遠方観察と備え
その人物は俺達と同じ様に黒髪で、リーゼント気味に前髪が跳ねており、つり目でどこかお調子者のような雰囲気のある人物だった。
しかし身なりが変わっており、胸当てや膝当て、マントを羽織り、自分は勇者だと言わんばかりの冠の形をしたバンドを頭に巻いている。
「形から入って、本当にそれっぽくしてるって感じだな。」
「前の世界ならコスプレだと流されていましたが、こういった世界では信じてしまうのも無理はないのかも知れませんね。」
「しかし本人にとっては本気なので御座ろう。 自分が強いと驕っている者程、足元は見えないもので御座るよ。」
一目見ただけで俺達に散々な言われようをされていることを知らない「勇者」はそこそこ周りの人間に持て囃されている。 普通に本当の勇者だと言うのなら、ああなっても仕方ないのかと思うが、異世界の人間=勇者という安直な考えとスキルの強力さだけで結び付けられるのは、あまりにも無理すぎる。
「セイジ殿。 どうするで御座るか? このまま奴に夢を見させるで御座るか?」
零斗さんの疑問に俺はすぐさま答えを出す。
「いや、他のところにまで影響が出る前に、現実に引き戻してやりましょう。 この世界に勇者は必要ないってね。」
それで失望するかどうかは向こう次第だし、対処の仕方によっては・・・とも考えている。
そんな勇者はこちらの事を知ってか、いや、あれは遠くの人にも分かるようにだろう。 笑いながらこちらに手を振ってくる。 本当の王様気取りだ。
「それで、行くで御座るか?」
「・・・いや、今日は行かない。」
「会わないの?」
「別に策が無い訳じゃない。 だけど、仕掛けられる隙はいくらでもある。 下準備をするのに越したことはないし、奴がどういう雰囲気なのかも掴めた。 まあ明日には仕掛けるつもりではいるから、そこは心配しないでくれ。」
「そのような心配はしていないで御座るよ。」
銅レア以下
ハッキングバグ×2
ヴァンパイアクイーン ルティーナ
歴戦の狩人
スリーピースブロック
ビートウェーブ
インファイトラミア
メープルシープ
ドリルクロウ
強襲竜
怨霊の怨み言
雨降りにさ迷う少女
エアーフライトプレイン
サーカス団のピエロ
エクストラウォール
影に住む魔法使い
キッキングホークス
マジシャンドール×2
静かなる野獣
スタートダッシュ
ウェスタンヒーロー
カーテン・ザ・マント
バトルプライスレス
染み渡った晴天
銅レア
エンジェルビー
エクステンドガーディアン
応急手当て
ドラグニティ・フレンズ
古の召喚術師
歴史改変の代償
ウィークリーポイント
ツギハギの折り畳み盾
銀レア
ブロッサムヒューマン
怪盗ハンドスティール
タイラントウォーリア
リターンアンドドロー
竜の産まれ変わり
死水霊
嘘判定
金レア
夢を誘う流離い人
希少価値の発掘
宿を取った後に俺はすぐさまデッキを確認する。 なんでそんなことを今さらするのかと言えば簡単だ。 俺のデッキには「完成形」という物がない。 ファルケンやアリフレアのようなテーマデッキでもなければ、ベルジアや零斗さんのように戦い方が整っているわけでもない。 型にはまらないのはよくも悪くも終わりが見えない、ということになる。
しかし俺のデッキにだってそれなりに理由あるものだって存在する。 「雨降りにさ迷う少女」と「染み渡った晴天」のカード性質の変更コンボは誰にでも驚かれるし、「スリーピースブロック」や「サーカス団のピエロ」は倒しても別モンスターとして復活するという点で、相手の策を崩すことも出来る。
そして神様から貰った「死水霊」を「希少価値の採掘」で復活させるやり方は、この世界ではほとんど出来ないと来ている。 このコンボにもお世話になった。
だが今までのはあくまでもこちらの世界の住人に対しての話。 今度戦うのは、俺達と同じ世界にいた人間。 これらのカードが出てきたところで驚かない事は想定できる。
ならば今のデッキにどのように手を加えるか。 相手の戦略を知らない以上、いかに自分のペースを取り戻すかが、今回からの対戦の鍵になってくる。
これまでの知識をフルに活用し、自分なりにデッキの作り込みを壊さないように、そしてそれでいて今まで以上に特性を生かすデッキにしなければならない。 相手の意表を突くカードや、条件が揃えば強力なカードも、今回は敢えて入れることも視野に留めておく。
