神の依頼に休息はない
AI領域が閉じられた時、そこにいるのは俺だけだった。 零斗さん達が後ろの茂みに隠れているのは知っているが、ダイトに付いてきていた連中がいなくなっているのはどういうことだろうか?
「汝が戦っている間に、まるで全てに興味が失せたかのように散っていったで御座るよ。」
変化した風景に俺が疑問に思っているのを見て、零斗さんがそう説明してくれた。
「散っていった? でも制約カードバトル中は領域に入っていなければ情報が入らない筈じゃ。」
「それは私達にも分からないですが、あなたが勝ったことで、下手に騒動にならなかったのは、良かったことではないでしょうか?」
アリカの言うことは最もだ。 変にパニックになって収拾が付かなくなるよりは遥かにいい。
「後は神様に任せるとして・・・傲慢・・・か・・・。」
「ご主人様?」
アリフレアの心配を余所に、俺は考える。 奴のスキルの名前・・・偶然だと信じてはいたいが・・・
「零斗さん、アリカ。 さっき戦った奴のスキルの事なんですが。」
「どうかしたで御座るか?」
「あいつのスキルの名前に「傲慢」って書いてあったんですよね。」
「傲慢って・・・確か人が持っている大罪の一つ・・・だったっけ?」
「うむ。 拙者達の元の世界での至極有名な罪の一つで御座る。 ・・・セイジ殿、もしや・・・」
「ええ。 その神がこの世界に送った転生者のスキルには何らかの大罪が含まれていると考えて間違いないでしょう。」
「ど、どういうこと? 送られてきた人が大罪を持ってるって。」
アリカは疑問に思っているが、別段不思議なことは言っていない。 同じ様にアリフレアもポカンとしているが、アリフレアはあまり関係の無いことなので、後でそれとなく説明しておこう。 アリカが分からないのは異世界人としては少々困るので、自分で理解をして貰えるようにしておこう。
「アリカ、人の大罪の種類は全部言えるか?」
「え? ええっと・・・「傲慢」でしょ? 「嫉妬」、「憤怒」、「強欲」、「色欲」、「怠惰」、「暴食」の7つだったわよね? 基本は。 ・・・あ、そ、そう言うこと?」
アリカようやく理解をしてくれたようで助かる。 そしてその事実を改めて知った俺は頭を抱えざるを得なかった。
「これから少なくとも後6人は会わないといけないのか・・・」
気が滅入ってしまう。 他の連中も、ダイトのような性格やスキルを持っているのだとするならばかなり面倒な相手なのには変わり無い。
「セイジ殿。 そのようなことを今考えても仕方の無いことで御座る。 拙者達はただ、神の意向に従うのみで御座ろう。」
「・・・そうですね。 では俺は王様に報告してきますよ。 愚者は消えたとね。」
そう言って俺は再度みんなを置いて、あの小さき王の待つ隠れ家へと向かうのだった。
「そうですか。 あの者はやはり勇者の末裔などでは無かったですか。」
アレクも元々ダイトの奴が勇者の末裔だなんて思ってはいなかった。 思ってはいなかったのだが、現実はどうだったのかを確認していないので事実を知れて安堵はしているようだ。
「それで、その者はどうなりましたか? 貴方が直接関与したのでしょう?」
さて、ここからどう説明をつけたものか。 話の根本がそもそも世界の理と外れていると言っても過言ではない事だ。 話したところでどう思われるか・・・
「いや、隠し立てしたところで、結局は無駄か。」
「?」
「アレク。 これから俺は想像から離れた話をする。 その話を信じるか信じないかはそちらに任せます。 説明をしましょう。」
俺はアレクに事の顛末を話した。 神の意向なんかは伏せては置いたが、それでも元々こちらの世界の人間ではない、ダイトも同じ様に異世界の人間であること、そしてこの世界での不適合者なために、ダイトは元の世界に返したことを伝えた。
「・・・って事なんだが・・・」
「なるほど。 確かにそれはこの世界の常識からてんで離れている。正直法螺吹きなんかよりもよっぽど滑稽な話だと僕は思うよ。」
「ま、だろうな。」
「だけど僕は君の言葉を信じるよ。」
「・・・本気か? こんな吟遊詩人も鼻で笑いそうな話だぞ?」
「でも君は話してくれたし、なにより君の瞳は本気だった。 それが君の言葉を信じようと思った理由。 君でなかったら聞き流していたことだろう。」
