42.しぶとい惨殺エンド設定
「やあ、レイフォールド」
王子様が、何事もなかったかのように、お兄様へフレンドリーに声をかけた。
「殿下」
お兄様も、まったく変わったことなどないように、いつも通りそっけない礼をする。
いやいやいや、さっきお兄様、闇の魔術を使って王子様を攻撃しましたよね?
なんでそんな、王宮の執務室でいま会いました、みたいな、普通の態度なんですか?
お兄様は急ぎ足で私の許に来ると、私の腕を掴んだ。
「それでは殿下、わたくし共はこれで」
「えっ、ちょ、待ってください、お兄様」
お兄様に引きずられていく私を、王子様が苦笑して眺めている。
いや、笑ってる場合じゃないから!
一緒に怒られてくれるって言ったくせに!
王子様のウソつきーー!!
塔で待機していた馬車に放り込まれ、私はお兄様と一緒に屋敷に戻ることになってしまった。
向かい合って座ると、お兄様が私の顔を見て眉をひそめた。
「顔色が悪いな」
「……平気です」
お兄様とまともに会話するのは、久しぶりだ。
「リーベンス塔で、聖女として神力を使ったのか?」
「…………」
うつむく私に、お兄様はさらに言った。
「おまえが、王太子殿下の許可を得てリーベンス塔を訪れたことはわかっている」
私はお兄様から視線をそらした。
バレるだろうなとは思ってたけど、やっぱりバレてしまった。
しかも、最悪のタイミングで。
ちょうどリーベンス塔から出てきたところだったから、王宮にリリアを訪ねてましたホホホとか、言い訳することもできない。
「すみません」
「何か、謝るようなことをしていたのか?」
お兄様が私を睨む。
「そういうわけでは……」
言い訳を探したが見つからず、私はうなだれた。
もう、完全に心が折れた。
私のバカな企みは、大失敗だった。
ただリリアに辛い思いをさせただけで、何一つ成果はなかった。
いや、牢内の怪我人を癒すことはできたけど、リリアは倒れかけるし、結局聖女の力は発動しないし、さらにはお兄様に見つかってしまうしで、何もかもが最悪だ。
自分が情けなくて、私はずずっと鼻をすすった。
「……なぜ泣く」
「だって……」
私はぐすぐすと子どものように泣き出した。
ミルやラス兄様の前だと心がゆるむのか、つい子どもっぽい振る舞いをしてしまう。
ラス兄様が、私の隣に座り直した。
「泣くな」
私の頭をがしっと掴み、乱暴に撫でる。
いつものラス兄様だ。
そのことにすごく安心した私は、ラス兄様の肩に頭を預けて泣き続けた。
あー、もう自分が許せないし、情けないし、これからどうすればいいのかわからない。
リリアが聖女の力に目覚めなければ、私はこのまま、いつ偽聖女として断罪されるのかビクビクしながら生きていかなければならない。
そんなの、もう嫌だ。
お兄様に嫌われ蔑まれ、殺される未来をただ待つだけなんて、耐えられない。
泣いている私の頭を、お兄様は何も言わず、ずっと撫でてくれた。
優しい。いつもこうだといいのに。
しばらくして、ようやく泣きやんだ私を、お兄様がじっと見つめて言った。
「もう王太子殿下には会うな」
「え?」
「会えば殺す」
「え゛」
どう見ても真剣なお兄様の様子に、私は恐怖で凍りついた。
殺すって、殺すって……、ちなみにどっちを?
とはとても聞けない。
なぜ。
お兄様、私を好きなんじゃなかったの?
さっきまで、優しく頭を撫でてくれてたのに。
なんでいきなり、惨殺エンドが現実味を帯びてやってくるんですか。




