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【書籍化】異世界でお兄様に殺されないよう、精一杯がんばった結果【コミカライズ】  作者: 倉本縞


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28.お兄様のトラウマ

帰りの馬車の中で、お兄様はずっと無言だった。

ただ、屋敷に入る時、「後でわたしの部屋へ来い」とだけ告げて、また外に出ていってしまった。

「王宮へ」と言っていた声が聞こえたので、ほんとに王子様のお忍びをチクリに行ったのかもしれない。


昨日に引き続き、仕事人間のラス兄様の時間を盛大に無駄遣いしてしまった。

後で謝っておかねば。


それから、両親のことも。

お兄様は、いつから知ってたんだろう。

出生から何から、お兄様に関する背景事情が重すぎる。

小説の中では、妹である私の不祥事もあったし、人生苦労の連続だなあ。かわいそうに……。


私はいったん部屋に戻り、少し休むことにした。

昨日、今日と気の張る出来事が続いて、ちょっと疲れてしまった。

やっぱり私は、王都には向いていない。宮廷に出仕とかしないで良かった。


メイドも部屋から下げ、私は少しだけ休むつもりでベッドに横になった。

中央神殿には聖女と認定されてしまった上、王太子殿下にまで会ってしまった。

これからどうしよう。


目をつぶると、心配事が次々と脳裏に浮かぶ。

ああ、早くフォールに帰りたい……。


「―――マリア……」

うとうとしていたら、低く優しい声で名前を呼ばれた。


意識は覚醒しかかっているんだけど、まだもう少し眠っていたくて、私は聞こえないふりをした。

「マリア」

肩をそっと揺さぶられる。

それでも目をつぶっていると、


ちゅっ、と柔らかい何かがこめかみに押しつけられた。


「え!?」

驚いて起き上がると、お兄様が素知らぬ顔でベッドの横に立っていた。

「起きたか」

ちらりと私を見る、お兄様の両耳が赤い。


「えっ、ちょ、ちょっと! お兄様、何なさったんですか今!」

「……何もしていない」

じゃなんで目をそらすんだ!


「いっ、いま、ここ、ここら辺にちゅって……」

「おまえが起きぬからだ」

何その理屈!


お兄様は咳払いし、私から視線をそらして言った。

「おまえがいつまで経っても部屋に来ないから、様子を見に来たのだ。……疲れたのなら、話は明日にするが」

「あ、起きます、すみません」

私は素早くベッドから降り、窓際の小さなソファをお兄様にすすめた。

お兄様の話って、神殿での事だよね。

重い話はさっさと終わらせるに限る。お兄様は朝食を摂りながら、胃もたれしそうな話をサクッとするけど、あれはやめてほしい。


お兄様は私と向かい合わせになるよう、ソファに腰掛けた。

考えてみると、私の部屋にお兄様がいるなんて、ずいぶん久しぶりだ。

いつも、お兄様の部屋に呼び出されてお説教されるのが日常化してるしね。


「初めに言っておく。中央神殿で、王太子殿下の伴の者が言っていた事だが、あれは事実だ」

「え?」

ソファに座るなり、お兄様がいきなり言った。


「え、何のことですか? 王太子殿下のお伴の方って、あれですか、お兄様に剣向けられて青くなってた人?」

「そうだ」

「あの人、なんか色々言ってませんでした? 私が、いかがわしい術を使って聖女を騙ってるとか」

「……その事ではない」

お兄様は、はあ、とため息をついた。


「わたしが、父上と母上を殺したと言っていただろう。あの話だ」

「えっ」

私は驚いてお兄様を見た。まさか。


「え……、ラス兄様、まさかその剣で、お父様とお母様をザシュッと……?」

「そうではない!」

お兄様の剣を指さして言うと、お兄様がぎょっとしたような顔で怒鳴った。


「おまえは何を考えている! わたしがそんなことをする訳がなかろう!」

「じゃ、魔術で……?」

「違う! 私は殺していない!」

じゃなんで自分が殺したなんて言うんだ。


お兄様は私を見て、深いため息をついた。

「はっきり言わぬと、おまえには伝わらんな。……わたしが殺した訳ではないが、結果的には同じようなものだ。知っているかもしれんが、わたしは、現国王の妹姫と、隣国の第一王子との間に生まれた不義の子だ。両親は、わたしを引き取って育てたがゆえに、政争に巻き込まれて殺されたのだ」

