亜人の国の転生者
転生者との会合の話です
「レンレン!」
今助けたパンダの女の子の名前であろう声が聞こえて、後ろを見ると、同じパンダの母親らしき亜人が走ってきていた。 そしてそのパンダの女の子も母親を見て、すぐに飛び込んでいった。
「お母さん!」
「ああ、良かった・・・本当にありがとうございました。 ほんの一瞬の出来事でしたので、このまま連れ去られるのではないかと・・・」
「いえいえ。 ご無事で良かったです。」
本当の事を言えばもっと徹底的に聞いてやろうかとも思っていたが、やり過ぎるのも憚れたのでやらずにいたのだ。
そう思っていると1人の人物がこちらに向かって走ってきていた。 良く見てみるとそれは、俺達の目的の転生者だった。
「何かあったの!?」
第一声は心配する声だった。 どうやら状況を知って走ってきたのではなかったようだ。
「レンレンちゃんが連れ去られそうになっているところを、そこの兄ちゃんが助けてくれたんだよ。」
「そ、それなら良かった・・・」
そう言って向こうからこちらに歩み寄ってくる。 後ろにアヒルとテナガザル(だろう)亜人の女子がいるが、特に気にはならない。
「助けてくれてありがとう。 僕からお礼をしたいのだけれど、時間はあるかな?」
「あ、ああ。 それは構わないぜ。 俺もあんたには話がしたいと思ってたんだ。」
「僕に?」
相手はキョトンとする。 それもそのはずだ。 初対面の人間に話を持ち掛けられる方が不思議で仕方ないのだから。 だからこそ俺は相手が転生者であることの確認をする方法を出す。
『今喋っている言葉が理解出来るなら、二度頷いてくれ。』
俺が言った言葉に驚愕の目を向けて、二回頭を縦に振った。 理解できている証拠だ。
「ここじゃ人目がある。 場所を移してくれるか?」
「う、うん。 お礼ついでに。」
そうして俺達は先程とは別の店に入った。 俺は席を外すようにアリフレア、ベルジア、ファルケンに言う。 向こうも同じ様に席を外してもらった。 まあ別々のテーブルになった程度なので、会話自体は聞ける。 聞けるものならば、だがな。
『こっちの言葉はまだ喋れるか?』
『・・・まだ喋れてる・・・かな?』
『十分だ。 んで、この言葉が分かるってことは、あんたは俺達と同じ日本人という事になる。 例外としてヒノマルから来たって言うならそれでもいいがな。』
『僕以外にもこの世界に送られてきた人っていたんだ。』
その台詞は正直こちらが言うパターンなのだが、こちらにすぐに来たのだろうか? そちらの方がむしろ好都合にはなるか。
『改めて自己紹介しよう。 俺は 野村 清司。 高校2年だった。』
『小松原 零斗で御座る。 喋りについては言及してくれぬと助かるで御座る。』
『宮下 阿莉香よ。 よろしくね。』
こちらが紹介し終わった後に、向こうも口を開く。
『僕は篠倉 幹太。 僕も元々は君達と同じ日本人で、前世では、ええっと・・・』
『無理に話題や自分の事を捻り出す必要はないぞ。 この世界に来た経緯だけ教えてくれ。』
前世の事を知りたくない訳ではないが、今はここにいる理由や方法の方が大事だ。 方法が違えば考えが変わってくる。
『ええっと、あれは学校の帰り道だったかな? いつもの道を通ってたら弱りかけてた猫を見つけて、辺りが暗かったから見えなかったのかもしれないけど、ダンプカーが物凄い勢いで来てね。 なんでこんな道をダンプカーが? って思ったけど、目の前の猫を見過ごすわけには行かなかったから、助けに行ったら、その時に神様が現れて、「お前に特別な力を与える」って言って、目が覚めたらここのちょっと前の森にいたんだ。 それでこの街について』
『今に至る訳か。』
ここまで聞けば俺やアリカと同じ、神様にはあっている事になる。 だが気になることもあった。 それは俺やアリカは一度「死んでから」神様とあっている。 だがカンタの場合は「死ぬ前」に神様に会っているのだ。 そして俺やアリカは行きたい世界を聞いてきたのにも関わらず、カンタの会った神は行き先を指定していない。 地味だが相違点を組み合わせれば、俺達とカンタの神は同一人物でないことが分かってくる。
『どんな感じの神様だった? 顔までは覚えてなくても、声とか髪型とかなんでもいいんだ。』
『うーん。 声は低めだったかな? 後は背丈なんだけど、セイジさんと同じくらいか、もう少し大きいくらいだったかな? でもそれも輪郭だけだから詳しくは分からないよ。』
『いや、それだけ聞ければ十分だ。』
これで確信がついた。 俺達を送った神様とカンタを送った神様は、少なくとも同じではない。 前の2人がどうかは知らないが。
『・・・僕は元々引っ込み思案だったんだ。』
特に聞いてもいないが、向こうから語り始めた。 言われてみれば前の2人はこの世界の前の事を話していない。 まあ話す前に返したから聞く必要は無かったが、カンタの場合は理由が聞けるかもしれない。
『それ以外にも人と接するのがあんまり好きじゃなかったんだ。 だから学校では1人が多かった。 友達もいない僕に唯一心を許したのは動物達だった。 図鑑でみたり、動物園に行ったりして、どんどん魅力に惹かれていった。 彼らと対話をしている方が楽しいとすら感じたこともある。 それでこの世界に来て、その願いが叶ったかのように、ここの皆と出逢ったんだ。』
