58.戦慄の指輪 その2
結局、闇の禁術を防ぐために、私はネックレスやブレスレットなど、5つもの魔道具を重ねづけすることになった。
一つの魔道具に、何種類もの魔術をまとめて付与するのは大変難しいらしく、結果、私は今までにないくらいアクセサリーをじゃらじゃら着ける羽目になったわけだが、
「……最初から、指輪にそれらの機能もつけておけば良かった」
ふう、とお兄様がため息をついて言った。
「……あのー、お兄様、私がいただいた婚約指輪って、いったいどういう機能が……?」
聞かないほうがいいような気もしたが、この機会を逃したら、一生聞けないまま終わりそうな気がする。
私は恐る恐るお兄様にたずねた。
「私に異変があれば、お兄様にそれが伝わるんですよね? で、攻撃されれば、自動的に防御魔術が展開されるっていう……」
「ああ」
「……それだけでしょうか?」
「まあ……、他にも多少あるが」
「はっきり言ってください!」
私は恐怖心を抑えて言った。
もうこの際、はっきりさせておいたほうがいい!
私の嫌がることはしないって言ってたし、その言葉を信じて!
「……おまえの位置情報や、体調などを把握できるようにしている。それから」
まだあるのか!
「それから、その……、おまえに万一のことがあれば、わたしも共に死ねるように……」
「はああ!?」
私は思わず大声を上げた。
「何ですかそれ! そんな気の狂った機能、なんで付けたんです!」
私の剣幕に、お兄様はそっと視線をそらした。
代わりにアメデオが、はりきって説明を始めた。
「そうなんです、素晴らしいですよね! レイフォールド様は天才です! 通常、魔道具を介して相手から生命力を吸い上げるとか、魔術を阻害するとか、そうしたことは簡単にできるんですが、相手と同時に死ねるような設定なんて、今まで考えたこともありませんでした! しかも他にも何種類もの魔術を重ねづけしてあるし、本当にマリア様のおっしゃる通り、気の狂った機能と言っていいかと思います! 常識では考えられないことです!」
「……おまえは黙っていろ」
お兄様が低く言い、アメデオはぴたっと口を閉じた。
空気を読まないアメデオだが、お兄様の怒りを感じるセンサーはあるらしい。
「お兄様」
「……この機能がなくとも、どのみち同じことだ。おまえがいなければ、わたしは生きてゆけぬのだから」
……う……。
そんなに想ってもらえて、嬉しいというよりは……、ちょ、ちょっと重い……、かなーっと。
「でもお兄様、万が一私に何かあって、それでお兄様までいなくなってしまったら、ミルはどうするんですか」
「……その事もむろん、考えた。財産や行政代行について、わたしの死後、ミルが苦労せずに済むよう手配してある」
そこまでやったのか。
「……お兄様、お兄様に何かあれば、悲しむ人はたくさんいますよ」
「おまえとミルだけだと思うが」
さらっと返すお兄様に、私は言葉に詰まった。
アメデオに必死に目配せしても、アメデオは何のことかわからないようで、目をぱちくりさせている。
「どちらにせよ、わたしにとって大切なのは、おまえとミルだけだ。他の誰がどれほど悲しもうと、どうとも思わん」
お兄様の潔すぎる言葉に、私はなんと言えばいいのかわからなくなった。
お兄様は、深すぎるほど深い愛情を持っている。
そして、その愛情を向ける相手が失われることを、文字通り、死ぬほど恐れているのだ。
「……私、そんな簡単に死んだりしませんよ……」
「わかっている。万一に備えてのことだ」
お兄様は私をぎゅっと抱きしめた。
お兄様は、私なんかとは比較にならないほど強いし、鋼メンタルの持ち主だけど、でもある意味、私よりずっと弱い部分がある。
私はお兄様の背中をそっと撫でた。
なんだかお兄様が可哀そうに思えたのだ。それに、
「……私のせいで、お兄様が死んでしまうなんて、そんなの嫌です……」
「嫌なのか?」
「そりゃそうですよ」
私の言葉に、お兄様が少し考え込んだ。
「……術を解くことはできぬが、指輪自体を破壊し、術を無効化することはできる」
お兄様がつぶやくように言った。
「レイフォールド様、それは!」
アメデオが思わずといったように声を上げたが、お兄様が目顔で黙らせた。
「え、あの……、指輪を破壊って、どうやって」
「指を切断する」
淡々とお兄様が告げた。
「せっ……、え、指……、えっ、ええ!?」
「わたしの指だけだ、心配いらぬ」
そういう心配ではない!
「ななに言ってるんですかラス兄様! そんな、簡単に指をきっ……、切るとか!」
「おまえの嫌がることはせぬと言った」
「指切られるほうがよっぽどイヤですよ!」
私はお兄様の手を握り、しっかりがっつり言い聞かせた。
「お兄様、約束してください! 絶対に指をせっ……、せつだんとか、そういう血なまぐさいことはしないって!」
「……しかし、それでは術は解けぬままだが」
「いいですいいです、全然いいです! 一緒に生きて、一緒に死にましょう!」
もはやヤケクソになって叫ぶと、お兄様は少し驚いたように私を見て、それからふわりと笑った。
「そうか。……おまえと、ずっと一緒にいられるのか」
すごく嬉しそうなその笑顔に、私は何も言えなくなってしまった。
お兄様……、思考が闇属性な上、迷いなく血なまぐさい選択肢をチョイスするあたり、さすがスプラッター小説の主要キャラクターだけありますね。
ていうか、まだ結婚もしていないのに、私一人の体ではなくなってしまった……。
何がどうしてこんなことに……。




