本当の終局
最初はアリフレア 途中からセイジ視点になります。
私はどうなってしまったのだろう。 最後に聞こえたのはサヴィさんの私の名前を叫ぶ声。 そこからはどうなったのか分からない。 急に目の前が真っ暗になって、でも目を瞑っている感覚はあって、目を開けてみる。
そこに見えたのはご主人様が戦っている姿じゃなかった。 とても不思議な空間。 自分が立っているのか分からない空間だった。 そこで私は悟った。 自分は死んでしまったのではないかと。 夢のようなこの空間は、もしかしたら天国なんじゃないかと。
「・・・ご主人様と・・・離れ離れ・・・」
その事実に気がついた時、私は涙が出てきていた。 ご主人様にさよならも言えないで、勝手に天国に来てしまったことを、自分で自分を許したくなかった。
「・・・嫌ですよ・・・ご主人様と・・・離れ離れ・・・なんて・・・もっともっと・・・一緒に・・・」
そんな時後ろから別の光が私を差した。 眩しいはずなのにとても暖かな光。 その中から1人の女の人が現れる。
「アリフレア・ナルティさん、ですね。」
声も凄く穏やかで、初めて会う人の筈なのに全く嫌な気持ちにならなかった。 それだけこの人がいい人なんだと思った。
「ごめんなさい。 貴女がこんなことになるなんて思いもしなかったの。 これも私達の不届きのせいね。」
「あの・・・?」
「あ、そうよね。 こっちが勝手に喋っていたら分からないわよね。 私は、そうね、勿体振らずに神様ってことにしておくわ。 細かい事は分かんないだろうし。」
神様って本当にいたんだと思いつつも、私はどう聞けばいいのか分からなかった。 涙を流すことは無くなったけれど、色んな事を聞きたかった。
「あ、あの、神様。 私、これからどうなってしまうのでしょうか?」
「そうね。 それは聞きたいことよね。 でもまずは先に謝りたいの。 貴女は巻き込まれたとは言え、ここに来ることは無いの。 来たとしてもまだまだ全然先だった。 だけど一度は亡くなった身としては、ここには来ることになっているの。」
そのあとに神様は一呼吸を入れた。
「でもね。 貴女はここに来るべきではないし、まだやりたいこともある筈なの。 だから貴女にはセイジ君の所へと還してあげることにしたの。 私も含めた神様みんなの合意の上でね。」
「ご主人様を知っているのですか!?」
「知っているもなにも、彼を送ったのは私よ? 正確には違うんだけど、まあそう言うことにしておいて。」
確かにこう言った人にならご主人様のような人が来てもおかしくはない。 むしろあの神様以外で神様を知らなかったので、とても安心した。
「貴女たちの事はセイジ君を見ていると一緒に見えてくるわ。 最初の頃の貴女を見てみると、とても成長を感じるし、彼自身にも誇りになってると思うわ。」
「誇り・・・というのは・・・?」
「自分の力で誰かを救えたこと、だと思うわ。 そこからは肝を冷やした場面も少なくはなかったけれど、それでも彼はこの世界で生きていく事を決意して、なに不自由無く生きていることが伝わってくるわ。」
私が誇りになっているとは思ってもみなかった。 私は救われた小さな女の子としてしか見ていないと思っていた。 だけどご主人様は私を拾ってからすぐに身だしなみを整えて、美味しいご飯も食べられて。 だけれど他の人が増える度に、私は、私が一緒にいる理由がどんどん無くなっていったような気がしていた。
「私は・・・」
「こんなことを聞くのもちょっと酷かも知れないけれど、一応聞いてもいいかしら?」
なにを聞いてくるのかは分からないけれど、そんなに難しい質問はしてこないと思う。 そう言った人じゃないのはなんとなく分かっているから。
「貴女は新たな世界で別の道を進みたい? それとも命を戻して同じ道を歩みたい?」
そう質問をしてきた神様。 私の未来を決める質問。 どちらを選んでも、この神様は文句を言うことは無い。 別の世界に行って、弱気な自分を見つめ直すのも悪くないと思う。 だけど、私は・・・
「私は・・・ご主人様の・・・隣に・・・寄り添いたい・・・です。 私の居所は・・・ご主人様の・・・近く・・・ですから。」
そう言うと神様は、私に最初に会った時のような微笑ましい笑顔を見せてくれた。
「・・・ふふっ。 セイジ君が最初に仲間にしたのが貴女で良かった。」
「え?」
「なんでもないわ。 それじゃあ貴女をこれから元の場所に戻すわ。 セイジ君のことを、これからもよろしくね。」