「セイジ殿、夕飯が出来たようで御座るよ。」
宿に入ってからずっとAIに入っていたせいか、時間感覚が少し狂ったようだ。 ゴーグルを外して、食事処に向かうことにした。
「そんなに今の山札に不満があるで御座るか?」
零斗さんがそう聞いてきたので俺は他の二人がいないのを確認して、零斗さんに対して口を開く。
「デッキに対しては不満はないですよ。 ただ、相手はこちらの都合よく動いてはくれないと思っているだけです。」
「ふむ。 確かに策は練れば練る程良き物になっていくのが常で御座るが、今回の場合はその限りではない、ということで御座ろう。」
「ええ。 相手がどう出てくるにしろ、こちらも練れる策は多い方がいい。 けれど、そのために潰さなければならない部分もある。 それが結局のところ、ジレンマだったりするんですよね。」
デッキ調整とはそう言うものだと頭も体も分かっている。 でも一つ、後一つと考え始めたら、本当にキリが無くなってきていて、まだ納得のいく構成にならなかったのだ。
「汝の場合は山札に対し、同調性が少ないゆえ、持っている札も個々が強くなってしまっているで御座るから、なかなか留まった形にならぬ、と。」
「そんなところです。 型がある程度固まっているのなら、多少は悩まず済んだのでしょうが。」
「別に無理して型にはめることも無かろう?」
零斗さんのその言葉に俺は驚いた。 悩んでいたことをバッサリと斬られたような気持ちになったからだ。
「形の整っていない水などを無理に型に入れようとも、限界を超えれば溢れ出す。 ならば自然のままに流しておくのも、悪くは無かろうて。 それに汝は型にはめられるような器の持ち主では御座らん。」
「誉めてるんですよね? それ。」
でも確かに零斗さんの言う通りだ。 俺らしく戦うことの何がいけないことか。 勝利への執着は、時に自らを見失う。 そんなことを今体現したようだ。
「まずは腹ごしらえをするで御座るよ。 食える時に食うのも武士の心得。 腹が減っては戦は出来ぬとはよく言ったもので御座る。」
それもそうかと俺も気持ちを切り替えて、まずは忘れてから考えよう。 そう思ったのだった。
「このカードならこのカードとの兼ね合いを・・・それだとこのカードは少しだけ重くなるか・・・ 手札の消費の激しさを考えると手札補充用のカードも・・・いや、効果だけ見てるとコストが・・・」
ご飯やお風呂を終わらせた後からずっと同じ事を繰り返していた。 自分なりのデッキのコンセプトを壊さずに、いかに新しく入れるかが俺の中にあるデッキ構築の要である。
そして行き詰まった時は一度離すのも忘れない。
そんなことを繰り返しているからか、最早何時なのかが感覚が分からなくなってきていた。
「もう少し・・・後少しなにかが足りない・・・完成形に近付いたのはいいことだけど・・・でもピースが合わないんだ・・・」
そう、あれだけ進んでいたデッキに対して、そう言った憤りがあった。 そしてそんな自分に活をいれる為に、洗面台で顔を洗うことにした。 頭を冷やさなければやってられない。
「あのデッキに必要なのは一撃の重さじゃない・・・だが後手に回ればそれだけ時間も掛かる・・・攻めつつ守りも・・・」
「セイジさん?」
思考を止めて前を見ると、アリカの姿があった。
「ああ、済まない。 邪魔だったか?」
「いえ、そう言うわけでは・・・なんだか思い詰めている様でしたので。」
「明日に対面だとして、いざカードバトルになるんだって考えると、デッキが上手くまとまらなくてなぁ。 勝ち負けに拘らないならまだしも、今回の場合は勝たなければ意味がないんだ。 下手なデッキは作れない。」
「でも、少しは休んだ方がいいですよ。 そのままでは戦う前から倒れてしまいそうです。」
確かにこの国に来てからずっとこんな調子では、上手く行くはずもない。 頭の中もごちゃごちゃなのだから尚更だ。
「・・・早期解決もいいが、体を優先するか。 ありがとうな、アリカ。」
「これぐらいしか役に立てない自分が情けないです。」
アリカと別々になった後はそのまま床についた。 するとまるで泥のように深い眠りについていた。 起きれば朝になっていたと考えると、一気に落ちたのが感じ取れた。 そして時間になっていたので、俺はパックを引きに行った。
「・・・これは・・・」
デッキ製作は何時だって試行錯誤の産物です。 それだけのカードがあればの話ですが




