50.ストーカーセンサー
「ふむ……」
お兄様がすすっと私の腰を撫で上げ、背中に触れる。
「お、お兄様、ちょっと……」
体を探る手の感触に、顔が赤くなる。
が、お兄様の何かを確認するような表情に、私は恥ずかしさをこらえてじっとしていた。
た、たぶん、何かお兄様のセンサーに引っかかるような異常があったんだろう、たぶん。
しかしこの体勢、恥ずかしすぎるんですが!
「……よくわからんな」
わからんのかい!
お兄様は怪訝な表情で私を見下ろしている。
「どうもおかしい。……昼間、おまえに何かあったのはわかっていたのだが……」
「え」
私はお兄様を見上げて言った。
「あの、なんで昼間のこととか……、お兄様、騎士団にいらっしゃいましたよね?」
「ああ」
お兄様は私の左手を握った。
「この指輪にかけた術で、おまえに何か異変があれば、すぐさま察知できるようになっている。……おまえの身に危険が及べば、自動的に防御魔術が展開されるはずだが、今回それは発動しなかった。つまり、危険はないということなのだろうが、少し気になってな」
「………………」
このキモい指輪、機能も色々とキモい。
いや、身の安全を守るという意味では、優秀なのかもしれないけど。
でも、何か異変があれば、ということは、つまり、別に危険はなくても、ちょっとしたイレギュラーな事件であっても、すぐお兄様に何かがあったってバレちゃうってことだよね?
それって、一歩間違えればストー……いや、深く考えるのはよそう。
「昼間、何があった? 今日、屋敷に来たのは、先日訪れた店側の人間だけだったと報告を受けているが、違うのか?」
うわあ、既に把握済みなんだ。
私は若干、引き気味で答えた。
「お店の方達だけでしたよ。ドレスの最終デザインを選んで、採寸していただきました。……ただ……」
「何かあったのか?」
お兄様の目つきが鋭くなる。
うーむ。
あんまり関係なさそうだけど、言ったほうがいいのかなあ。
でも、採寸とは思えない触られ方をされた、とか言ったら、あのお針子さんの命の危機ではなかろうか。
「あー……いえ、ただ、さすが人気のお店だけあって、お針子さんまで、皆さんとても綺麗な方だったなー、と」
ウソではない。
「……そうか」
お兄様は脱力した様子で私の横に寝転がった。
「何もないなら、それでいい」
そのままお兄様に体を引き寄せらせ、抱き枕のようにされる。
「あのあの、お兄様、それでは私はそろそろ部屋に」
「……このまま、ここで休めばいい。疲れているようだし、部屋に戻るのも手間だろう」
「いえ、なんの手間も苦労もございません!」
私は必死になってお兄様の腕の中から抜け出そうとしたが、
「屋敷の者もみな、おまえがわたしの婚約者になったことを承知している。このまま夜を過ごしても、何の問題も」
「いやいやいや! そういうけじめのない堕落した生活はいかがなものかと思われます! けっ、結婚するまでは、そういう……、そういうことは、その、控えたほうがよろしいかと!」
私の必死の説得に、お兄様は私を抱きしめたまま、小さく笑った。
「そうか。……おまえが嫌なら、しかたないな」
腕の力がゆるみ、私は急いで寝台から下りた。
「マリア」
そのまま部屋を出ようとした私に、後ろから声がかかる。
振り返ると、お兄様が寝台に横たわったまま、色気したたる表情で私に言った。
「おまえの嫌がることはせぬが。……気が変わったら、いつでも部屋に来い」
無理無理無理無理、心臓爆発します!




