴重な存在です! そんな珍しい素材……、存在をみすみす殺させるなんて、そんなこと絶対にさせません!」
「……………………」
私とお兄様から冷たい視線を向けられたアメデオは、首をすくめた。
「それに……、マリア様は、なんて言えばいいのか……。殺されたら残念……、違うな、寂しいというか、心から何か抜け落ちるというか、とにかく死んでほしくないと思っているんです。自分でも不思議なんですが」
「……そうか」
お兄様がなぜか納得したように頷いた。
えー、そこで納得するんですか? 何故に!
「じゃ、じゃあ闇の種子! それ、説明して下さい! なんでお兄様にそんな……」
「あー、ゼーゼマン侯爵にせっつかれてたんですよ。レイフォールド様に闇の禁術を使って、操り人形にしろって。侯爵は闇の禁術にはあまり詳しくないので、それがレイフォールド様に及ぼす影響について、理解されてなかったようですね。まあそれで、俺もレイフォールド様なら大丈夫かなって」
アメデオは、少しワクワクした表情を浮かべてお兄様と私を見た。
「で、せっかくだから、レイフォールド様の夢と、マリア様の恐怖を繋げるよう、設定してみたんです。それでレイフォールド様の精神がどう蝕まれるか、観察しようと思ったんですけど、……実際、どうでした?」
「どう、とは?」
お兄様が首を傾げた。
「レイフォールド様がご覧になった夢は、マリア様の恐怖を具現化しています。そうなるよう、設定したんですが……、うまくいきました?」
「ちょっと、アメデオ!」
私はアメデオを睨んだ。
「そんな余計な設定しないで下さい! お兄様、悪夢にうなされて大変だったんですからね!」
「えー、そうなんですか? 戦闘中は絶好調って感じだったから、失敗したかなーって残念だったんですけど」
なんという言い草!
私は頭に来てアメデオを睨んだが、お兄様は腑に落ちぬような表情で考え込んでいる。
「お兄様、どうされました?」
「いや。……おまえの恐怖を具現化した夢、と言っていただろう。だが、わたしの見た夢は、まるで絵空事のようであったと思ってな。おまえと同じ名、同じ容姿を持つ、まったく別の人間がいるようだった。夢の中のわたしも、自分自身のはずが、どこか違っていた。おまえに向ける感情も、行動も、同じようでどこかが違っていた……」
それは前世で読んだ小説だからです!……とは言えない。
「夢ですからね。それに、お兄様ならともかく、アメデオのやった設定ですから」
「えええ、マリア様、ひどいですよ!」
お兄様は少し嬉しそうな表情で頷いた。
「まあ、そうだな」
「それに、アメデオ」
私はアメデオをキッと睨んだ。
「そもそも、どうしてゼーゼマン侯爵の言いなりになったんです? まさか珍しい魔道具が欲しくてとか、そんな理由じゃないでしょうね?」
「ああ……」
アメデオが困ったように頭を掻き、馬車の窓に目をそらした。
「……実は、弟を侯爵の人質にとられていたんです」
アメデオの告白に、私は驚いて息を飲んだ。
「……え、弟?」
「そうか、弟だったか」
お兄様は納得したように頷いている。
「侯爵がどこぞの少年を南方から呼び寄せ、屋敷に住まわせていたのは知っていた。その頃からアメデオの様子がおかしくなっていたから、何らかの繋がりがあるのだろうとは思っていたが、そうか、弟か」
アメデオは肩をすくめた。
「塔の魔術師は、入塔前に名字も家も捨てますからね。まさかゼーゼマン侯爵に弟を見つけられるとは思いませんでした……、俺の油断が招いた失態です」
「そんな」
私はアメデオを見た。
「そういう事なら、ぜんぜんアメデオは悪くないですよ、悪いのはゼーゼマン侯爵です」
私はアメデオに頭を下げた。
「ごめんなさい。……知らなかったとは言え、ひどい事を言いました。弟さんを人質にとられてたなんて」
「ああ、いえいえ」
アメデオが焦ったように言った。
「悪いのは、油断した俺なんで、そんな謝らないで下さい。……来年、国立魔術院に入学するので、その用意のために頻繁に弟に連絡してたら、そこを侯爵に嗅ぎつけられてしまって」
アメデオが苦い表情で言った。
「へー、来年、国立魔術院に」
貴族でないのに入学が許可されるとは、アメデオの弟は、相当な魔力の持ち主なのだろう。
「じゃ、うちのミルの後輩になりますね! ミルに言って、面倒みるようにって伝えておきます! 弟さん、なんてお名前なんですか?」
私の言葉に、アメデオは嬉しそうに言った。
「ありがとうございます。弟は、マルコって言うんです」
その瞬間、私の頭に閃光が走った。
マルコ……! マルコとアメデオ!
お母さまを探して、三千里も旅した健気なコンビ……!
「マルコとアメデオ!」
「……ええ、そうですが。……どうかなさいましたか、マリア様?」
「どうもこうもないです!」
私は感動して叫んだ。
「ありがとう、アメデオ! 謎が解けました!」
ああー、最初にアメデオの名前を聞いた時から、どっかで聞いたことあると思ってたんだよ!
世界名作劇場関連だとは思ってたんだけど、ずっと思い出せなくて、なんかモヤモヤしてたんだよね。そーかそーか! あの仲良しコンビか!
はースッキリ! ウッキキー!
浮かれる私を、お兄様が優しく、アメデオは怪訝な表情で見つめていた。




