出発前の贈り物
「島国 ヒノマル・・・ 俺達の生まれ故郷にそっくりな国・・・か。」
ムサロ様から話を聞いていた国の事が頭から離れず、眠りにつくことが出来なくなっていた。
「今回ばかりは空からはいけないか。 とはいえドーホース達を連れていくべきかも正直迷うな。 向こうの国だとああいった動物は扱ってないかもしれないし。 ただ脚が無くなるのは俺達にとっては痛手だ。 それに通過に関しても向こう独特のものになるかもしれない。 持っていく資金は多めの方がいいだろう。 後は・・・」
「なにを迷っているで御座る? セイジ殿。」
窓の外を見ていながら独り言を呟いていたら、後ろから零斗さんが声をかけてくる。
「ああ、すみません。 起こしちゃいました?」
「構わぬ。 元々夜の見張りも行っていた故、眠りにつかなくても問題ないで御座る。 それよりも」
そう言って零斗さんが一つ咳払いをすると
『みなを起こさぬよう、こちらの言葉で話した方がよいのではないか?』
そう俺達の言語で話し直した。
『この言語で話すのも久しぶりですね。 零斗さんもすっかりこちら側に慣れたようで。』
『そうで御座るな。 習うよりも慣れろ、ということで御座ろう。』
『その言葉は元に戻さないのですね。』
『うむ、下手に戻そうにも違和感を感じてしまってな。 自分の個性として出しておくのが良いで御座ろうて。』
そんな風に会話を続けているが、ふと零斗さんに対して疑問を持った。
『零斗さん。 次に行く国 ヒノマルについてなのですが。』
『分かっているで御座る。 汝や拙者と同じか、少し前の時代の人間がいるので御座ろう。』
『あまり気にすることではないのかも知れませんが、もしかしたら歴史が似ているかもしれないと思うんです。』
『それは・・・思い過ごしとは言いがたいで御座るな。 詳しくは知らぬゆえ、なんとも言えぬで御座ろうが。』
そう、もし俺達の住んでいた日本と丸々同じだとするならば、俺達が下手に手を出せば、そこの歴史が変わってしまう可能性は否定が出来ない。 関係無いとはいえあまり気乗りしない。
『しかしセイジ殿。 それが例え日本の歴史だったとしても、この世界では悪影響を及ぼす事もあろう。 慈悲を持たぬのも、武士の情けぞ。』
『非道な歴史を辿るよりも、ってことですね。』
『セイジ殿。 拙者たちは歴史の立会人などではないので御座る。 目を瞑る時は瞑るのも必要な事で御座る。』
零斗さんがそこまで言うのは、おそらくその場面を多く見てきたのだろうと言う勝手な解釈があったが、俺よりも早くにこの世界に来たからこそ、前の世界での生き方は出来ない、後戻りは不可能だと言うのが言葉だけで伝わってくる。
『なぜそんな顔をするのだセイジ殿。』
『え?』
『汝が悲しむ必要など無いのに、悲しい顔をしていたのでな。 拙者の事で想うところはあろうが、既に拙者の心は決まっている。 汝が背負うようなものではないで御座るよ。』
杞憂だとは分かっている。 そんなものは零斗さんには無意味だと。 だがどうしても前の世界に戻すことが出来るならと、考えてしまうのだ。
『・・・いや、そんな考えを持つこと事態、失礼に値するか。』
『拙者なりの生き方はもう少し出来たで御座る。 気にせずにセイジ殿なりに行けば良いので御座るよ。』
『そのようですね。 ・・・ヒノマル、楽しみですね。』
そう言うと隣に零斗さんもやってくる。 この世界での日本のような場所。 そこで一体どのような事態が待ち構えているのか。 不安と好奇心が隠しきれない。 そうして眠れぬ夜は更けていくのだった。
「もう少し休んでいかれても良かったのですが、生憎と時間は刻一刻と変化しています。 もしかすると今この瞬間にも何かが起きているとも限りません。 確認する術の無い我々を、どうか許していただきたい。」
「ミカラ様が謝ることではないですよ。 それに今回ばかりは向こうのやり方に合わせなければいけなさそうですし。」
