平和のためにしてきたこと。
全てが終わったその後の話
俺は今、国から別荘から外を眺めている。 とても穏やかで涼しい風が俺を突き抜けていく。
「あれから半年・・・ようやく俺にも安息が手に入ったなぁ。」
俺は染み染みと独り言を呟いた。
あの神が去ってからの半年間、俺達は混乱を大きくしないために、様々な場所へと足を運んだ。
それこそ最初に行くのはマーキュリー国土の場所だと思っていたのだが、ミカラ様がその辺りは何とかしてくれた。 というかなんだかんだで全部の場所を回ったお陰か、俺の事が知れ渡っており、事の顛末を聞く前に納得したらしい。 時間を掛けてでも国土を回った甲斐はあったってことだ。
それでも多人数を相手にそこまで浸透するとも思えない。 ならどうして出来たのか。 ミカラ様や俺の名前の他にも、ベルジアとファルケンの名前が上がっていた事から、その場所を中心に広がっていったようだった。
ならばと俺達は今まで訪れた国へと飛んでいった。 マーキュリーがどのくらいの距離にあるかは分からないが、少しでもあの神が影響を与えていないと信じながら空を飛んだのだった。
最初に行ったのはオストラレス。 マーキュリーから最初に行った国であるので、なにかしらは反応があると思ったからだ。
俺達はアレクに会いに行くために例の小さな家へと足を運ぼうと思ったが、よくよく考えればあそこに入ったのは俺とベルジアだけだったので、みんなには俺達だけで行くので観光と街の人たちの様子を伺ってくれと言って、俺とベルジアのみを残して例の場所に入ることにした。
そこは俺達が最初に訪れた時のように殺風景な室内だった。 そして物音に反応すれば、そこには最初に会った時よりも背の伸びたアレクがいた。
「お久しぶりです。 セイジさん。 ベルジアさん。」
「あぁ。 久しぶりだな。 用件は・・・その様子だと察してるか?」
「ええ。 概ねは。 ですがセイジさんが心配するようなことは、我が国では起きていません。」
「そうか。 それならいいんだ。」
「しかし僕も随分と大人びたように感じましたが・・・お二人にはまだまだ敵わなそうです。」
そう言われて俺とベルジアは互いを見て肩を竦めるのだった。
その後も俺達が旅した国や街で色んな聞き込みをした。 大体の国は影響が出てないことから、恐らくマーキュリーを制覇してから他の国に乗り込みに行く計画だったようだ。 それが根こそぎ崩れればほとんどなにも起きないだろう。
とはいえ一番影響を受けたマーキュリーに関しては色々と準備や説明が大変だった。 あの神の演説についても、その間ミカラ様はどうしていたのだとか、結局脅威は去ったのかとか、かなり大掛かりな質問攻めにあっていた。中には俺達の事で他国に対して変な干渉をする気では無いかと言うごくごく少数な意見も見受けられたが、その辺りはミカラ様が「そのようなことはありません」とバッサリと斬った。 まぁ相手は貴族クラスの人間だったが、元々の信頼が厚いミカラ様の前には無意味だったようだ。
そんなこんなであの神の影響があまりにも少なくって拍子抜けだと思ったのもつかの間。 なんだかんだで信仰心を募っていた、というよりもあの神が落とした最初の転生者のダイトが勇者の末裔だとのホラを信じた人達が俺に文句を言ってくるなんて事もあった。
やれ「勇者をどこへやった」だの「魔王に戦わせに行かせろ」だのそんなのばかりだ。 ばかりだったから俺はその中でも一番強い奴とカードゲームを行い、制約としてでは無いものの、ダイトは勇者でなかった事を知らせた。 逆に勇者について聞いてみたが、誰もなにも知らなかった。 あいつのホラってなんだったんだろう?
