アリフレアの「死」
前回からの続きです。
今回はサヴィ視点になります。
あたいは敵がなにかをしてくることを動作で分かった。 恐らくは自分が不利になってきた事、そしてこの場ではあたい達以外に目撃者がいないので、何が起きても黙認されるかもしれない。
だけどセイジ君を狙ったところで無駄なこと。 セイジ君には黙っているけれど、彼の周りにはあたいが掛けた防衛魔法がある。 完全に止めることは出来なくても、致命傷は避けられる程度には厚い。 だからもし攻撃をしてきたのならそれ相応の対処をしようと思っていた。
しかし攻撃はセイジ君に当たることはなかった。 むしろ最初から狙っていなかった。 そしてその狙いを改めて見た時には
既にアリフレアちゃんの心臓に当たる部分から血が滲み出ていた。 そしてそんな彼女本人も何が起きたのか分からないままうつ伏せに倒れていった。
「アリフレア!」
私は叫んだ。 そしてすぐに倒れたアリフレアちゃんにありったけの回復魔法をかける。
「何故・・・だ・・・何故アリフレアが命を落とさねばならない!」
「こんなことって・・・だって・・・アリフレアは関係無いじゃないか!」
「くっ・・・敵の攻撃の意図が読めなかった・・・拙者の・・・守るものも守れない拙者の落ち度で御座る・・・」
ベルジア君はアリフレアが心臓を貫かれた事を叫び、ゼルダちゃんは事の顛末を理解しようとしつつも、心の底では拒絶をしている。 レイト君は自分の無力さを嘆いているが、あたいでも見えなかった攻撃を分かる方が至難の技。 無理を強いているだけに過ぎない。 そしてファルケン君とミルレちゃんは必死にアリフレアちゃんに声をかけている。
「空けられた心臓の穴はすぐに塞いだわ。 後はあたいが全身全霊で回復魔法をかけるけど・・・あたいでも死んだ人間を生き返らせた事はないから、アリフレアの鼓動が完全に止まる前に目を覚ましてくれればいいけど・・・成功確率は1割5分、良くて2割・・・」
「俺っちのも使ってくれッス! 魔法は使えないけど、魔力自体は俺っちの中にもあるッスよね!? なら存分に使って欲しいッス!」
そんなファルケン君の言葉を受けたのはいいものの、あたい自身も戸惑いはあった。
「勿論他人の身体の中にある魔力を使えば多少は成功率は上がるわ。 けれどみんなの魔力はそこまで多くない。 上がったとしても1割にも満たないわ。」
「満たなくても生き返る可能性があるのなら我々は全力で捧げよう。」
みんなが何も言わずに手を差し伸べる。 あたいにしか出来ない事だと分かっているからこそ、託してくれるのだろう。
「分かった。 みんなの魔力、貰うわよ。」
そして差し伸べられた全員の手から、みんなが倒れない程度に魔力を貰う。 そしてそれを全てアリフレアの回復に回す。 これでも上がったのはほんの数%。 微々たる程度でも全力で頑張るしかない。 そんな風に思っているとすぐに魔力は乱れ、アリフレアの生存確率が下がる。 集中しなければ。
「サヴィさん、凄い汗だよ。 無理は・・・」
「・・・あたいの心配は大丈夫。 問題なのは・・・」
ゼルダの心配を余所に回復を続ける。 だけど重要なのはそこではない。 この場において一番精神的に苦痛を強いられる人物がいる。 あたいはその人物を、セイジ君を見る。 振り向いた彼の目には困惑と悲愴感が映っていた。
「ア、アリフレア・・・な、なんで・・・」
セイジ君自身も、狙いは自分だと寸分違わず思っていた。 いや、むしろそれが自然だと言わざるを得ない位に確信すら持っていたことだと思う。
だけど狙いが逸れたならまだ良かったもので、狙われたのが仲間、しかも一番道中を共にしてきたアリフレアが、何の前触れもなく倒れ、血溜まりを作っているのを見てしまえば、動揺以上のなにかを受けていた。
「フフフフフ。 ハハハハハ。 ハーッハッハッハッ! そうだ! 人とは脆いものだ。 本来ならばこうして命を落とすのは簡単なのだ!」
あんなことを起こした本人は高笑いすらしている。 あたい達ですら予想できなかった行動に対してご満悦のようだ。
「貴様・・・そうまでしてセイジ殿から勝利を得たいのか!? わざわざ幼子を手にかけてまで、自分の栄光を掴み取りたかったのか!?」
あたい達の中では最も魔力の少なかったレイト君がいつになく激昂した。 人の死と隣り合わせで戦ってきた彼でさえも、アリフレアちゃんが何故狙われたのか理解し得なかった。 いや、この場合は何の関係もない子供の命を奪ったことに対して、得も言えない怒りが湧いたのだろう。
