36.何もかもが蚊帳の外
街道に突如として現れた王太子殿下の武装親衛隊は、あっという間に襲撃犯達を捕らえた。
襲撃犯の大半は戦意を喪失しており、大人しく縛についた者も多かったようだ。
襲撃犯に指令を出していたゼーゼマン家の者だけは、最後まで激しく抵抗していたが、結局は親衛隊に猿ぐつわを噛まされ、縄でぐるぐる巻きにされて引っ立てられていた。
「よし、全員捕縛したな! 怪我人以外はすべてこのまま、王城のリーベンス塔へ連行せよ!」
リーベンス塔は、王家に対する謀反など、重大な犯罪を犯した人物を収監する監獄だ。
なんか、手際が良すぎませんか。
テキパキと指示を出す人物に視線を向けると、はたしてそこには、月の光を浴びてきらめく金髪美形の王子様が立っていた。
「ああ……」
すべての謎が解けたぞ。
私は脱力し、馬車の背もたれに寄りかかった。
たぶんお兄様と王子様は、事前に襲撃についての情報を共有してたんだ。
私は、祝賀会で王子様が言ったセリフを思い出した。
『少し早いが、この後は予定通りにすすめるよ』
あれは、このことを言っていたんだ。
襲撃のタイミングも計った上で、聖女および聖女の身内を連れ、護衛もつけずに馬車で王宮から帰ることで、襲撃犯を誘い込む。
最終的には、まんまと罠にかかった襲撃犯を、お兄様が返り討ちにし、王太子殿下が捕縛する。見事な連携プレーだ。
私とミルが、まったくの蚊帳の外に置かれてたこと以外は!
「王家なんて大嫌い……」
暗くつぶやく私に、ミルが訳もわからず慰めてくれた。
「マリ姉さま、あの、犯人も捕まったみたいだし、もう心配ないですよ」
そうだね、襲撃については心配ないね。
でもミル、私達は囮にされたんだよ! ミルがショックを受けたらかわいそうだから言わないけど!
お兄様も王子様も最低だー!
「……二人とも、怪我はないか」
馬車の扉を開け、お兄様が中をのぞき込んだ。
「僕たちは何とも! レイ兄様こそ、大丈夫ですか?」
心優しいミルが、悪魔を心配している。
そんな必要ないんだよ、ミル。
この悪魔ラスカルはね、私達を囮にしたんだよ! 言えないけど!
「やあ、二人とも、また会ったね。怪我はないかい?」
お兄様の後ろから、爽やかに挨拶する金髪美形王子様に、本気で殺意がわいた。
「……ええ、おかげさまで。お兄様と王太子殿下の、見事な作戦のおかげで、この通りピンピンしておりますわ」
私の言葉に、勘のよい王子様が何事か察したらしく、苦笑した。
「怖い思いをさせてすまなかったね。このお詫びはかならず」
「いーえ! 貴い王族の方にお詫びをしていただくなど、恐れ多うございますわ! 私など、王族の方にしてみれば、ゴミクズみたいなものですもの! どうかお気になさらず!」
ふんっと横を向くと、王子様がぷはっと吹き出した。
「……何か面白いことでもございまして?」
「いや……、いや、すまない。本当に、申し訳なかったと思っている。……ねえ、よければ、僕に謝罪の機会を与えてはもらえないだろうか。僕は本当にあなたを」
「王太子殿下、そろそろリーベンス塔での取り調べにかかりませんと」
王子様の言葉をさえぎり、お兄様が言った。
「これからしばらく、今回の襲撃についての調査で忙しくなるでしょう。遊んでいる時間はありませんよ」
「遊んでいるわけではないんだが」
「それからもう一つ」
お兄様はちらりと私を見て、一瞬、ためらうように言葉を切った。
「……もう一つ、お知らせすることがございます。このたび、わたくしとデズモンド家令嬢マリアとの婚約が調いました」
なんだって!?
王子様はもちろん、私やミルも驚愕してお兄様を見た。
「それは……」
王子様は、絶句してお兄様を見ている。
「申し上げるのが遅くなりましたことを謝罪いたします。本日は色々と慌ただしく、報告の機会を得ませんでした」
「それは……、父上もご存じなのか?」
「祝賀会で陛下が中座された際、書簡を届け、口頭ではありますが婚約の勅許をいただきました。後ほど改めて、正式な勅許状をいただくことになります」
参った、と王子様が小さくつぶやくのが聞こえた。
「準備ができ次第、弟にデズモンド家の伯爵位を譲り、その後、ノースフォア侯爵位を継承いたします。結婚はその時に」
待て待て待ってくれ!
今さらっと結婚て言った!?
「ノースフォア侯爵位を」
王子様が得心したようにつぶやいた。
ノースフォア侯爵。どこかで聞いた名前だ。
貴族なのに貴族に疎い私だが、どこかで……。
そうだ、小説に出てきた!
私は思わず叫びそうになった。
ノースフォア侯爵。現国王の三番目の妹姫の母親にして王太后、お兄様にとっては祖母にあたる方のご実家だ!
そうか、ノースフォア家は正妃を輩出した後、後継者が亡くなってたんだっけ。
公にはされていないけど、お兄様はノースフォア本家嫡流の血筋を継いでいる。
断絶を恐れたノースフォア家から、内々に継承の話が出ていてもおかしくはない。
そして、ノースフォアの名を継げば、私との婚姻も可能となる。
……って、私の意思は!?
当事者なのに、部外者感がハンパないんですけど!