この辺りまでが神が去ってからの2ヵ月間程の話。 それでも俺に安息が訪れなかったのは、ミルレとの婚約準備やら俺への突然インタビューと称した情報屋とのやり取りやら、猛者としての果たし状やらを終わってからひっきりなしにやっていたからだ。 最も果たし状なんてものは旅行として出向いた国で必ず1人は現れた。 その度にデッキの中身がコロコロと変わっていったせいで、最初から入れていたカードはいつの間にか数枚になっていた。 ほとんど原型が無いと言ってもいいだろう。
そんなこともあって色々と疲弊した俺は、端的に言えば逃げるようにしてこの別荘へと帰ってきたのだ。 他に家もないので「別荘」とは違うと思うが。
「こうしていられるのも、俺があちらこちらに出向いたからだろうな。 ったく、あの一回だけでなんでもかんでも言ってきやがって。」
溜め息混じりになりながらも昼間の太陽の暖かさと風の心地よさでそれも思い出だと振り替えることが出来る。
「ご主人様。 お昼が、出来上がりました。」
ベランダの方からアリフレアの声がしたので、軽く返事をしてそのまま入る。 そこには料理を運んでいたアリフレアと、既に着席しているミルレの姿があった。 昼間の木漏れ日もあってか、幼くも絵になっていた。
完全にやることが無くなった俺達はミルレとの婚約の後、それぞれへと散っていった。 ベルジア、ファルケン、零斗さんは帰る場所へ、ゼルダとサヴィは俺達が行かなかった国へと旅に出た。 サヴィの場合は俺と「テレパシー」が出来るので、たまに近状報告が飛んできたりもする。
俺とミルレに関しては、最初こそミルレの住む宮殿のような場所で一緒に暮らす手立てになっていたようだが、それは俺の方から申し出を断った。 個人的にはああいった雰囲気は苦手だし、サヴィ程ではないがまだまだ色んな所を見て回りたい。 もう少し本音を言えばカードゲームをしていきたいのだ。
そんなわけで俺はここに3人でいる、ということだ。アリフレアの件に関しては身寄りの無い少女として、そしてミルレと同年代として一緒に居させてはやれないかと申し出た所あっさりと了承を貰えた。 ミルレが箱入り娘にならないようにと、同じ年齢の友達がいてもおかしくはないと言う王様の粋な計らいからきたものだった。
「なにをなされていたのですか? セイジ様。」
「うん? このところ忙しかっただろ? それがようやく一段落着いたってことで、ちょっとゆっくりしてたんだよ。」
「ご主人様は、色んな所へ行って、疲れが、なかなか取れなかったように、見えましたし。」
「そういうこと。 だから今は少しでも」
「英気を癒したいって感じだな。」
俺達ではない声に驚きそちらを見る。 そこには破壊神がどこからか用意された紅茶を飲んでいた。
「あ・・・あなたは誰ですか!? そもそもどうやって・・・」
「落ち着いてミルレ。 見た目は怪しいけれど悪い人じゃないから。」
「へっ。 それが初対面に説明する言い方か?」
そう軽快に笑う破壊神。 必ずしも恐れ多い存在であれとは言わないが、威厳が若干薄くも感じる。 そんなので良いのかと。
「それでなにしに来たのですか? そう何回も来ていい場所じゃ無いでしょうに。」
「ああ。 今回は手短にしようと思ってる。 なにせ創造の神には話してないからな。 お前に会いに行くことを。」
「・・・なら早く済ませてください? 個人的には巻き込まれたくないので。」
「相変わらず話が分かる奴だ。」
そりゃどうもと適当に流す。 アリフレアとミルレは話が分からないだろうと察したのか、そそくさと俺の食べ終わった食器を持って、キッチンの方に向かった。 恐らくは話が終わるまでは戻らないつもりだろう。 空気が読めて助かる。
「それで?」
「まあまずあいつの処遇だが、教育のし直しが必要だと満場一致でな。 今頃は色んな神からのお勉強を食らってるよ。 使えもしない神の力を使ったんだ。 使い方から神がなんたるかまで色々だよ。」
「そうですか。 消されなかっただけマシですね。」
「お前達の所には二度と行かせないように監視もさせてるからな。 で、もう1つそいつが送った奴らも、正しい世界に送り直したとさ。 俺からしてみたら余計だと思うがな。」
その辺りもまあいいと思う。 どうせ二度と会わないんだから、こっちがどう思おうが関係ない。
「ま、俺が言えるのはこれぐらいだ。 それと今回の不手際を解決したってことで、神の力でなんかさせてくれるらしいぜ。」
「そうなんだ。 ・・・それって有効期間とかあるの?」
「っとと。 そう言うと思ったぜ。 無期限とまでは言わないが、なるべくなら早くした方が互いのためだぜ。 それじゃあな。」
そう言って破壊神は跡形もなく消えていった。 正しく嵐のような神だった。
「神様の力ねぇ・・・」
そう呟きながら俺は自分の右手を見る。
あの神を戻してからあの力はまるで最初から無かったのように力を失っていた。 いや、そもそもあの神が送った転生者を戻すために貸してくれた力だ。 返したと言った方が早いのだろうか?
別に力を信じていない訳じゃない。 だがこれ以上なにを貰うべきだろうかと考えてしまう。 衣食住は満足している。 今だけかもしれないが平和もある。 慕ってくれる者もいる。 ならば今は必要ないだろう。
「神様の力ねぇ・・・」
「ご主人様、お話は、終わりましたか?」
ひょっこりとアリフレアが覗き込んできたので、それに微笑み返して、手招きをする。 神の力か。 はてさて、どうやって使うかねぇ。
彼の冒険は終わりましたが物語はもう少し続きます。
そして次回でこの小説は最終回になります。 どうぞ皆様最後の最後までお付き合い、よろしくお願いいたします。




