懐かしの・・・
船を降りるや否やどんな歓迎をされるのかと思っていたのだが、男性なら学生服、女性なら振袖姿で通路を作るかのように左右に一列ずつ並んで、胸に手を当てて会釈をした。
『ようこそ、我が国 ヒノマルへ。』
そして一斉に同じセリフを声を揃えて発した。 それは船を降りたお客全員が驚いていた。 多分こういった文化は浸透していない、いやむしろ無いのだろうと考える。 やはり「おもてなし」文化というのは独特なんだろうなと染々と感じていた。
しかしなかなか先に進まないなと思っていると、前の方で詰まっているのが見えた。 しかもなにやら困惑気味だったのだがとにかく前に進んでみて、1人の列でおもてなしをしていた人が声をかけてきた時にその理由が分かった。
『お客様。 お荷物をお持ち致しましょう。』
そう、喋っている言葉が日本語、こっちの世界風に言うならば「ヒノマル言葉」で喋っているのだ。 しかも通訳もいないので、おそらくなにを言っているのか分からないのだろう。 片言でも向こうの言葉で喋ってくれれば、まだなんとか意志疎通は出来るのだろうが今のところは向こうにその気は無いようだ。
『ありがとうございます。 この国で一番栄えている場所ってどこになりますかね?』
そう言葉を返すと、その人は驚きの表情を見せていた。
『お客様、こちらの言葉がお分かりになられるのですか? 良く見るとそちらのお客様は、我々の国が少し前まで着ていた服装を着ていますね。』
『こちらの事を勉強していた時期もありますので。』
前の世界の国の言葉なんです、なんて言えるわけもなく、とりあえず誤魔化しのために言った。
「あの、もしよろしければ、通訳をしてもらえませんか? 私達じゃ、分からないので。」
そう言って前を歩いていた人達が俺達、というよりも俺に歩み寄ってくる。 ここで思ったのは、この国は早急に通訳者が必要なのではないかという点である。 というよりもそうしてくれないと俺が通訳として押し潰される。
「なんとか解放された・・・」
あれから行き先やらなにやら色々と通訳したせいで、俺は一番行きたい場所の馬車に乗るまで引っ張りだこのてんてこ舞いだった。 ちなみに今乗っている馬車は座席部がゴンドラのようになっているタイプだ。 服装やらこういったものを見て、時代背景としては明治に近いかと思っている。 今はそんなことを微塵も感じられないが。
「拙者も手伝えたら良かったが、さすがに無理だったで御座る。」
「まあ、零斗さんの場合は、服装の問題もありますし。」
「しかしセイジとレイトがいるお陰で、私達の旅はかなり楽になりそうだ。 失礼なことを聞くが、前の世界ではこれが当たり前だったのか?」
「俺達が来た時代はもっとハイテクだよ。 それでも大体2~300年前はこんな感じだった。 俺も零斗さんも、前の世界での学校で習った程度だがな。」
男3人で会話しているなか、女子3人は、窓の外の風景に釘付けだ。 目移りする程に外の町並みは綺麗に映ることだろう。
「拙者達からすれば、時間溯行をしているようで御座るがな。」
「明治維新ですか。 確かに普通じゃないですものね。」
そう言っていると馬車が止まるのが分かった。
『さ、お客さん。 着きましたよ。 この国で一番栄えている場所「東ノ京」になります。』
馬車引きの人がそう説明した後に外を見ると、確かに港から一変して、人々があちこちに歩いているのがみて取れた。 ここがこの国の中心のような場所だろう。 というか「東ノ京」って間に「ノ」を入れただけじゃないか。 分かりやすいからまだいいが。
『ありがとうございます。 あ、これが料金です。 1人あたり400音でしたよね?』
『はい。 では合計で2400音。 2500音渡されましたので、100音のお返しになります。 またご利用下さい。』
そう言って馬車は馬車同士が闊歩する場所を歩いていった。 ちなみに「音」というのがこの国の通貨で、日本の「円」と大差ない。 全部紙幣のところも明治のような感じだ。 ただまだ価値としては微妙な数字である。
「とりあえず服装から形を作ろうと思うのだが、みんないいか?」
「ふむ? 別にこのままでも支障はないと思うが?」
「観光として楽しむのとまぁ、周りと浮かないようにするためか? ほらあそこだって元々は俺らと同じ様な服だったんだろうぜ。」