『お前が人族だから、簡単には受け入れられなかったんじゃないのか?』
『話し合えるならそれは人と同じなんじゃないの? だからこそ僕はこの街で暮らしていこうと思ったんだ。 第二の人生としてね。』
カンタと会話をしているうちに分かったのは、カンタには、前の二人のような邪念が感じられない。 蹂躙や征服なんてのはもっての他だ。 天命、と言った具合の彼は、純粋に楽しんでいた。
だからこそ、この話は確実にしておく必要が出来た。 ここで判断を間違えられない。
『カンタ。 なんで俺達他の転生者が、お前と接触したいと考えたと思う?』
『え? ええっと・・・僕と同じ転生者だから、一目会いに・・・?』
『それもあるで御座った。 だが真の目的は違うで御座るよ。』
『それは・・・』
『俺達とカンタじゃ、この世界に送った神様が違う。 そしてお前をこの世界に送った神は面白半分で送った可能性が高い。 人間性に何らかの欠落がある人間のみを送ってるって話もあるしな。』
『ちょ、ちょっと待ってよ。 神様って・・・君は神様と話したの?』
カンタが困惑するのも無理はない。 だがこちらとしても事実を述べているに過ぎない。 信じて貰うために、俺は右手に神様から貰った力を見せる。
『俺は俺をこの世界に送ってくれた神様から天界に返す力を授かっている。 そしてその対象にカンタも入っている。』
『そんな・・・嫌だよ・・・折角ここで暮らすって決めたのに・・・そんなの・・・』
今にも泣きそうなカンタを見て、俺は右手の力を落とした。
『最後まで話を聞け。 確かに俺はお前に会う前に2人の転生者を天界に返している。 本来ならカンタも返すのが筋だが・・・俺はお前にこの力は使わない。 だから天界には返さない。』
そう宣言するとカンタは縮めていた身体を元に戻して、深く椅子に腰かけた。 コロコロと変わるカンタの姿に、ベルジアを始めとしたメンツが、困惑の意図を辿っているが、俺が心配するなと合図を送ると、とりあえず亜人の2人にも伝えて、向こうで会話を戻していた。
『でもどうして?』
『神様の話じゃ、その神が送った人間の特徴として、人間性的になにかが欠落していると言っていた。 実際にその2人は人間性の欠落、もとい性格に難ありだった。 当然君も同類だと思っていた・・・が、1日君を観察させてもらって、神様のところに返す理由が無くなった。 というか必要ないと判断した。 あの力は強制力はあるが、使うか使わないかは俺が決める事になってる。 だから使わないということになったのさ。』
恐らくカンタは前の世界じゃ、育った環境の性で今の性格になったのだろう。 カンタの前の世界での有り体なら、神様と対話せずともやっていけるだろう。 そう思っただけのことだ。
「ふぅ。 それにしても結構喋ったぜ。 喉カラカラだ。」
「うむ、折角なのでなにか注文をするで御座る。 カンタ殿、ここはなにが美味で御座るか?」
「私、ほとんど会話に入れなかったなぁ。 同じ境遇なのに。」
こちらの世界の喋り方に戻すと、隣にいたメンツがこちらに顔を向けてくる。 そしてカンタに付いていた亜人二人がカンタに寄ってくる。
「な、なにを話していたのよ? カンタの表情が滅茶苦茶に変わるから色々考えたのよ?」
「聞いたこともない言葉で喋っていたし・・・大丈夫なの?」
「うん。 心配かけたようだね。 大丈夫だよ。」
「こうして対話も出来たんだ。 改めて話でも・・・」
「離しなさい! その子をどこに連れていくつもり!?」
店の外で切羽詰まったような声がしたので慌てて外に出る。 そこにあったのは今度はライオンの子供が連れ去られそうになっている瞬間の姿だった。 夕方に見た男とほとんど似たような格好をしていたので、恐らくは仲間だろう。
そしてその男はバレたと同時にナイフをライオンの子供の首元に付ける。 どうやら脅しの意思表示のようだ。 俺は溜め息をついて、闇に乗じて男の背後に回る。 そして男の首元にナイフを突き付けた。
「動くなよ? このまま助けてもいいが、それじゃあお前とその仲間も同じことを繰り返すだけだ。 制約カードバトルをしな。 お前が勝ったら見逃すし手出しはさせない。 だが俺が勝ったら二度とこんなことを出来ないように制約を結んでやる。 状況を見て考えな。」
「・・・いいだろう。 乗ってやるよ。」
『制約:亜人誘拐犯の処遇について。』
制約完了ということでAI領域が展開される。 ライオンの子供は邪魔だと思ったのだろう。 既に手からは離れていた。
あの場で収拾を付けるのは簡単だったが、それでは根本的な解決にならない。 そもそもああいった奴隷商人はいくらでもいる。 根絶させるのも、俺の指名なのかもしれない。
『さぁ、劇場の幕開けだ!』
個人的な感想ですが、大抵のラノベの異世界転生者って、互いに基本話し合わないで、問答無用で戦ったりしてる感じがあります。
それがダメと言う訳ではないのですが、平和的解決はラノベじゃお望みじゃないのかも知れないなと感じただけです。




