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【書籍化】異世界でお兄様に殺されないよう、精一杯がんばった結果【コミカライズ】  作者: 倉本縞


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16/100

16.お兄様が最終形態に進化してしまいました

ミルが学院に入学してしまったため、帰省時はお兄様と二人きりの時間が増えた。

つまりは、叱られる時間が増えたということなのだが、今回ばかりは大丈夫。


組紐の賄賂効果は、驚くほど絶大だった。


さっきまで目をつり上げて怒ってたのがウソのように、お兄様の表情が柔らかい。

いつも眼光鋭く睨みつけてくる視線が、甘く蕩けている。


まさか、組紐ひとつでこんなに態度が変わるとは。

もっと前に買っておけばよかった。


お兄様はソファにゆったりと寛いで座り、かすかに微笑んで私を見ている。

怒っていても美形だと思っていたが、機嫌のよい美形とは、こんなにも美しいものなのか。

なんか瞳もきらきら輝いてるし、思わずひれ伏したくなるレベルの麗しさだ。

お兄様は闇の伯爵なんて言われてるけど、こうしてると光の王子って感じ。


「お土産なんですけど、ミルの分も買ってきたんです。お兄様からミルに渡していただけますか?」

「ああ、わかった。……おまえの髪の、それもフォールの街で買ったのか?」


あ、気づいてたのか。

丸刈りにでもしない限り、女性の髪型に注意を向けることなどない人だと思ってたんだけど。

それとも、よっぽどこの組紐が気に入ったのかな。


私はちょっと横を向いて、組紐がよく見えるようにした。

今日は髪をハーフアップにして、組紐を花のような形で結んである。


実はこの組紐、ラッシュに買ってもらったのだ。

お兄様とミルの分を買ってる間に購入してくれたらしい。

「マリーさんには、淡い色が似合うと思って」と、ちょっと赤くなりながら淡い緑色の平紐を渡してくれたのだ。

なんというイケメン! 惚れてしまいそう!


「これも同じ店で買いました。あ、いえ、買ったのは私じゃないんですけど」

「……なんだと?」


買ってもらった時のことを思い出し、私はニヤニヤしてしまった。

ラッシュは、ほんとに素晴らしい騎士道精神の持ち主だ。

その後のエスコートも完璧だったし。


「向こうで知り合った騎士様に買ってもらったんです。ほら、フォール地方に新しく砦ができたでしょ? そこに常駐してる騎士……」

言いかけて、私は急激に冷えた室温に気づき、お兄様のほうに顔を向けた。


そこに悪鬼がいた。


「……お、おに……? え、どう……」

「……騎士?」

これぞ血まみれの闇伯爵、と言いたくなるような、背景に雷雲を背負ったお兄様の様子に、私は息を飲んだ。


えっ? なんで今この段階で、お兄様が小説最終形態に進化しちゃってるの?

私が殺されるにしても、まだあと半年は猶予があったはずだよね?


「……先週末」

お兄様がドスのきいた声で言った。


「その、騎士とやらと一緒に、おまえは街に行ったのか?」

「えっ? えええ……、ああ、ええ……、その……」

「なぜ答えぬ」


お兄様は立ち上がり、ゆっくりと私の座るソファに近づいた。

ソファの肘掛け部分に手を置き、私の顔を覗き込む。

切れ長の黒い瞳が、射抜くように私を見た。

「答えられないようなことを、していたのか?」

「いえっ! なになになにをおっしゃいますことやら! なんでもお答えしますとも!」

だから拷問はやめて!


ていうか、なぜ闇の伯爵モードになってるんですかお兄様!

さっきまでは光の王子モードだったのにー!


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