みんなが描いた夢 2
「慕われるのと使うのは、違うのだな。」
出てきたのはベルジアだった。 開けた時の表情はどことなく寂しげだった。
「よぉベルジア。 その様子だと、あんまりいい夢は観れなかったみたいだな。」
少々皮肉のように言ってはみるものの、実際に精神的にキツいのはベルジアの方だ。 だが下手な慰めは時に残酷に心を抉ることもある。 今のベルジアはこれくらいが丁度いい。
「あぁ、私が出られたのなら、セイジは既に出ているか。 いや、とても気持ちのいい夢だったのだ。 夢、だったのだが・・・」
「違和感に気が付いた以上は夢じゃなくなる。 そして夢を終えた現実は圧倒的に寂しく感じる。 そうでしょ?」
言い淀んだベルジアにサヴィが補足を付け足した。
「まあその様なところだ、サヴィ嬢。」
「話の内容から察するに、次期領主として国を発展させていたんだろ? やっぱり不満があったか?」
「そうだな。 簡単に説明するならば私が領主として皆に慕われているところだったな。 皆が我が城のベランダから姿を現した私に頭を垂れていた。 最初は私も次期領主としての鼻も高かった。」
「王様、ですから、それでいい、のでは?」
「アリフレア。 ベルジアはそう言った領地の統べ方は望んでないんだ。」
「その通りだ。 私の家は元々成り上がりの領主。 それに今の領地だって民の力があったからこそ存在する場所だ。 慕われるだけの領主になどなりたいわけではない。 民と手を取り合い、互いを助け、そしてより良い領地にするために結束をする。 それが我が領地の理想像だ。」
俺も王政のある国から来たわけではないので、それが簡単でないことしか分からない。 民を力によりねじ伏せるのは簡単かもしれない。 だが手を取ろうとするその姿勢は、普通に国を統括するよりも難しい事だろう。 しかし今のベルジアはその困難に立ち向かおうとしている。 一筋縄ではないからこそ、夢を達成できた時の大きさは、まさしく全ての集大成になることだろう。
「ぶぇっ! 羽があるから部屋が狭いっす!」
別のところから声がしたので振り返ると、そこにはむせ返るように現れたファルケンの姿があった。 どうやら彼の体躯にあったカプセルを造れなかったようだ。
「あ、どうもっす。 結構遅く出ちゃった感じっすかね?」
「お前が最後じゃないから心配すんな。」
その言葉にファルケンは安堵の息を漏らす。 ま、ここまで来れば大体どんな夢を見せられていたか想像がつく。
「どうだった? お前のところの夢は。」
「その様子だとみんな似たり寄ったりな感じなんすね。 滅茶苦茶良かったっすよ。 あいつらとずっと一緒に故郷で暮らして、平和な生活っした。」
亜人はこの世界では蔑みの対象だからな。 そういう意味ではある意味望んだ世界ではあるだろう。
「それでなにが不満、もといどこに疑問を感じた?」
「それが・・・俺っち、なにであの世界を出たのか、正直分からないんすよね。」
「分からない?」
「何て言うか、疑問に思った事をただ言っただけというか、それは良くないだろって感じに思ったら、なんだか白い光に包まれてて、気が付いたらあの中に入ってたってことなんすよ。」
ふーむ? また奇妙なことを言っているが、つまりファルケンは無意識にあの世界を出たことになるな。 もう少し深掘りしてみてもいいか。
「子供達はどうだった?」
「うっす。 どの子もいい子だったっすよ。 最近あったばっかりなのに、あいつらの顔をみて涙流しちゃったっすよ。」
お前そんなに涙脆い奴だったっけ? そんなことを思っていたら、ファルケンは難しい顔をしたわ
「ところが何て言うのか、慕ってくれているし、俺っちの事を大将と呼ぶのも一緒なんすけど、妙に「近かった」というか、いや、元々懐いてる奴らなんすよ? ただ、こう、離れてくれなかったと言うのか、なんというか。 まるで俺っちがいないと駄目だと言わんばかりに甘えてきたんすよね。 それがなんというのか、気持ち悪くってっすね。」
その辺りでファルケンはまた唸ったが、そんなことをしてるのをみていたら、ベルジアが俺に近付いてきた。
「セイジ、仮説だがファルケンは、子供達が最終的には巣立ってほしいと考えているのではないだろうか? だから子供が甘えてくることに疑問を感じたと思う。」
なるほど。 確かにファルケンの育成方針と違えば、無意識に違うと感じるのはあり得ない話じゃないのか。
俺達みたいに意識的に目を凝らしたのなら当然疑問も浮かんでくることだろう。 それがファルケンの場合は直感的になったという訳だ。 なんともややこしい話だ。
そしてまたカプセルが開く音がした。 振り返ると今度はゼルダが現れた。
「うわぁ。 髪がすごいことになってるや。」
おそらく樹液に当てられたのだろう。 少しだけ髪が滴っていた。
「やぁ。 みんな出られたんだね。」
