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【書籍化】異世界でお兄様に殺されないよう、精一杯がんばった結果【コミカライズ】  作者: 倉本縞


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87.挙式準備

神殿での挙式の打合せは、けっこう時間がかかった。

神官長がやたら張り切っていて、「ここで神官全員による祝詞を!」とか、「この祈りの場の二階席から花びらを撒いて!」とか、なんの見世物かというような提案をお兄様にしてきたのだ。


お兄様も、満更でもない様子で頷いているので、私は慌ててお兄様の袖を引いて言った。

「お、お兄様、まさかとは思いますが、これらの提案をそのまま受けるということはないですよね?」

「何か問題でもあるのか?」

お兄様の不思議そうな表情に、私は青くなった。


「いや、その……、神官全員で祝詞とか、花びら撒くとか、あまりに何というか、そのう……、大がかり過ぎると思いまして」

「そうか? わたしとしては、もっと大がかりにしても良いと思っているが」

真面目に言うお兄様に、私はさらに青ざめた。


そうだった。

お兄様は、王都全員の視線の集中砲火を浴びようが、特に何も思わない鋼鉄の心臓の持ち主だった……。


お兄様はさらに言った。

「式を極力早めたせいで、おまえにも十分な支度をさせてやれなかった。申し訳ないと思っている。せめて、できる限り盛大な式にしてやれればと考えたのだが」

お兄様の、思いやりという名の嫌がらせ行為に私は顔を引き攣らせた。


「いえ、あの……、お兄様のお心遣いは、本当に大変ありがたいのですが、私は何というか、そのう、もっと小さな、ささやかな感じの式を挙げたいと思っているのですが」

「何故だ?」

お兄様は納得できない様子で言った。


「わたしは、王都中に知らしめたい。おまえをわたしの妻としたことを、大陸全土に宣布したいくらいだ」

「……………………」

お兄様、それはあまりにも……。


私はお兄様に言った。

「他人が何百人、何千人も参加する、盛大な空々しい式よりも、小さな式のほうが、親密で素敵じゃないですか? ……私は本当は、お兄様と二人きりで挙式したいくらいです」

「二人きり……」

お兄様がつぶやいた。


「ええ、そうです。二人きりで、手に手をとって、お互いだけに誓いあうんです。素敵でしょ?」

「うむ……」

私の言葉に、お兄様が照れたようにうつむいた。

エロエロ嗜好の変質者とは思えない、まるで乙女のような恥じらいっぷりだ。


「だが、中央神殿での挙式はもう変更できぬが……」

「ええ、それは承知しております」

私は頷いた。

そこはいいのだ。問題ない。


「ただ、さっきも言いましたけど、あまりに盛大で大がかりな式は、ちょっと……。神殿での式ですから、親しい方達だけに参加して祝福していただけるような、そういう式が良いのではと思ったのです」

「そうか……」

お兄様が微笑んで頷いた。


「そうだな、そのような式のほうが良い。……祝詞と花びらは、断ることにしよう」


助かった!


私は胸を撫で下ろした。

あー良かった。

結婚式が、見世物的公開処刑となるところだった。


神官長は尚も色々といらん提案をしてきたが、お兄様にキッパリはっきり断っていただいた。

お兄様はためらわずノーと言える人間なので、こういう時は大変頼りになる。


その後、祈りの場での誓いの段取りや、式の進行について細かい打合せ等を済ませた頃には、外はすっかり暗くなっていた。


「……だいぶ遅くなってしまいましたね」

「神殿前に馬車を待たせてあるゆえ、すぐに屋敷に戻ろう」

お兄様と二人で、奥の控室から出てきたところ、向いの通路から現れた神官がお兄様に声をかけた。


神官と二言三言、会話を交わしたお兄様は、私を振り返って言った。

「マリア、すまぬが馬車で待っていてくれるか? 式の件で少し調整が必要なようだ」

「わかりました」

「すぐ済ませるが、先に屋敷に戻っていてもかまわぬ」

「大丈夫です、お待ちしてますから」

いくらお腹が空いていても、神殿にお兄様を置き去りにして自分だけ屋敷に帰るというのは、さすがに鬼の所業である。


私はいったんお兄様と別れ、中庭を通って神殿前に戻ろうとした。

すると、中庭の中央にある噴水の前に、黒いローブを着た男性が立っているのに気がついた。


神官なら白いローブを着用しているはずだから、外部の人間ということになるが、こんな遅い時間に、いったい誰なんだろうと私は思った。目深にフードをかぶっているので、顔は見えない。


黒いローブの男性は、私に気づいたらしく、顔を隠すようにしていたフードを上げ、深々と私に一礼した。

「……お久しぶりです、マリア様」

「アメデオ!」

私は思わず大声を上げた。


神殿の中庭に、行方不明のはずの魔術師アメデオが立っていた。

久しぶりに目にするその姿は、黒いローブのせいか、まるで不吉な死神のようだった。





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