85.危険がいっぱい
ああでもないこうでもない、と女性達があれこれ真剣に議論してくれたが、最終的に「闇属性に絶対の安心はない」という悲しい結論にたどり着いてしまった。
女性達の主張によれば、
①レイフォールド様はマリア様を大切にしている。
②ゆえに、基本的にマリア様が嫌がるようなことはなさらないはず。
③しかし、マリア様に向けられるその執着が、いささか度を越しているような気がしなくもない。
④もしその執着心を刺激され、闇属性の闇属性たる所以が爆発してしまったら、全てが終わる。
という事だった。
どうしよう、すごく納得できてしまう。
お兄様、基本的には優しいんだよね。
特に婚約してからは、大事に大事に監禁……もとい、守ってくれている。
ただ、めちゃくちゃ嫉妬深くて、そんなことで!?と驚愕するようなささいなポイントで爆発寸前になってしまう。
うーん。
つまり、お兄様の闇属性を刺激するような行動さえとらなければ、平穏な生活(昼も夜も)を手に入れられるってことだろうか。
今まで通り、屋敷に引きこもって親族以外の男性と会わなければ、何とかなる……、のかな?
どうしても出席しなければならない夜会でも、お兄様同伴にすれば大丈夫だろうし。
「皆さま、ありがとうございました。何とかなりそうな気がします。希望が見えてきました!」
力をこめて言うと、女性達は何故か逆に心配そうな表情になった。
「そう……、ですわね。ですがマリア様、もし何かありましたら、図書塔の魔術書課をお訪ねになって。お力になれるかもしれませんわ」
「ええ、よろしければ、私の屋敷にいらしていただいても構いませんわ。……何日か、お匿いすることも可能かと」
「私の夫は騎士ですから、騎士団で何らかの騒ぎを起こさせて、その隙にどこか安全な場所へ避難できるよう、手筈を整えることもできますわ」
……なんか、お兄様が変態ストーカー扱いされてるような気がするのですが。
「マリア」
リリアが私の手を握り、真剣な表情で言った。
「わたしはいつでも、あなたの味方よ。逃げたい時は、ためらわずに言ってね」
……うん、お気持ちだけ、ありがたくいただいておきます……。
お茶会がお開きとなり、女性達は私を力づけるように声をかけ、温室を後にした。
「マリア様、何かあったら、お一人で悩まれないで、ぜひわたくし達にご相談なさってね」
ぎゅっと手を握られ、私は戸惑いながら頷いた。
なんか、私が相談したせいで、お兄様を誤解されてしまったかもしれない。
いや、誤解というか、一部真実だからなー……。
とにかく、現状できることは、お兄様の闇属性ポイントを刺激しないことだ。
よし、そういうことなら、大人しく屋敷に帰るぞ!
と決意も新たに温室を出た瞬間、待ち構えていたと思われる王太子直属の近衛騎士が、私に深々と頭を下げて言った。
「聖女マリア様。王太子殿下がお呼びです、どうぞこちらへ」
……………………。
いや、私は王家に忠誠を誓う、しがない末端貴族ですけども。
でも、もしまた王太子殿下と王宮で会ってたなんてお兄様にバレたら、色々な意味で人生終わりそうな気がするんで、どうか見逃して下さい!
と、近衛騎士に訴えても無駄だろうなあ……。
近衛騎士って、王子様に絶対服従で有名だもんね。
私はうつむき、近衛騎士の誘導に従ってとぼとぼと後ろをついて行った。
近衛騎士は、以前、訪れたことのある謁見の間の隣にある控室の前までくると足をとめ、私を振り返った。
「こちらです、どうぞ」
おや、と私は首を傾げた。
王子様の私室とかじゃないんだ。
ここだと、謁見待ちの人達にも話を聞かれてしまうと思うんだけど、かまわないのかな。
騎士にうながされ、控室に入ると、相変わらず無駄にキラキラした王子様がいた。
「王太子殿下、本日はご機嫌うるわしく……」
膝を折って挨拶しながら、内心、私は首を捻っていた。
控室には、誰もいなかった。
珍しい。この時間帯、謁見はいつも満員御礼状態と聞いていたのだが。
「人払いしてあるから、心配しなくていい」
私の心を読んだかのように、王子様がさらっと言った。
毎回思うんだけど、私の表情ってそんなにわかりやすいだろうか。
お兄様も王子様も、読心術でもマスターしてるのかってくらい、私の考えてることを言い当てるよね。
でもそれなら、今すぐ屋敷に帰りたい!っていう私の気持ちもくみ取ってもらえないだろうか。
私が顔を上げると、王子様が苦笑して言った。
「すぐに帰してあげるから、そんな顔しないで」
おおう! 王子様、すごい!
王子様もお兄様に負けず劣らず超能力者だ、と私が尊敬の眼差しで王子様を見ると、王子様は黙って私を見返した。
何かを言いかけてから、王子様はためらうように口を閉じた。
「……王太子殿下、何か私に御用でしょうか」
「ああ、用というか……」
王子様はため息をついた。
「……先日、ゼーゼマン侯爵に請われ、謁見に応じた」
苦い表情で告げられ、私は硬直した。
いや、陰謀関連はお兄様へ丸投げさせていただきたいのですが。
「先日、隣国の女性があなたに渡した手紙の件だ。……ゼーゼマン侯爵は、彼女が王家に書状を流したと思っている様子だった。書状を渡せと、たいそうな剣幕だったよ」
ひえー、いかに外戚とはいえ、次期王である王子様に対して、そんな態度許されるんですかね。
「書状は持っていないし、渡されてもいない。中身すら知らないと突っぱねたよ。本当のことだしね。……ゼーゼマン侯爵は納得していない様子だったが、もしかしたら、あなたが疑われることになるかもしれないと思ったんだ」
えっ、なんで!?
「あの女性は、処刑されるはずのところを、聖女の慈悲により死一等を減じられた。……彼女がノースフォアの手駒になっていたのなら、王家でなくノースフォアに書状が渡ったと、そう思われる可能性がある」
それは誤解なんだけど、誤解に誤解が積み重なって、真実にたどり着くというミラクルが起きてしまったんですね!
「王太子殿下」
「エストリール」
素早く言いなおされ、私はしぶしぶ王子様の名前を呼んだ。
「エストリール様。……ゼーゼマン侯爵は、私をお疑いなのでしょうか、それとも兄を?」
「両方だ」
王子様は断言し、私を見た。
「マリア、気をつけるんだ。もちろん、レイフォールドに手抜かりはないと思うが……、ゼーゼマン侯爵は追い詰められている。どんな手段に訴えてくるか、わからないからね」