「みんな境遇は同じだから単刀直入に聞く。 なにを見てきた?」
「なにを、と言われても。 ボクは昔の町の暮らしを見てきただけだよ。 ボクが連れ去られることの無かった未来の、ね。」
つまり普通に亜人として暮らしていた未来を見せられていたって事になるな。
「なんか一番出られなさそうな夢を見せられてたっすね、ゼルダ。」
「拙者も同じことを考えていたで御座る。 あまりにも自然体な夢程、あの世界からは出られぬと感じていた。 どのようにして出たのだ?」
「そうだねぇ。 確かに平和に暮らしていたよ。 でもそれだけじゃ足りなかったんだ。 それが何かって考えた時に浮かんできたんだよ。 セージの顔がね。」
「俺の?」
「だってそうだよ。 ボクがこの場にいるのは、セージとアリフレアに会えたからなんだ。 ボクが奴隷として街に運ばれて、命からがら逃げた先でセージと出会って居なかったら、今のボクはここに居ない。 そう思った時に、世界が白く包み込まれたんだよね。」
「私と、同じ、です。 ご主人様の事を、考えたら、目が覚めました。」
「なるほど、存在する類いの違和感ではなく、逆に無いことによる不信感も条件に入っているので御座るな。 良くできているで御座るよ。」
実際には感心することではないのだが、出られたのなら関係はほとんど無いだろう。 存在する違和感よりも存在しない違和感の方が気が付くのは難しいと思うが、ふとした瞬間に思い出すのが存在しない違和感を見抜くコツだろう。 誰向けのアドバイスだろうか?
そしてまたもカプセルが開けられる。 とはいえもうすでにメンバーは揃いつつあるので、ここでいない人物の事を考えれば、誰が出てきたかは明確だった。 みんなで一気にいくのも驚かせると思い、先に俺が先行して迎えに行くことにした。
「やあミルレ。 お目覚めはいかがかな?」
そう言って眠気眼のミルレが俺の事を確認して・・・手で顔を抑えて2歩後退り、顔を背けてしまった。 ちなみに顔を隠したミルレは耳まで真っ赤になっている。 そしてなにかに気が付いたミルレは、手の隙間から俺と目を合わせる。 その行動にこちらの方が困惑してしまった。
「えーっと・・・この樹が夢を見せてるのは俺達も知ってるから別に言わなくてもいいが・・・なにを見てきたんだ? 内容は・・・話せるか?」
ミルレがあれだけ狼狽しているのだ。 余程のものを見てきたのだろう。 するとミルレはまた顔を手で埋めてしまった。
「えっと、その・・・わ、私とセイジ様のご結婚式が披露されまして、それで2人で旅行に行ってその夜に・・・はうぅ! ま、まだあのような事をするのは早すぎます!」
あー、あれか。 普通にハネムーンの話を見たわけか。 しかも初夜付きで。 さすがに想いが早すぎたな。 ミルレの場合は違和感ではなく、単純に段階が飛んでしまったことによる熱暴走と言ったところだろうか?
俺達とは別の形で出てきたみたいになったな。 違和感と言えば違和感だからあながち間違ってもいないかもな。
「ま、とにかく全員無事で良かった。」
「そうなんだけど、この樹どうする?」
サヴィはこの巨木を見上げながらそう言う。 危険性に付いては俺達が身を持って感じている。 確かに燃やしたり伐ってしまえば2度とこのような事も起きないだろう。 だが実際に障害が出ているわけではない。 いや、行方不明の人間がいる時点でかなり危ないのだが、果たして残したままにしておくことは正しいことなのだろうか?
「この辺りは相談してみないといけないな。」
「相談とは誰に対してだ?」
「んー。 この巨木の精?」
「そんなことが、可能、なのですか?」
「分からないけど、とりあえずはやってみる。」
そう言って俺は巨木に手を当てて精霊を呼び出してみる。 するとすんなりと応答してくれた。
『どうしたんだい? もう君達に対して攻撃はしないよ?』
『なぁ、お前が栄養を取る方法は地面から取る方法と、人に干渉することだけか?』
『そうだよ。 でも人はちゃんと生きてる。 栄養を貰う代わりに夢を見させているって訳。』
『それなら常にいるわけではないんだな?』
『そうだね。 今はこれだけの人達の量を貰ってるけど、別に2、3人分でも事足りるんだよね。』
『それなら解放して、自分に害が無いことを説明しろ。 そうすれば納得して貰えるだろ。 時間は掛かるかもしれないが。』
『うーん。 まあ、勝手に倒されちゃうよりはいいかな? ちょっと人数がいるから順番になるけど構わないでしょ?』
『生きて返してくれるならそれでいい。』
そして俺は巨木から手を放す。
「お話、出来ましたか?」
「ああ、まずは順番に解放していくってよ。」
そしてそんな光景を見守り終わって、街に戻ることになったのは、大体2時間ほどだった。 さ、あとは帰って説明しないとな。




