29.祝賀会の準備
それから三日後、中央神殿から正式な書状が届いた。
私を聖女として認めるというものだが、なんか、お、王様の署名まで入ってるんですけど。
その上さらに王宮から、聖女顕現を祝う祝賀会を、一週間後に開催するという通達がもたらされた。
……あああああ。
ウソでしょ。
私が聖女なんて、ウソでしょ。
聖女顕現の祝賀会なんて、王都、いや王国全土に私が聖女だって言いふらしてるようなものじゃないか。
いや、聖女の存在を知らしめるための祝賀会なんだから、それで間違ってはいないんだろうけど。
でもでも、聖女自体が間違いなんだよーー!!
「姉さま、落ち着いて」
どうしようどうしようとおたおたする私を、学院から急遽、戻ってきたミルが慰めてくれた。
ミルも一週間後の祝賀会に、聖女の身内として出席しなければならないのだ。とんだとばっちりなのだが、相変わらずミルは優しい。
居間のソファで懊悩する私に、ミルは優しく言った。
「マリ姉さま、大丈夫ですよ。僕、前回の聖女顕現を祝う関連行事についていろいろ調べてみたんですけど、聖女さまはだいたい、そこにいてにこにこしてれば大丈夫みたいです」
「そうだ。おまえは黙って立っていればよい」
お兄様もそう言ってくれたが、でも、聖女に祭り上げられること自体が間違いなのだ。どこにも大丈夫なポイントはない。
それに、もう一つ問題がある。
「……祝賀会で、着るドレスがありません……」
正直言うと、これが一番心配だった。
バカな悩みだとはわかっている。
わかっているが、しかし、王都の主要貴族を集めた祝賀会で、裾の擦り切れたドレスを着て堂々としていられるような、そんな度胸は私にはない。
「いま着ているドレスでいいのではないか? ……よく似合っていると思うが」
お兄様のふざけた返事に、私はくわっと目をむいた。
「これ綿の普段着ですよ!? 袖にはシミもあるんですよ!? この服で祝賀会に出ろとか、よくそんな酷いこと言えますね! お兄様はいいですよ、騎士団の制服着ればいいんですから! ミルだって学院の制服があります、でも私は! 私にはお仕着せがないんです! ドレスだって、2年前に作ったっきりで、しかもそれはこの前、王宮に行くのに着てしまったのに……っ!」
私の剣幕に、お兄様が珍しく引いている。
「……わたしは、そういったことには不案内なのだが……、そういうものなのか、ミル?」
「僕もあんまりくわしくはないですけど、たしかに今、姉さまが着ているドレスで祝賀会に出るのは、問題かもしれません」
二人でこそこそと話し合っている。
男兄弟は、こういう問題にはてんで助けにならない。
私は頭を抱えた。
あー、どうしよう。
今からドレスを仕立てても、祝賀会には間に合わない。
とすると既製品を購入するか、誰かから借りるしかないが、そんな当ては……。
そこまで考えて、私ははっとひらめいた。
そうだ、あったよ、あった! ドレスがあったっ!!
「お兄様、ミル、失礼します! 夕食は私、部屋でとるので、二人で召し上がってください!」
それだけ告げると、私は部屋を飛び出し、脱兎のごとく駆けだした。
よかった、いや、祝賀会に出るのは良くないが、でもとにかく、まともなドレスで出席できれば、後の問題は後で考えればいい!
私は廊下を歩いていたメイドをつかまえ、探し物を伝えた。
「どうかしら、屋敷に残っている? 捨ててしまったかしら」
「いいえ、捨ててはいないはずです。奥様の部屋を探してみますね」
「ありがとう! 見つけたら、私の部屋に持ってきてもらえる?」
私はメイドに礼を言うと、急いで私室に戻った。
祝賀会は一週間後だが、何とか間に合うだろう。
ていうか、間に合わせるしかない。
でなければ、裾の擦り切れたドレスか、普段着のドレスで出席することになる。
なんとしても、それだけは避けなければ!
しばらく待っていると、メイドが重そうに籠を抱えて部屋に入ってきた。
「いかがでしょうか、お嬢様? こちらは虫食いもカビもなく、十分着用可能かと思われますが」
「ありがとう! 充分だわ!」
私は籠に積まれたドレスを見て、手を叩いて喜んだ。
それは、お母様の残されたドレスだった。
お母様が亡くなられた後、思い出すのが辛くて整理もできず、そのままにしておいたのだが、まさか今回、それが役立つことになろうとは。
「奥様は着道楽でいらっしゃいましたから、たくさんドレスが残っていました」
「そうねえ、お母様のご実家は裕福だったから、お母さま、衣装持ちだったのよねえ……」
そこそこ金持ちの伯爵家のお嬢様だったお母様が、なんでわざわざ貧乏なうえ出世の見込みもないお父様に縁づいたのか、謎である。
だが、そのおかげで今回の難関を乗り切れる。
さすがにドレスの型が流行おくれなので、手を入れる必要はあるが、一週間もあれば何とかなるだろう。
「……お母様、ありがとう」
私は肌触りのよいドレスを撫でながら、ちいさくつぶやいた。




