55.当たるも八卦当たらぬも八卦
謁見では、国王陛下、王妃殿下および王太子殿下、勢ぞろいで迎えられ、私は緊張で吐きそうだった。
お兄様は相変わらず、不敬ギリギリの簡潔対応を貫いていたが、ただ、王妃殿下に式の日取りを尋ねられた時だけ、嬉しそうな笑顔で私を見た。
「なるべく早くと考えておりますが、弟の爵位継承などもございますので、いましばらく時間が必要かと」
「たしか、弟君は学院に入ったばかりだったわね」
それでは卒業まで待つことになるのかしら?とおっしゃる王妃殿下に、お兄様は即座に言った。
「それは無理です。待っても一年が限度です」
爵位を譲渡した後も、しばらくは領地経営などの仕事を代行するので問題はない、と告げるお兄様に、私は何とも言えない気持ちになった。
たしかに、ミルが卒業するのは6年後だし、それまで待つのはさすがに長すぎると私だって思うけど。
しかし、爵位を譲渡しても仕事は引き続き代行するって、仕事量が増えるだけで何のメリットもないと思うんだけど、お兄様、そこまでして早く結婚したいのか。
これだけあからさまに、一刻も早く結婚したい!と態度に出されると、さすがに気恥ずかしいというか何というか……。
王太子殿下が苦笑している。
うう、すみません、すみません。
「レイフォールドは、聖女マリアどのに誓言を捧げたと聞いた」
王太子殿下がにこやかに言った。
「わたしもぜひ、我が国の聖女をお守りすべく、誓いを捧げたいと思うのだが」
いかがだろうか?と問いかけられ、お兄様のこめかみがピクリと引き攣った。
「ああ……、あのその、大変ありがたいお言葉なのですが」
「王太子殿下は一国を担うお立場。そのようなお方に、命を捧げていただく訳にはまいりません」
私がもたもたしている間に、お兄様がすぱっと斬って捨てた。
「レイフォールド、わたしは聖女どのにお伺いしているのだが」
「たしかにマリアは聖女でありますが、それと同時に、わたしの妻となる女性でございます。王太子殿下におかれましては、どうぞお構いなく」
お互いにこやかに会話しているが、空気は氷点下だ。
冷え冷えとしたやり取りを、私はうつろな笑顔で耐えた。
婚約のご報告って、もっと和やかなものだと思ってたんだけど、どうしてこうなるんだ。
やっぱりお兄様が相手だと、何もかもが殺伐としてしまうんだろうか……。
疲れる謁見を終え、屋敷に戻ってきた頃には、私はぐったりしてしまっていた。
もう早く休みたい、と思ったのだが、
「レイフォールド様、お待ちしておりました」
にこやかに出迎えた魔術師の姿に、私はさらなる疲労を覚えた。
あー、そうだ、変人魔術師さんが屋敷に来るって言ってたっけ……。
たしかアメデオ、とお兄様が言っていたな。
世界名作劇場関連ネームのような気がするのだが、どの登場人物の名前なのか、思い出せない。
アメデオさんは我が家の応接室で、たいへん寛いだ様子でソファに沈み込んでいたが、お兄様を見るなり、すちゃっと立ち上がって挨拶をした。
お兄様はああ言っていたけど、見た感じ、そんな変人とは思えない。
ひょろっと痩せた体つきに、愛想のよさそうな茶色の目、おさまりの悪そうな茶色の髪をしている。
魔術師用のローブは真っ黒で陰気そうだけど、それは塔の魔術師全員共通のものだし、それほど警戒する必要もないんじゃないか。
ただ、この人もお兄様と同じく、闇属性の魔力を持っているんだよね。
前世の血液型占いと同じレベルだが、こちらの世界でも『魔法属性占い』なるものがある。
まあ、占いといってもほとんどが言いがかりに近く、風属性は気まぐれ、土属性は真面目、火属性は怒りっぽい、氷属性は傲慢で冷たい、という、「それ明らかに魔力の印象から言ってますね?」と言うようなものだ。
私のように複数属性を持っている場合は、その属性の配分によって変わってくる。
風6、水2、土2だと、「あなたは自由で常識にとらわれないタイプ☆ 突飛な発想や行動で、周囲を驚かせてしまうことも! 恋愛には消極的だけど、強引に迫られるとつい流されてしまいがち。誰にでも優しいけど、そこが逆に恋人を不安にさせてしまうかも。たまには恋人に愛情を示して、安心させてあげてね!」という結果だった。
そして、闇属性はというと……、陰険でねちっこく、束縛気質でアブノーマルな性的嗜好、などなど、ほとんど名誉棄損スレスレの言われようなのだ。
お兄様は闇7、氷3の属性配分なのだが、一度こっそり調べてみたところ「あなたは一見、冷たく見えるけど、実は非常に愛情深いタイプ☆ 一度誰かを好きになったら、ずっとその人一人を思い続ける一途な一面もアリ! ただ、その一途さが「重い」と思われてしまうことも。恋人を束縛するのはほどほどにしないと、愛想をつかされちゃう可能性もあるから気をつけてね!」という非常にコメントに困る結果が出てしまった。
うん、言いがかりだとは思うんだけど。
でも、なんかこの占い結果、お兄様の性格と見事に合致しているような……。
闇属性の魔力は大変珍しいし、実際、私はお兄様しか知らないから、たまたまだとは思うんだけど。
でも、闇属性か……。
この人はどうなのかな。
お兄様と違って、大変愛想の良い印象だけど。
そう思った時、
「聖女様に直接お会いできるとは! 貴重な機会を与えていただき、誠に感謝いたします!」
そう言うなり、アメデオは素早く私に近寄り、じろじろと私を眺め回した。
「あ、あの」
「ふむ、王宮で祝福の光の顕現があったと伺いましたが、まだかすかに神力の気配がありますね」
ぐるぐると私の周囲を興奮したように回り、アメデオは言った。
「聖女様、ぜひ、ぜひ! そのお力を解明するため、このアメデオにご協力いただけませんでしょうか!」
「え、な、なにを……」
お兄様がぐいっと私を抱き寄せ、背中に隠した。
「アメデオ、いい加減にしろ」
「いいじゃないですか、ちょっとくらい! レイフォールド様はずるいですよ、聖女様を毎日、観察しほうだいだなんて!」
……いや、観察って……。
「聖女様、お願いします! ちょっとだけでいいんです、唾液と血液、あとできれば尿もいただければ」
「アメデオ!」
お兄様に怒鳴られても、ちょっとくらいいいじゃないですか!とアメデオがめげずに食い下がっている。
うん……、偏見はいけないと思うけど、やっぱり闇属性って、うん……。




