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【書籍化】異世界でお兄様に殺されないよう、精一杯がんばった結果【コミカライズ】  作者: 倉本縞


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52.お兄様と美女とおっさんと私

目の前で火花がバチバチ散っている。


お兄様は剣の柄に手こそかけていないが、その眼差しは殺気に満ち、目の前の美女を睨みつけている。

対する美女、衝撃ネームのロッテンマイヤー嬢も負けてはいない。

お兄様の殺傷力抜群の眼差しもどこ吹く風で、艶やかな笑みを浮かべ、私達を見据えている。


「マリア様」


ロッテンマイヤーさんに声をかけられ、私はびくっと飛び上がった。

「あ、はい、何か……」

「おまえは下がっていろ」

間髪入れずにお兄様が私に言う。


いや、私だって、竜虎相うつ、みたいな場面にしゃしゃり出たいわけじゃないですよ。

でも名前呼ばれたら、一応、返事するのが礼儀ってもんじゃないですか。


「まあ、デズモンド伯は、よほどマリア様を隠しておかれたいようですわね? 何故かしら? マリア様は聖女の名乗りを上げていらっしゃるようですけど、何か後ろめたいことでもあるのかしら?」

「ハッ! 後ろめたいことがあるのは、そちらのほうではないのか? ゼーゼマン侯爵家の手の者が、聖女を害さんと襲撃し、捕縛されたのは周知の事実。身内の犯罪を手をこまねいて見ていただけの人間が、何を口清く」


ロッテンマイヤーさんがピシッと言葉の鞭をふるえば、お兄様がシャーッと牙を剝いて応える。

うぬう、両者互角! 互いに一歩も譲らぬ見事な戦いぶりです!

私は邪魔しないよう、お兄様の影から、お二人の雄姿を観戦したいと思います!


すると、

「ねえ、マリア様。マリア様は聖女と認定されたと聞きましたけど、それは本当なのかしら?」

「きさま、まだそのような戯けたことを口にするか! 中央神殿と王家が認めた聖女を、侮辱するつもりか!」

「だってわたくしは、いえ、この場にいる皆さまのほとんどは、聖女様がその力をふるうのを、実際に見てはいませんもの」

ロッテンマイヤーさんが妖しく微笑んだ。


いつの間にか私達の周囲は、謁見に上がった貴族や宮廷で働く文官、騎士などが集まっており、ちょっとした人だかりができていた。

その人達が、聖女の力、と聞いて、好奇の眼差しを私に向ける。


ロッテンマイヤーさんは、甘く誘うような微笑を私に向けた。

その微笑みに、なんだか頭の奥が痺れ、ぼうっとするような気がした。


「ねえ、マリア様。ぜひわたくしに見せて下さいませ。聖女の祝福の光を」


さあ、と手を差し出され、私は迷った。

「祝福……」

「ええ、そうですわ。わたくしを祝福して下さいませ」

にっこり笑いかけられ、頭がくらくらする。


「マリア!」

お兄様に腕をつかまれ、乱暴に体を揺すられた。


「マリア、どうしたのだ! 正気に戻れ!」

「……お兄様」

鬼の形相のお兄様に、ちょっとビビる。


「すみません、あの何か、ロッテンマイヤー様が祝福してほしいと仰るので」

「する必要はない!」


「……しないのではなく、できないのではないか?」

ふいに聞こえてきた声に振り向くと、ロッテンマイヤーさんの隣に、浅黒い壮年の男性が立っていた。

かなり高位の貴族らしく、上衣には金糸の縫い取りが施されている上、宝石がふんだんに使われている。服の色は深紅で、ロッテンマイヤーさんとお揃いだ。


「……ゼーゼマン侯爵」

お兄様が吐き出すように言った。


あー、服の色がお揃いだからもしかして、と思ったけど、やっぱりそうか。

ゼーゼマン侯爵ということは、ロッテンマイヤーさんの養父、王妃殿下の兄にあたる方だ。

たしかに王妃様や王子様にどことなく顔立ちが似てるな、と私が思っていると、


「どうした、聖女どの。そちらが本物の聖女と言うなら、祝福の光を見せてみるがいい」

嘲るように言われ、うわあ、と一歩下がる。なんというわかりやすい悪人のセリフ。

しかし、私の前に出たお兄様が剣の柄に手をかけるのを見て、血の気が引いた。


「ちょ、ちょっと待ってください、お兄様! いくらなんでも宮廷で剣を抜くとか、そういうのはさすがにちょっと!」

「おまえを誰にも侮辱はさせぬ」

決意に満ちたお兄様に、私は頭を抱えたくなった。


だー、もう!

なんでお兄様は、いっつも殺る気満々なんですか!

たまには平和的解決の道を探す努力をしましょうよ!


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