「……それは、お兄様のせいではないのでは」

「わたしのせいだ」

お兄様は頑固に言い張った。


「王太子殿下の外戚であるゼーゼマン侯爵家は、先代までは伯爵だった。まあ、成り上がりだな。さらに言うなら、現国王は側室の血筋だが、わたしの母親は正妃の娘だ。血筋としては、わたしのほうが上だと主張する馬鹿どもが、王太子を支持するゼーゼマン家と、愚にもつかぬ争いをくり返していたのだ」

お兄様は、苦々しい顔で言った。

「両親が暗殺されたのは、そのせいだ。……わたしを引き取って育てたのは、将来、わたしを王に担ぎあげるためだと邪推されたのだ」

「いや、まさかそんな。デズモンド家は権力とは無縁ですよ」


私は思わず突っ込みを入れたが、ラス兄様は吐き捨てるように言った。

「それをわかっているのは、おまえだけだ。父上や母上が、権力など欲しがってはいないと、そのような理由でわたしを引き取り、育てたわけではないのだと、おまえにはわかっている。だが、ゼーゼマン家にはわからなかった。いや、宮廷の誰にもわからなかったのだ。権力になど目もくれぬ、奢侈になど心動かされることのない人間が、この世に存在すること自体、奴らには理解できなかったのだ」


お兄様は暗い瞳で虚空を睨んだ。

夕暮れの光が窓越しに差し込み、お兄様の顔を照らしている。

静かに怒っているお兄様は、美しいんだけど、やっぱり怖い。


「王妃殿下が秘密裡に調査されたことだが、両親はゼーゼマン家の雇った暗殺者によって殺された。貴族の暗殺に、王妃殿下のご実家が関わっていたと知れれば、宮廷は大混乱に陥るだろう。だからわたしは、王位争いから降りたことを表明するため、デズモンド家の爵位を継承し、騎士として王太子殿下に仕える誓いを立てたのだ」

お兄様は小さくため息をつき、私を見た。

なんだか悲しそうな顔だった。


「……本来なら、わたしが名乗るべきではない家名だ。ミルが成人した後は、爵位はミルに譲るつもりでいる」

「え、でも爵位を譲ったら、お兄様はどうなさるんですか」

「どうもならん。騎士をつづける」

「えええ……」


私は戸惑ってお兄様を見つめた。

これは想定外の展開だ。

ミルが成人するまでのつなぎとして伯爵を名乗り、その後は無爵となるなんて、お兄様の使い捨て感がひどい。

そんなことしたら、私とミルのほうが悪役になる気がするのですが。


「えー……、お兄様、べつに爵位をミルに譲る必要はないのでは? こう言ってはなんですが、ミルよりお兄様のほうが、絶対、領主に向いてますよ」

ミルは頭はいいのだが、優しすぎて領主には向いていなさそうな気がする。

どちらかと言えば、文官として宮廷入りし、どこかの研究職を得るのが本人も周囲も一番幸せな道ではなかろうか。


そう指摘すると、お兄様は軽くかぶりを振った。

「ミルならば、いい領主になる。元々、わたしはいなかったはずの人間だ。ミルが受け取るはずのものを、わたしが掠め取っているのだ。それは正さねばならん」

「……お兄様、ミルには優しいですね」


前々から思っていたが、お兄様はミルにすごく気を使っている。

小説の中でも、偽聖女の私を庇ったとしてミルを罰しようとする動きがあったのだが、お兄様の鶴の一声でミルは無罪放免となった。

もしかして、お兄様はずっとミルに対して罪悪感をもっていたのだろうか。

元々ミルのものだったはずの爵位を名乗ったことを、後ろめたく思っていたのだろうか。


しかし、世が世なら、お兄様は王族として、蝶よ花よと大事に育てられただろう存在だ。

それなのに、由緒だけはあるが財力は下から数えたほうが早い貧乏貴族として生きていくことになってしまったのだから、それを後ろめたく思う必要なんて、まったくないと思うのだが。


お兄様のトラウマ、根が深い。

私はお兄様の陰鬱な顔を見つめ、ため息をついた。

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