お門違いじゃないのか?
視点はセイジに戻ります。
零斗さんの勝利で幕を閉じた今回の試合。 相手の度肝を抜いたモンスターにより相手は正常な判断が出来ず、防衛に入ってしまったのが、1つの原因とも言えよう。 元々そこまでモンスターも入ってなかったみたいだし、どっちみち圧しきったら勝ちのようなものだったようだ。
そんなことを考えていたら、敵の手にあった魂の塊が一つ一つに分裂していき、倒れている兵達の中に入っていった。
「どうやら全て終わったみたいだな。」
「ああ。 零斗さんの勝利だ。」
「凄かったスッよあのレイトは。 もう本当に負けたかと思ったッスもん。」
「敵を騙すにはまず味方から、って奴ね。 あたいでもあんな戦い方、見たこと無かったもの。」
サヴィの場合は最もだろう。 元々「手札0枚からが本番」なんてこの世界のカードゲームでは簡単には受け入れて貰えなかっただろうし。
「う、うぅ・・・」
そして戻った魂達がそれぞれの兵達の肉体に戻ったのを改めて確認が取れた。 肉体と魂が離れすぎると定着しなかったり、元に戻れなかったりなんていうファンタジーチックな事にならなかったのは僥倖とも言えよう。
「あ、あれ? 俺達・・・?」
「ん? 鎧を着てない奴がいる?」
兵の数人が俺達の事を捉えた。 大方館の中に入ったのが自分達だけだと思っていたのだろう。 信じる信じないはともかくとしても、こちらも素性を明かすとしよう。
「どうもハーキュリーの屈強たる兵士の皆様。 自分達はミカラ様の救援要請を受けて、この館に入った増援部隊のようなものだと思ってください。」
いきなり現れて増援部隊と言われてもいまいちピンとは来ていないようだ。 もしかしたら最近出来た部隊なのかもしれない。 精鋭部隊のような扱いがこんなものでいいのか。 ミカラ様も苦労を強いられていそうだと思った。
そんな風に見ていたら、不意に後ろの扉が開かれる。 敵かと思い警戒をしたが、その人物を見て警戒を少し緩める。 何故ならばその人物は先程俺達に助けを求めてきた新米兵だったからである。
「う、うわぁ。 みんな元に戻ってる・・・」
「少しは気分を落ち着かせれたか?」
「皆さんが心配で戻ってこれたのですが・・・本当に倒してしまったのですね。」
「情報とは異なってはいたで御座るが、ご覧の通り解決したで御座る。」
その様子に驚いている新米兵。 俺達としては当然の事をしただけに、ある意味新鮮さを感じた。
そんなやり取りをしていた中で、複数の殺気を感じた。 振り返るとそこには睨み付けている兵達の姿があった。 しかしその矛先は俺達ではなく、その新米兵の一点に集中していた。
「お前! よくも戦っている俺達を置いて1人で逃げやがったな! 新米のくせに眼前の敵を前にして逃げた奴が、ぬけぬけと戻ってきやがって! この騒動が終わったら・・・」
倒れていた兵の1人が新米兵に近付こうとした辺りで、零斗さんがその行く手を塞ぐ。
「あぁ!? どけおっさん! そいつに用があるんだよ! 敵前逃亡したあいつに躾をしなきゃいけねえんだよ!」
「その判断はまだあそこで眠ったままの上官の命令で御座るか? それともただ自分が彼の上に立っているからという、立場上での判断で御座るか?」
「おっさんには関係ねぇだろ! 俺達はマーキュリー国がおける親衛隊だぞ! あんな恥さらしがいるなんて知られたらマーキュリー衛兵として舐められるだろうが!」
「戦線の状況も判断できずに、ただ仲間の仇と言わんばかりに犬死にを繰り返した汝達の方が、拙者達には既に滑稽に見えるで御座る。」
喚き散らすように零斗さんに当たる衛兵だったが、俺達からしてみても、いくらカードゲームとは言え相手の力量も分からないのでは、戦術的判断はまず無理だろう。 分からなかった現状がああなのだ。 これはミカラ様にとっても課題なのかもしれない。
「拙者も衛兵をやっていた身。 国のために命を掲げるのは至極当然の事。 しかし相手との圧倒的戦力の差を肌身で感じたならば、戦略的撤退を考えるのも、上の立場としては支える糧になるで御座る。」
「・・・その方の言う通りだ。」
唐突に別方向から声がしたのでそちらを見れば、ゴツい鎧に兜を被った衛兵が体を持ち上げていた。 鎧の状態や声色からしてこの隊を仕切っている隊長だろう。
