13.パトラッシュと一緒
そんなわけで週末、私は優しいイケメン騎士にエスコートされてお買い物、という人生初のパラダイスを堪能していた。
こんな幸せ、今まで経験したことがあっただろうか。いや、ない。速攻で答えが出る。
私は、ゆっくり隣を歩くラッシュを見上げた。
柔らかそうな茶色の髪に優しそうな緑の瞳が印象的な、非常に好感度の高いイケメンだ。
単に顔の美しさだけで言うなら、ラス兄様の圧勝だが、ラッシュは親しみやすい美形で、イケメンという言葉がぴったりする。
お兄様レベルの気おくれするような美形より、ラッシュのほうが好みだという女の子も多いだろう。
「マリーさん、お腹すきませんか? あそこの屋台が人気みたいなんですけど、どうでしょう?」
「いいですね!」
人混みではぐれないようにという気づかいなのか、ラッシュがそっと私の手を握ってきた。
家族以外の男性に手を握られたことなど皆無の私は、それだけでドキドキしてしまった。
ああ、フォール地方に来てほんと良かった!
こんなデートみたいなこと、この世界でもできるとは思わなかった。
まあ、ラッシュは騎士道精神を発揮して、こっちに来たばかりの私を気づかい、街を案内してるだけなんだろうけど。
屋台で売っていたのは、軽く炙ったパンに魚や肉などの具材を挟んだ、ホットサンドのようなものだった。
私は魚、ラッシュは肉の具材を選ぶと、ラッシュがお金を払ってくれた。
「ありがとうございます、ラッシュさん」
「これくらい、いいですよ。マリーさんにはいつもお世話になってるし」
照れくさそうな笑顔がまぶしい。
これから何かツラいことがあっても、イケメンにお昼おごってもらった事実と、この笑顔を思い出せば、何とか生きていけるような気がする。
屋台に併設されているベンチに並んで腰かけ、私とラッシュはパンにかぶりついた。
「おいしー!」
「そうですか、良かった」
お世辞抜きでうまい。
毎日、自炊続きだから、こういうちょっとジャンクなお店の味に飢えていたのだ。
うまいぃ~とホットサンドもどきを味わう私に、ラッシュがすっと自分のパンを差し出した。
「あの、良かったら、僕のも味見してみませんか? ちょっと辛いですけど、おいしいですよ」
食べかけなんて失礼かもしれませんが、とちょっと困った風に笑う顔も、すばらしくイケメンだ。
まあ、たしかにあまりお行儀は良くないかもしれないが、屋台での食事なんだから、そんなマナーにこだわる必要もないだろう。
私はラッシュのパンを受け取り、代わりに自分のパンを差し出した。
「じゃあ、私のもどうぞ。こっちは塩味でさっぱりしてますよ」
「ありがとうございます」
私の差し出すパンを受け取り、ラッシュが輝く笑顔で私を見た。
優しいイケメンと、パンを取りかえっこして食べるとか。
ここは天国ですか! パトラッシュが天国に連れていってくれたんですね!




