表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】異世界でお兄様に殺されないよう、精一杯がんばった結果【コミカライズ】  作者: 倉本縞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/100

68.お兄様のお願い

わたしの妻になってくれ、というお兄様のセリフが、頭の中でリフレインしている。


いや、うん、もう婚約しているし、その先は結婚だ、と理解はしているけど、でも、展開早すぎないですか。

「爵位は……」

「挙式と同時に継承する」

「ミルは……」

「卒業まで、仕事は全てわたしが代行する」

「そ、そうですか……」


さあどうする、もう何の言い訳も出てこない!


おたおたする私に、お兄様がもどかしそうに言った。

「もう待てぬ。本当は、今すぐにでもおまえをわたしのものにしたいくらいだ」

「えええ……」

なんでそんな切羽詰まってるんですか。


「婚約していても、おまえを望む者は後をたたぬ。王太子殿下はいまだにおまえを諦めてはいない上、フォール地方の騎士までが」

「ち、ちょっと待ってください!」

お兄様のとんでもない誤解に、私は思わず声を上げた。


「王太子殿下はともかく、ラッシュは違いますよ!」

私はお兄様に力説した。

「ラッシュはただ、治療院によく来てくれた親切な騎士様ってだけで。そもそも私もラッシュも」

「……おまえは、フォール地方にいた時、そのパトラッシュなる騎士と、街で逢引を楽しんだのだろう」

「あい……!?」

ラス兄様の言葉に、私は目を剝いた。

何を言っているんだこのラスカルは。


「逢引って」

「言い訳しても無駄だ。調べはついている」

なんですかその犯罪者扱いは。


「ラッシュは街を案内してくれただけです!」

「そう思っているのはおまえだけだ。相手はおまえを……」

言いかけて、お兄様は顔を歪めた。


「……おまえのことを、相手がどのように思っていたのかなど、手に取るようにわかる。おまえに笑いかけられ、優しくされて、相手は喜んだだろう。おまえの気持ちが自分にあるのかもしれぬと、そうぬか喜びして思いをつのらせたはずだ。わたしのようにな」

ぬか喜びって。


「私……、私は、お兄様のことが、す、す……き、です、よ……」

「マリア」

お兄様は私の顎を持ちあげ、じっと見つめた。


「……あの、お兄様……」

お兄様の顔が近づいてきて、キスされる。


「……おまえに触れられるのは、わたしだけだ。おまえはわたしの、わたしだけのものだ……」

熱に浮かされたようにお兄様が言う。

そのまま、何度もくり返しキスされ、頭がぼうっとしてくる。


「おまえを閉じ込めてしまいたい。……おまえがわたしを想ってくれている内に、他の誰にも会えぬようにしてしまいたいのだ」

ぅおっ。

闇属性の本領発揮なセリフに、私はちょっと引いた。


お兄様、ほんとに監禁大好きなんだな。


私はお兄様を見上げた。

お兄様は顔を歪め、どこか痛むような目で私を見つめている。


うーん。

そんなに私を監禁したいんだろうか。


まあ、そもそも私はインドア派だし、積極的に社交界で遊びまわりたいという欲求もない。

夜遊び大好き貴族からすれば、私は、普段から自主的監禁生活を送っているように見えるかもしれない。


「……あの、週一くらいで王都の人気カフェのスイーツを楽しめるなら、私、監禁されてもかまいませんよ」

そう言ってお兄様を見上げると、お兄様は虚をつかれたように瞬きして私を見つめ返した。


「……なに?」

「あの、お兄様は私を監禁したいんですよね? それは別にかまわないんですけど、でもやっぱり、週一くらいはカフェでスイーツを……」

まじまじとお兄様に見つめられ、私は居心地悪く視線をさまよわせた。

食い意地張ってるって思われただろうか。

週一じゃなく、月一くらいにしとくべき? しかしこれは譲れない一線!


「カフェにはラス兄様も一緒にきて、注文もラス兄様がして下されば、私は誰とも話さないで済みますし」

「マリア」

「そもそもカフェには女性しかいませんから」

必死に説得する私をさえぎり、強引にお兄様が口づけてきた。

普段の軽いキスとは違い、がっつり舌を絡めてくる。


うわ、うわわ。

と、突然どうしたんですかお兄様。

いや、お兄様はいっつもいきなりこういう行為をしてくるんだけど!


口腔内を探られ、舌を吸われ、私は必死になってお兄様に縋りついた。

激しいキスに、息が上がる。

舌が絡みあう音が妙に生々しくて、頭が沸騰しそうだ。


しばらく荒々しく唇を貪った後、お兄様は、はあ、と息を吐いた。


「……悪かった」

くたっと力の抜けた私を抱きしめ、お兄様が小さく言った。

「え」

「埒もないことを言った。……どうかしているな、わたしは」

お兄様はため息をつき、私の首筋に顔を埋めた。


「おまえと離れたくない。ずっと一緒にいたい……」

珍しく子どものように駄々をこねるお兄様に、私はちょっとだけ和んだ。

うん、表現がちょっと極端なだけで、お兄様と私は、フツーに両想いのカップルだよね。たぶん。


「私もお兄様と一緒にいたいです」

「本当に?」

「本当ですよ」

なだめるようにお兄様の頭を撫でると、


「……では、フォール地方の叛乱を制圧したら、私と結婚してくれるか?」

「………………」

いかなる状況においても当初の目的を忘れず、執念深く本懐を遂げようとするお兄様に、私はもういろいろと諦めることにした。


「……はい、結婚します……」

「マリア!」

ぎゅうう、とお兄様が感極まったように私を抱きしめた。


「一月以内にこの叛乱を鎮めてみせる。王都に戻ったら、すぐに式を挙げよう」

「……はい……」

さっきまでの不安そうな表情とか、もしかして演技だったのでは?と疑いたくなるほど、晴れやかな笑顔でお兄様が言った。


うん、まあ……、いっか。

私達、両想いなんだし。婚約してるんだし。

なんか、すべてがお兄様の思い通りにスケジューリングされてるような気もするが、そこら辺は深く考えないでおこう……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