「真っ先に私が勝負を仕掛け、負けた時点でお前達には撤退を命令すれば良かった。 そしてその判断が出来なかった私の甘さが、このような結果を生んだのだ。」
「それにこいつが俺達に相手の事を知らせてくれたから、俺達は事前に戦略を練って挑めた。 状況を察するに隊長がやられたんで、頭に血がのぼって状況を見れて無かったんだろ。 大人数で挑んだ割には誰も勝ててないのがその証拠だ。」
俺が追い討ちをかけるように話すと反論する衛兵はいなくなっていた。 自分の落ち度をただ逃げたという理由だけで「全体の恥」にしようとした時点で統率は取れても個人ではどうにも出来ないんだろうと思った。
「我々では歯が立ちませんでした。 ですが貴方のような力のあるものならもしかしたら・・・ どうかお願い致します。 我が国ハーキュリーを取り戻してください。」
重い鎧に身を包みながらも頭を床まで下げる隊長。 恥も概念もない。 ただ真っ直ぐな想い。 その想いを受け取らなくても、俺達は前に進むことは決めていた。 これ以上新米兵が責められることもないだろう。 俺達は前へと歩を進める。 そして倒された従者に向かってこう聞いた。
「この先にお前を従えている神がいるんだな?」
目は少し虚ろになっているが、返答は出来るだろうと、簡潔に質問した。 するとそいつは首を縦に一度振るだけで終わった。
「ま、それが確認できりゃ十分か。」
「くくくく。 あの方の力は何人たりとも揺らぐことはない。 あの方こそこの世界を持つに相応しいのだ。 ただの人1人くらいどうってことはない。」
「そんだけ虚ろなくせに良くそこまで喋れるな。」
そいつを完全に無視して俺達は扉の前に立つ。 この先は大きなバルコニーの筈だ。
「いよいよ最終局面ッスね。」
「この先に神がいるって考えるとあたいもドキドキするけれど、今はそんな時じゃないわね。」
「ご主人様・・・」
みんなそれぞれが、目の前に現れるであろう神本人に対しての意気込みを見ているようだ。 そして俺は扉に手を掛け・・・ようとして止めた。
「どうしたセイジ? 開けないのか?」
「・・・拙者には分かるで御座る。 敵がどのような戦法を取るか知っていても、それは確実に勝てる保証にはならぬ。 セイジ殿はそれを危惧したで御座るよ。」
流石零斗さんだ。 元々は俺と同じ日本人だからか、考えが似ている。 それ故に俺のやることも概ね分かっているんだろう。
「・・・みんな、俺に時間をくれないか?」
「こんな時にッスか?」
「いや、こんな時だからだと思うよ。」
「準備の時間がいる、と言うことだな。」
みんなそれなりに長い時間旅をして来たからか、俺がこれからやろうとしていることが分かるのだろう。 そんなことを思っていたら、変な空間が俺達を包み込んだ。
「時間を操る魔法は本来あまり使ってはいけない禁忌の魔法だけど、時間の流れを遅らせる魔法だけは、特定の人物なら使わせてもらえるの。 今この空間だけ時間の流れを1/60にしたわ。 あたいが出来るのはこれくらい。 あたいじゃ恐らくだけど、その神とやらに勝てない気がするの。 だからセイジ君が頑張るしかないの。」
「サヴィ・・・ありがとう。 この空間を存分に使わせてもらうよ。」
そして俺は自分のデッキ、そして今まで触ってこなかったデッキパックを改めて全部引く。 そしてそこから組み替えられる部分のデッキをとことん組み替える。
新米兵の言っていたことが正しいのであれば、こちらとしてもそれ相応のカードを使わなければ恐らく勝てない。 俺は自分を送ってくれた神様から力は授かってはいるものの、それはあくまでも勝った時の特典のようなもの。 バカスカ使えるものでもない。 それにあいつもなにをしてくるかまだ予想が出来ない。 純粋にカードバトルで済めば良いが・・・
「・・・良し。 これで行くか。」
「セイジ、奴と戦う前に一戦交えておくか?」
「いや、止めておくよ。 このデッキは奴の戦略を考えて作ってある。 多分普通の戦いなら負けるだろうぜ。」
「それだけ厄介って事なんだね。」
「サヴィ、時間を元に戻してくれ。 ・・・開けるぞ。」
そうして俺は扉を開ける。 開ければ空には黒い雲が覆い被さっている。 そしてバルコニーで、この館に入ってから散々見てきた、奴の後ろ姿があった。
「ようやく本体と会えたな。 神様よぉ。」
いよいよ神との最終対決です。
神と戦うと決めてから随分と話数を重ねたような気がします。