「なにさ。 僕と彼の戦いだったのに他の無防備な人間が入っているのがおかしいんじゃないのかい? 何人かは人じゃないけれどね。」
確実に逆撫でだろう言葉を吹き掛ける目の前の神。 セイジ君があの神の事を嫌った理由が分かった。 あの神はここにいるあたい達、いや、この世界の人間は「駒」としか見ていない。 自分こそが一番だと絶対的な自信と傲慢があるのだ。
「それに本当は誰でも良かったのだけれど・・・人というものは愛すべき人間が近ければ近い程、不慮の事故でいなくなった時に絶望を味わう。 その人物のいない世界でこれから生きていかなければいけないのだからねぇ。 それが謙虚に出ているじゃないか。 今の僕はそれで満足だよ。」
その神の言う通り、セイジ君は俯いていた。 その俯いた顔から涙が零れていた。 しかしその時は数十秒で終わる。 その後に大きく息を吐いた。
「・・・なんで・・・」
「うん?」
「なんでアリフレアを殺したんだ・・・」
セイジ君は二言しか喋っていない。 それなのに背中を掻き乱される程の寒気が走った。 彼は泣いてなんかいなかった。 いや、正確には悲しみはあった。 だがそれ以上の感情が彼には芽生えていた。 それは
「うーん。 意味はない、とは言いがたいかな。 言っただろう? 僕としては誰でも良かったって。 君を直接狙っても多分この空間じゃあ殺せないからね。 強いて言えば、斜線上にいたのがあの子だったって話でしょ。」
「・・・そうかい・・・ それじゃあお前は人として、神として、命を弄んだってことで・・・いいんだよなぁ!?」
セイジ君の質問に答えた神に対して、セイジ君は怒気を放った。 そう、彼は怒っていたのだ。 アリフレアちゃんの唐突な死、自分の非力さ、それを差し引いても、アリフレアちゃんを直接やった本人の前では、どんな悲しみよりも、仇討ちに対する怒りの方がどんなことよりも勝るのだ。
「な、なんだよ・・・なんでこっちを見る余裕があるんだ・・・もっと悲しむところじゃないのか!? 大切な人が死んだんだろ!?」
「貴様は一つ、勘違いをしているでござるな。」
代わりに答えたのはレイト君だ。 自分が怒っている以上に、セイジ君が怒っているので、反って冷静になれたのだろう。
「人は確かに自分以上に大切な物を失くした時、全てを投げ出したくなる程の絶望を味わう。 それは物にしても人にしても変わらぬで御座る。 しかしそれが故意であったならば・・・自分ではない人の手によって起こり得たものならば、それは人を逆上させる事になる。 例え還らぬ物であっても、だ。」
そして一拍置いた後に更に続けた。
「貴様はこの戦いに置いて、セイジ殿の心を絶望に染め上げようと考え、このような行為に至った。 だがそれはこの場においては逆効果だと伝えよう。」
「な、なんだと・・・?」
「目の敵が眼前にいるならば、報いを受けさせるのが先だと言うことで御座る。 お主は決して撫でてはいけない逆鱗に触れたのだからな。」
レイト君の言うように、セイジ君は完全に怒髪天を突いていた。 悲しみなんかよりも、眼前の仇にしか目が据わっていない。 なりっぱなしのスキルがそれを加速させる。
「・・・ふん。 こっちだって手がない訳じゃない。 だが僕は知っているぞ。 怒りに任せた行動は思考を鈍らせるとね! クールタイムに入って僕はエンディングを迎える。 その鈍った思考でどこまでやれるか見物だねぇ!」
挑発しているようだけれど、既に怒りの頂点に達しているセイジ君には最早正常な判断が出来ないと勘違いしている。 セイジ君の場合は燃え上がるような怒りもありつつも、氷のように冷たい冷徹さもある。 そんな彼を知っているからこそ、聞こえているかいないかハッキリしない状況でこう伝える。
「セイジ君。 アリフレアちゃんの事は、あたいがどうにかする。 だからセイジ君は目の前の敵に集中して。 あなたが負けたら、アリフレアちゃんも報われないから。」
セイジ君からの返事はない。 だけど手に触れた自分のスキルの輝きのみに、今は集中をしていた。
「俺のオープニング、そして、「作られた引き」! プラポレーションタイム! 俺はコストを20支払い、魔法カード「神罰構築」を発動!」
主人公のスキルを発動させる進行上仕方なかったとは言え、自分でもアリフレアのような良キャラに手を掛けるのにはかなり抵抗しました。
次回はそんな主人公が引き起こした神からのスキルのカードから入ります。




