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【書籍化】異世界でお兄様に殺されないよう、精一杯がんばった結果【コミカライズ】  作者: 倉本縞


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40.偽聖女のたくらみ

「しかし、聖女どのはいったい何を企んでいるのかな? 罪人を治療したがる術師などそうそういないから、こちらとしては助かるが」

リーベンス塔につながる回廊を歩きながら、王子様がからかうように言う。

「いえ、企むなんて。ただ、治療術師の一人として、お役に立てればと思っただけです」

ウソだけど。


「それに、私一人ではありません。私の学友、リリアも手伝うと申し出てくれました」

私が頼み込んだからだけど。


私は振り返り、後ろを歩くリリアの腕を引いた。

リリアの顔を見て、王子様が頷いた。


「ああ、彼女については母上からも聞いている。大変優秀で、信頼できる人物だと」

「お褒めにあずかり、恐縮です」

リリアが楚々と礼をする。

おお、さすが真の聖女。可憐だし、実に品がある! 

王子様も最初から好感触だし、ここは小説の流れ通りに進んで、まったく問題なし!


私は上機嫌で王子様の後をついていった。


リーベンス塔には、現在、私達を襲撃した犯人達が収監されている。

その中には、お兄様が使った闇の禁術によってケガをした人達も含まれていた。

命にかかわるような大怪我や重病人は、専門の病棟にうつされるが、そうでなければ塔に所属する治療術師が治療にあたる。


……というのは建前で、塔の治療術師は、塔の騎士や文官、使用人などを優先して治療にあたり、犯罪人はほぼ放ったらかし状態だ。

まあ、人情として、日々真面目に働いている同僚と犯罪者、どちらを優先して治療するかと言われたら、そりゃそうなってしまうだろう。


そうでなくとも、闇の禁術の治療は難しい。

聖属性の治療術か、聖女のふるう神力でなくば治療の効果はあまり見込めず、根気よく癒しの魔術を重ねがけするほかないのだ。


だからこそ、無理を言ってリリアを連れてきたのだ。


リリアは治療術が得意ではあるが、聖属性の魔力は持っていない。

しかし、実際に怪我人を前にすれば、聖女の力に目覚めるのではないだろうか。


小説では、王妃殿下を守るために聖女の力に目覚めたわけだから、誰かを守るため、助けるためという状況になれば、発動条件が揃うのではないかと思ったのだ。

希望的観測だけど、もうそれ以外、ほかに手が思い浮かばない。


「こちらへ」

王子様の誘導され、リリアと共に、リーベンス塔の地下牢へと足を踏み入れた。


地下牢の通路の入り口には、頑丈そうな鉄製の扉があり、そこに立っていた門番が、王子の姿を見て無言で扉を開ける。

話を通してくれてたのだろう。ありがたい。


地下牢はかび臭く、じめじめと湿った薄気味悪い場所だった。

囚人達は、粗末な寝台に横たわっているか、壁にむかってブツブツと何かつぶやいているかで、見ているだけで気が滅入るような光景だった。


「そ、それでは治療をおこないます……」

緊張する。

リリアに、こんな風にすればいいんだ、って伝わるといいな。

私は一番手前の牢の前にひざまずき、寝台でうめき声をあげている囚人に向けて手をかざした。

手のひらからやわらかい光があふれ、寝台に横たわっている囚人を包み込む。


「……なに……?」

囚人が光に気づき、慌てたようにこちらに向き直った。

「……聖女さま!?」

驚いたような声に、牢獄全体がざわっと騒がしくなった。


「聖女? 聖女がここに来ているのか!?」

「聖女さま、どうか俺にも祝福を与えてくれ!」


騒々しい声にひるみそうになるが、ここで逃げ帰るわけにはいかない。


「リリア、向こうの牢をお願いできる?」

「ええ」

リリアも青ざめてはいたが、しっかりとした口調で頷いた。尊い。まさに聖女。


「王太子殿下、リリアについて下さいますか?」

王子様が、はっとしたように私を見た。

「……しかし、それではあなたを護衛する者がいなくなる」

「え? ああ、それは大丈夫です。私はほら、離れていても癒しの術が使えるので」

聖女の祝福は、対象者が離れていても効力を発揮する

視認できる範囲内で、という制約はつくが、狭い牢内ならなんとかなる。


そう考えると、リリアのほうがよっぽど危険だ。

鉄格子越しとはいえ、治癒術をかけられるくらいには近づかなければならないのだから。


王子様もそれはわかっているようだが、それでもためらうように私を見ている。

だが、重ねてお願いすると、王子様は頷き、リリアの後ろに付いてくれた。


内心、ドキドキしながらリリアの治癒術を見守る。

リリアは鉄格子に手を当て、治療術の魔力を牢内に注ぎ込んだ。


魔術は、使用する者によってそれぞれ色や輝きが違うが、治癒術はだいたい、淡い青い光が定番だ。

リリアの手から、優しい青い光がゆっくりと広がっていく。

鉄格子の前で座り込んでいた囚人にその光が届いた。しかし、ぱちりと軽い音とともに弾かれる。

闇の禁術による反作用だ。


「リリア、祈ってみて」

「祈る……?」

私はたまらず、リリアに声をかけた。リリアは不思議そうな表情で私を振り返った。


「あのね、治癒を施しながら、神様に祈りを捧げてみて。どうかお力をお貸しください、って」

「でも……」

「お願い!」


重ねて私が頼むと、リリアは頷き、もう一度鉄格子に向けて手をかざした。

ふたたび、淡い青い光が広がる。

治癒の光は少しずつ囚人の傷に沁み込んでゆくが、大半は弾かれ、消えてしまう。


がんばれ!

そこで聖女の力を発動するんだ!


私は内心、こぶしを握ってリリアを応援した。


リリアの魔力は、とても質が高く、美しい。

もうこれ、聖女の祝福と言っていいんじゃない? あと少しなんじゃない?


私が固唾をのんで見守っていると、


「リリア!」


ふらっとリリアが体の均衡を崩し、倒れかかった。

すかさず王子様がその体を支えたが、リリアの顔色は真っ青だった。


「リリア」

私は慌ててリリアに駆け寄り、王子様に支えられたままのリリアに、祝福の力を注ぎ込んだ。

「リリア、リリアしっかりして」

全力で祝福の力を使うと、リリアの全身が光に包まれ、天使のように見えた。


リリアはぱちぱちと瞬きし、驚いたように私を見た。

「……まあ、これは祝福の光ね! なんて清らかな力なのかしら。……あら、王太子殿下、ご無礼いたしました。マリア、もう大丈夫よ」

リリアは姿勢を戻し、私に笑いかけた。

「リリア、大丈夫? 気分はどう?」

顔色は戻っているけど、どうしよう。


リリアは私にすまなそうに言った。

「心配かけてごめんなさい、闇の禁術でできた傷は、私の治癒術では手に負えないみたい」

「そんなこと……」

私は泣きそうになった。


リリアは倒れそうになるくらい、限界まで魔力を使ってくれた。

私が頼んだからだ。

わざわざ囚人の塔まで来てくれて、治癒術をかけてくれるような優しい友人を、私は騙したのだ。


「ごめんね、リリア。ごめんなさい」

「まあ、マリア、どうしたの?」

リリアが驚いたように私を見た。

「ちょっとふらついただけよ、そんなに気にしないで」


気にする。

気にするよー! 私のバカー!


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― 新着の感想 ―
これでリリアが覚醒すればいいけど、しなかったらただのマウントだよね。私は聖女だけどあんたはただの癒し手。対等だと思うな。という意味にしか見えん。
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