俺だから、か。 こんな形で信頼を得られているとはな。
「それで、これからどうなさるおつもりで?」
「悪いがその辺りは実際ノープランだ。 というよりも情報収集のためにまずは動き回らないといけないからな。 実際にあんな奴が何人いるのか、今は検討もついてない。」
憶測でしか無い以上、人数の事までは話さなくても良いだろう。 そもそもこの世界に「七つの大罪」があるとも実際に思ってないし。
「では少しの間オストレリアに滞在されてはいかがでしょうか? 見た限りでは貴方は僕とこうして再開する時まであちらこちらに行っていたようですし。」
そこそこに鋭いところをついてきたな。 やはり侮れないな。 しかし最近は俺達も留まってはいない。 元々そう言うつもりでこの世界を生きようとしている俺にとっては大分矛盾しているとも言えるが、情報が無い今のやたらめったらに動く必要などほぼ無いだろう。
「ま、そう言うことならお言葉に甘えようかな?」
「場所は僕が提供しよう。 この別荘とまではいかなくとも、隠密性能の高い家には案内できる。 君達もその方が安心できるだろう?」
そこまで気遣いをさせて貰えるとはありがたい限りだ。
「それじゃあ」
『セイジ! 聞こえているか!? いや、そもそもしっかりとこちら声が届いているのだろうな!?』
なんだ? 頭の中に声が聞こえる。 しかもかなり切羽詰まっている感じだ。 というかこの声って・・・
「どうかされましたか? なにか頭を抑えていますが。」
「あ、ああ。 大丈夫だ。 でもベルジアが喋っているのだろうが、あいつは魔法適性はない筈だが・・・」
『セイジ君。 聞こえた? 聞こえているなら同じ様に「テレパシー」を使ってくれるかしら?』
今度は別の声が聞こえてくる。 いや、俺はこの声も知っている。 というよりもこっちの声を聞いて納得がいった。
『サヴィ。 脳内でベルジアの声がするが、あいつは魔法適性は無かった筈だろ?』
『あたいだってずっと里に引きこもってる訳じゃないさ。 魔法使いの里は確かに閉鎖空間だけど、外との情報までは隔離されてない。 だから探知魔法で定期的に外を見ていたのさ。 そして、なにやら緊急性を要している感じだったベルジアとコンタクトを取って、あたいを通じてセイジ君に声を届かせているって訳。 ちなみにセイジ君からベルジアへはあたいが繋げてあげる。』
昔の電話のやり取りみたいだ。 今のサヴィはいわゆる中継地点というやつだろう。 負担が凄まじいかもしれないから用件を聞こう。 ベルジアの切羽詰まっている感じも気になるし。
『それでどうしたんだ? ベルジアのあの慌てよう、普通じゃない事は確かだぞ。』
『そうだ、聞いてくれ! 今私はある国へと入っているのだが、そこで見かけた光景に絶句している。 あのものは正しく暴君そのものだ。』
ベルジアがそこまで言うのなら問題にはならない。 どの国にも必ずそう言った輩は存在するし、実際にやりたい放題の国だってあることだろう。 だがそれだけでサヴィを介して俺に伝える理由にはならない。
『ベルジア? それだけのためにあたいと連絡を取った訳じゃないでしょ? 他に理由はある筈よ? それを教えて。』
俺の聞きたいことをベルジアにぶつけるサヴィ。 するとベルジアは一つ咳払いをして、改めて声に出す。
『うむ。 そしてその暴君を行っている人物についてなのだが、特徴としてセイジと一致している部分が多い。 性格や体格は別だが、とにかく似ているのだ。』
ふむ、俺に似ている、か。 どうやらベルジアは新たな転生者を見つけたみたいだ。 しかもベルジアが気にするほどの暴君っぷりを考えれば、偽の神が送ってきた転生者に十中八九間違いはないだろう。
『分かった。 場所を教えてくれ。 空を飛んで行くから、そんなに時間は掛からない筈だ。』
『ああ、頼む。』
『場所への案内はあたいがするから、そのまま空を飛んでいって構わないわ。』
そんなことを感じながら俺は席を立つ。
「行かれるのですか?」
「ああ、同じ様な奴が出たからな。 悪いな、折角の好意を無駄にするようで。」
「いえ、それだけ忙しいのでしょう。 僕は止める権利はありませんので。」
そう言ってくれるなら助かるな。 その事に感謝しながら俺は隠れ家を後にしたのだった。
やっぱり「七つの大罪」って題材にしやすいですよね。