翌日、朝のルーティングを終わらせてみんなと大広間に集まると、ミカラ様からすぐに言伝が渡された。 とは言うものの向こうが俺達の住んでいた日本に近いと言うのならば、こちらの理は通用しないかもしれないと言うのは、ミカラ様もムサロ様も思っていたようで、昨日のうちにある程度手配をしてくれたようだ。
「ドーホースさん達、一緒に、行けないの、ですね。」
「彼らは私達がしっかりと預けておきますので、心配はいりませんよ。」
「ボクやファルケンも残ることにするよ。 亜人は向こうでは気味悪がられるかもしれないからね。」
「お金の件はどうする?」
「それは多分向こうで換金する方法があるかもしれないから、多めに持っていく事にした。 それと今回は空からじゃなくて海、ここから別の国に行った時みたいに船で行くことにした。」
「どうしてですか? 空からの方が楽に行けますが?」
「空から来た人間なんて、普通の人は信じないだろうからね。 郷には郷に従えってやつさ。」
そんな感じで今後の取り決めをする。 今回メンバーとしてゼルダとファルケンはドーホース達とともに留守番。 サヴィも帽子やローブは外していって貰い、ミルレは耳を隠すことにした。 そして船での出発ということで、時間に間に合わせるように出発をしようとした。
「それでは我々はヒノマルへと出発をしようと思います。」
「ちょっと待ってくれ、セイジ殿。」
その声の主、メスリ様が俺達を止める。
「どうしたんです?」
「俺からの贈り物だ。 受け取ってくれ。」
そう言って何かを投げてきてそれを受け取る。 そして手の中にあったのはデッキケースだった。 しかし中身は入っていない。
「メスリ様、これは?」
「デッキはAIで管理されているが、1つしか所持することが出来ない。 それでは今まで入れられてこなかったカード達があまりにも不憫だと思ってな。 完全に質量を持たないとはいえ、使われたい思いでカードとなったわけだし、なによりそのカードはその人の思いなどを表す。 簡単に「使えないから」と割り切るのは可哀想だろ?」
メスリ様の言葉に、俺もいくつか心当たりはある。 使ってきたカードをわざわざ手放すような事をして新たなカードを入れる。 しかもパックでただ引かれただけのカードには余計にだ。
「それじゃあ、このデッキケースは・・・」
「そのデッキケースは、デッキを複数個所持できるようにするための装置だ。 まだ研究段階だが、試作品だけは出来た。 それは実証実験を終了したデッキケースだから、問題なく作動する。 それをお前にやる。」
「いいんですか? そんな大事なものを。」
「むしろお前に託すことにしたんだ。」
その意味が分からずに首を傾げる。 試作品なのに託すとは一体どういうことだろうか?
「確かにデッキは自分が「このカードを入れれば強い。 自分の感性に偽りはない」と言った具合に作られているから、そもそも1つで十分だとは思う。 だが君の場合はそうじゃないと思った。 数々の冒険をしてきて、様々な人達と出会い、考え方がより複雑になっていったことだろう。 故にそれを1つのデッキの中に集約させるのはほぼ不可能に近い。 だから補助として、自分の新たな戦術として取り入れると思っているんだ。 それに、お前ならその装置を俺達以上に使いこなしてくれるだろうとも思ってるしな。」
デッキの複数個所持は確かに普通に考えれば荷物として重なってしまうだろうが、今回の場合はありがたいと感じる。
「ありがとうございます。 大切に使わせていただきます。」
「あぁ。 後々は研究報告を繰り返し、より完璧に近付いたなら量産も考えている。 滅多に作ることの無い初号機だ。 しっかりと使ってやってくれ。」
「はい!」
「出発の準備が整いました。」
準備を手伝ってくれた兵隊さん達がこちらに駆け寄ってきた。 こちらも準備は出来ているので、早速出発と行こう。
「それでは行ってきます。」
「くれぐれも無茶はならさぬように。」
「行ってらっしゃいセージ君。」
「師匠! 土産話、楽しみにしてるっすからねぇ!」
ミカラ様、ゼルダ、ファルケンに見送られながら、俺達を乗せた馬車は、ヒノマルへの船を出している港へと、走らせるのだった。