そうして一層強い光に包まれる。 私はその明るさに目を開けていられずにそのまま目を瞑った。 そして次に目を開けた時には、目の前にご主人様の私を心配そうに見守る顔があった。
―――――――――――――――――――――
決して長い時間ではなかった。 だがあまりにも無知たるアリフレアが還ってくる事を願っていれば、どれだけ時間が過ぎようと関係無かった。
そしてその終わりの時は訪れた。 アリフレアが目を覚ました。 息を吹き返したのだ。
「ご主人様・・・?」
起き上がったアリフレアは、自分になにが起こったのか分からないのか、それともまだ視界が開けていないのか、虚ろながらも声は発していたのでそれ以上はなにもないようだ。
「アリフレア!」
俺は感極まってそんなアリフレアを力強く抱き締めた。 身内が死にかけた事も、その状況下で息を吹き返した事も、前の世界では無かったので、色々と感情が渦巻いてはいたが、アリフレアが生き返った事だけは本気の喜びを感じていた。
「ご、ご主人様・・・あの・・・」
アリフレアの声に俺はハッとしてすぐに抱くのを止める。
「わ、悪かったなアリフレア。 急に苦しくしてしまって。」
「いえ、大丈夫です。 ・・・出来れば、もう少しだけ、ご主人様の、温もりを、下さい。」
その要望に俺は、先程よりも優しく包むように抱き締める。 アリフレアも安心したようで、ゆっくり身を寄せる。
「本当に良かったッスよ! アリフレアちゃん!」
「良かった・・・アリフレア・・・」
「本当に色んな経験をしてきたつもりだったけど、まさかこんなことをする羽目になるとはね。 でも次はやりたくないわね。 あたいとしても。」
ファルケンやミルレ、サヴィが声をかける。 みんなもアリフレアが還ってくる事を一心に思っていたので、感極まっているのだろう。
「それにしてもまさかAI領域で傷害が発生するとは。 盲点と言えば盲点だっただろうな。」
「ボク達にも干渉があるなんて思わないよ。 でもこればっかりはどうしようも無いんじゃない? AI領域って言っても、肉体は本物だし。」
「無粋な真似をするなということで御座ろうか? しかし観測者がいなければこのような事象も分からないで御座ろう。」
残りの3人は今回の事を重く感じているようだが、流石に神様が作ったルールだ。 そんな簡単には変わらないだろうな。
「ご主人様。」
「うん? どうしたアリフレア。」
「私、女神様に、会ってきた、んです。」
「女神様?」
「はい。 ご主人様を、この世界に、送った、女神様だと。」
ああ、そう言うこと。 確かに俺が死んだ時も魂だけ持ってきたとか言ってたなぁ。 変な神様のところに行かなくて良かった。 変な神様っていうのもおかしいが。
「それでその・・・ご主人様の事を、これからも、よろしくねと、言われました。」
「・・・そっか。」
そう言って俺はアリフレアを抱くのを止め、今度は頭を優しく撫でてやる。
「女神様も心配性・・・って言うのはおかしいか。 まあ自分なりに生きるさ。 これからもな。」
そうここにはいないであろう女神様に伝えた後に、俺は曇り空から光の木漏れ日が出ている空を、バルコニーから眺めた。
「終わったんスよね。 脅威は去ったんスよね。」
「いや、まだまだこれからだろう。 この場所の当事者にあたる私達が、伝えに行かなければならないのだ。 事の顛末を。 脅威の度合いを。 それでも勝ち取った安息を。」
ベルジアの言う通りだ。 このマーキュリーだけでもかなり混乱に陥った。 なにが起きたのかと問われるのは恐ろしくミカラ様だろう。 そしてその国の長が「なにが起きたのか分かりません」では示しがつかないし、普通に納得しないだろう。 だからこそ当事者の俺達が、全てを説明しなければならないのだ。 たとえデタラメだと言われようとも。
「長い道のりになりそうですかね。 セージさん。」
「なるんじゃないかしら? ゼルダちゃんやファルケン君が一緒に付いているセイジ君の話をまともに相手してくれるなら、それだけ面倒は減るけどね。 かくいうあたいやミルレも、普通の人じゃないし、誤解を解くところから始まりそうだけど。」
それはまた骨が折れそうだ。 なんてったって俺達のメンバーの半分は人ではない。 いや、正確には人族ではない。 反発やら衝突は避けられないだろう。
「それでもやるしかないさ。 それが俺達のこれからの使命だ。」
本当の平和が訪れるのはまだ先の話。 だが着実に進めるためにも、俺達がやるしかない。 そう決意を新たに、晴れた空を見ていた。
話としては終わりですが、物語としてはもう少し続きます。