そう俺が見た先にいた観光客と思われる人達が、袴姿や小袖姿で現れる。 手には先程まで着ていたコートなどを入れているであろう袋があった。
「なるほど、木の葉を隠すなら森の中で御座るな。 では拙者達も向かうとしよう。」
「え? 零斗さんも着替えるんですか?」
「この格好では良くても流離い人で御座る。」
零斗さんがそう言うのならとみんなで衣服店に入っていった。
「結構な出費だったような気がするけれど、それに見合った服装になったからいいか。」
男性陣の方が先に終わったので、先に店の外で待つことになった。 3人とも書生スタイルになっている。 自体の流れとしても本格的に日本の明治に似ていると感じる。 ちなみに俺が紺色、ベルジアが赤銅色、零斗さんが灰色と色が分かれている。
「なんだかズボンの部分に風が入ってきて寒さすら感じるな。」
「そのあたりがこの服の特徴で御座るよ。 通気性は抜群で御座るからな。」
着なれない和服に違和感を感じているベルジアと、元々から似たような服を着ていた零斗さんとは、感覚が違うのは当たり前だ。 そんな感じで女子達の着替えを待っていると、ふとあるものが目に止まった。
「む? どうしたのだ? セイジ。」
「わりぃ、すぐ戻ってくるから。」
「・・・なるほど。 拙者の分も頼むで御座るよ。」
「みんなの分買ってくるから心配なくても大丈夫ですよ。」
そう言って俺は1つの押し屋台出店に向かって走った。 そこには暖簾に「ラムネ」と書かれてあり、この世界でお目にすることのなかった、ビー玉で栓をしてあるタイプのものだった。
『すみません。 ラムネ瓶6つ下さい。』
『毎度あり。 キンキンに冷えてるよ。 開け方は・・・』
『あ、それは知ってるので大丈夫です。』
『お、そうかい。 一本150音ね。 数が多いから袋に詰めてあげよう。』
そうしてラムネと金銭を交換して、俺はベルジア達のところに戻ってくる。 そして女子のみんなも着替え終わっていたようで、外で待っていた。
みんなそれぞれに違う服装になっていて、サヴィが紫の和洋折衷。 ミルレがパンタポルタと呼ばれるドレスのようなフリルのついた水色のロングスカートを着けていて、アリフレアはオレンジの和服にエプロンと、明治時代に喫茶店で働いていた女性のような服装になっていた。 おそらくみんなそれぞれの注文通りの服を用意してもらって、こうなったのだろう。 似合っているのでなにも言わないが。
「大和撫子とは、まさしく彼女達の事を言うので御座ろうな。」
「変な虫が寄り付かぬよう、最新の注意は払っていくぞ。」
それはベルジアと零斗さんも同じだったようで、周囲を警戒し始める。
「ご主人様。 なにを持って、いらっしゃるのですか?」
アリフレアが俺の持っている袋を指差してそう聞いてきた。
「あ、そうそう。 みんなにこれを買ってきたんだよね。」
そう言って取り出したラムネをみんなに渡す。 ついでに中のビー玉を落とすための蓋も一緒に渡す。
「セイジ君。 これはなにかな? 飲み物のようだけど。」
「綺麗ですねぇ。 透き通っています。」
「これは炭酸飲料でラムネって言うんだ。」
「レモネード?」
ベルジアの返しに、俺は苦笑した。 元々はレモネードが上手く聞き取れずにラムネになったという諸説があるが、まさかその逆をやるとは思わなかった。
「セイジ殿。 少々離れているで御座るよ。」
「あ、はい。 そうですね。」
「レイトさんはなにをしているのですか? 地面に置いてしまって。」
「ラムネの開け方をやるんだよ。 勢い良くやるだろうから少し離れてて。」
ミルレやみんなを下がらせた後に、零斗さんが蓋をおもいっきり押した。 すると「ポンッ」という音がした後に、蓋を取ればそのままラムネを口にする。
「懐かしき味で御座る。 この世界でラムネを見かけるとは思いもよらなんだ。」
「本当にそうですよね。」
俺も同じ様にラムネを開ける。 そして他のみんなも大体似たようなやり方でラムネを開けて飲んでいる。 みんなお気に召したようで、ごくごくと瓶の中身が無くなっていく。
「こりゃあ少し観光するのが楽しみになってきたな。」
ラムネでこれだけ懐かしさを感じているので、他のも断然見ておきたくなったのであった。 ちゃんと依頼はこなすけどな。
タイムスリップな感じです。
でも作者は歴史に強くありません。 ご容赦下さい。




