24.お兄様の誤解
その後、私は酸欠状態で倒れそうになったため、王宮の控室で休ませていただくことになった。
お兄様も傍についてくれているのだが、正直、お兄様の顔を見ると笑いがこみ上げてくるので、いないほうがありがたいんだけど。
「お兄様、もうお仕事にお戻りになって下さい。私、しばらく休ませていただいたら帰りますので」
王妃様のお心づかいで、馬車も手配済みである。
さすが王妃様。お金の心配なしに、さらっと馬車を用立てて下さるとか、お金持ちは違う!
ていうか、馬車は王妃様個人所有のものなんだよね。家族一人につき一台、スーパーカーを所有しているセレブ一家みたい。実際、国一番のセレブなわけだけど。
「……今日は休みをとっている。おまえが仕事の心配などする必要はない」
「え、うそ」
私は驚いてお兄様を見た。
「お兄様が仕事を休むなんて、どうなさったんですか。大丈夫ですか?」
平気そうに見えるけど、ひょっとしたら高熱があるとか?
お兄様の顔を覗きこもうとすると、ふいっとお兄様が私から顔を背けた。
「お兄様?」
「今日は……、辛い思いをさせて、すまなかった」
お兄様の言葉に、私は息を飲んだ。
「お兄様、どうなさったんですか。私に謝罪するなんて。最近、おかしいですよ」
この前も、私に謝ってたし。
どうしちゃったんだろう。ほんとにどっか具合が悪いのかも。
お兄様は、ふう、とため息をついた。
「今回、王妃殿下の申し出を受けたのは、両親の事件について、おまえにも説明が必要だろうと思ったからだ。……だが、おまえに聞かせるべきではなかった。すまない」
あ。
お兄様、すごい誤解してる。
私が、両親の死に王妃様のご実家が関わってたと知って、ショックで倒れた、って思ってる?
いや、冷静に考えれば、当然そうか。
まさかお兄様のミドルネームの由来にショックを受けて、笑いをこらえてたら酸欠になって倒れたとか、そりゃ思いつかないよね……。
正直、両親の死は、どう足掻いても避けられない結末だったのだと、今ではそう思っている。
今、私が偽聖女になりかかっているのと同じく、どんなに避けようとしても、巡り巡って同じ結果になっただろう。
どちらかと言えば、両親の死に責任があるのは、前世で結末を知っていた私にある。
お兄様が責任を感じる必要など、一切ないのだ。
申し訳ないことをした。
「お兄様……、あの、ご心配おかけして、私のほうこそ申し訳ありません。その、私、そんな辛いとか、そういうアレではないので……、ちょっと驚いてしまって、それで」
しどろもどろに言い訳する私を、お兄様がそっと抱きしめた。
「おまえが気をつかう必要はない。……わたしが悪かったのだ」
うーわー、お兄様、ほんとにめちゃくちゃ気にしてるっぽい。
罪悪感で胸が痛む。
「いいえ、ほんとに私、少し驚いただけで……、あの、落ち着いたら、お兄様から、王妃様のお話を伺ってもよろしいですか?」
避けられない結末だったとしても、やっぱり両親の死について知りたいとは思うしね。
それに、今のところ着々と小説通りに現実も進んでしまっているが、最終的な血まみれエンドを受け入れるつもりは、さすがにない。
王妃様のお話しから、対策できることはしておかないと。
「……ああ、おまえがそれでいいなら、そうしよう」
お兄様は私を抱きしめたまま、ささやくように言った。
うわあー、お兄様があり得ないくらい優しい。
どうしよう、申し訳なさすぎる。
「……ごめんなさい、お兄様」
私がつぶやくように言うと、お兄様は何も言わずに、私を抱きしめる腕に力を込めた。




