気が付いた違和感
「先輩と話がしたいなら放課後にすればいいんですよ。 先輩の部活に行くといいですよ。」
昼休みが終わる寸前で蘭が笠名に耳打ちしていた。 こちらとしては飛鳥の相手もしなければいけないので気乗りしないが、話す機会のない彼女にとっては中々ないかもしれない。 そんな風に午後の授業を考えていた。
そして放課後。 俺は昇降口には行かず、ある教室の前に来て、ドアを開ける。 そこには
「あ! お疲れ様っす! 師匠!」
俺の姿を見るなり声をかけてきたのは後輩である古谷 健一。 彼もこの教室の使用者である。
この教室は部活で使われていて、部活動名は「文化部」。 文化祭に向けて様々な取り組みをしている、というのが表向きの話で、実際は遊びに主観をおいているのがこの部活動なのである。
「古谷。 俺を師匠呼ばわりするのは止めろって、いつも言ってるだろ?」
「まあまあいいじゃないか。 慕ってくれる後輩がいるのは良いことだぞ?」
古谷の言動に注意をしているところに教室の奥からこの学校の制服を着用していない人物が現れる。 彼は小松原 零斗。 この学校の卒業生でこの部活動のOBでもある。 主に彼の功績でこの部活動は留まっているし、実際にただ自分達も遊んでいる訳じゃない。
「そうは言いますけどねぇ。」
「あらあら、師匠呼ばわりは、清司君にはあまりよろしくない感じかしら?」
閉めたドアが再度開かれるとそこにいたのは女子生徒であった。 彼女もこの部員の1人の鶇 高音。 俺の先輩だ。 その鶇先輩の言葉に俺は溜め息をつくしかなかった。
「ふふふ。 まだまだ続きそうね。 ところで彼は?」
「ああ、あいつならそろそろ・・・」
「待たせたな清司! さあ、私と勝負をするんだ!」
鶇先輩が開けっ放しだったドアから飛鳥が入ってくる。 相変わらず喧しい奴と思いつつも、俺は既に準備はしてあるので、機嫌を損ねる前にとっとと始めるのだった。
「ゆけ! この攻撃が通れば私の勝ちだ!」
「だからいつも言ってるだろ? 勝ちを確信するのは終わってからだって。」
「な!? カウンター!? 逆に私の攻撃がこちらに来て・・・うわぁ!」
「これで決着。 特攻を仕掛けるのは悪くないが、リターンの事を考えておけっての。」
決着がついて、俺は溜め息をつく。 この光景を何度も見ているので、正直飽き飽きしている部分も多くある。 これで学年成績上位者だと考えると、頭を抱えてしまう。
「ひゃー。 やっぱり師匠は強いっすねぇ。」
「飛鳥もそれなりに戦術的になってきたが、清司には届かないな。」
「くっ・・・まだ時間はあるだろう!? もう一度戦ってくれ!」
「それもいいけど、そろそろ彼女も入れてあげたら?」
鶇先輩の言葉にドアの方を見ると、そこにはこちらの様子を伺っている1人の少女、笠名 千代子の姿が見えた。
「先輩、あの人誰っすか?」
「俺のクラスに来た転校生だよ。 ごめんな、気付いてあげられなくて。 入ってきても大丈夫だぞ。」
そう言うと笠名はそろりと入ってくる。
「済まないな、騒がしくして。」
「いえ、それはいいんですが、ここはどのような部活で・・・?」
「よくぞ聞いてくれました! 初めましてだよね? あたいは鶇。 3年生よ。 それでどんな部活かって事よね? この部活は・・・」
そう言って笠名が驚いているのを無視して語り始めてしまった鶇先輩。 しかもああなったら取り返しがつかないことをここにいる全員が知っていた。
「師匠、どうするっす? あれだと20分は解放されないっすよ?」
「そうだなぁ。 待ってるだけでもあれだから、こっちはもう1戦やっておくか。 零斗さん、相手してくれますか?」
「ああ、構わないぞ。」
「飛鳥先輩は俺っちとやるっすよ。」
「まだ勝ち越されてはいないが、油断は出来ん。 勝負に乗ろう。」
そうして笠名が解放されるまで俺たちは時間を潰していったのだった。
「っと、そろそろ帰るぜ。」
「お疲れ様っす。 有栖ちゃんによろしく言っておいて下さいっす。」
そうして部室を去っていき、靴を履き替えて校門を出ようとしたその時
「あの、野村君。」
先程まで部室にいた笠名が声をかけてきた。
「やあ、君もこっちなのかい?」
「え、ええ。 そうなんです。 もし良かったら一緒に・・・」
「そうだね、日が沈み始めてるし、一緒の道なら行こうか。」
「はい。」
そうして2人で歩いているのだが、笠名がソワソワした様子をしていた。 なにか問題だろうか?
「ええっと、野村君。 やっぱり、どこかで会っていたりしなかったかな?」
「昼も言ったけど、気のせいじゃないのかな?」
「そう、なんでしょうけど・・・なにか引っ掛かるのですよ・・・」
なにが引っ掛かるのかまでは分からないらしい。 とはいえ家も近くになったので、ここで別れる事になった。
「それじゃ、家はここだから。」
「あ、はい。 また明日です。」
そう言って笠名と別れ、玄関を開けると
「あ! お帰りなさい! お兄様!」
「うん。 ただいま。 有栖。」
有栖の出迎えを受け入れた後に、今日も両親は遅くなるという連絡をうけたので、有栖と2人で夕飯を食べて、風呂に入り、また明日のために準備をする。
「えーっと明日はあの授業だからこれがいるし、これは・・・いらないって前に先生が言っていたから・・・」
そんな時に机に置いてあったデッキケースを倒してしまった。
「おっと。 そこに置いてあったか。」
そういえば全然カードゲームに触れてなかったな。 まあやる機会なんて限られてるから、なかなか中身を確認し直すことも無いんだよな。 でも久しぶりにデッキを見ることにした。
「ええっと、キッキングホークスに歴史改変の代償・・・ハンドスティールも入ってるな。 うん。 変わってないよな。」
そうしてデッキをケースに戻して蓋を閉めて・・・再度デッキを見る。 ここにきて俺は記憶を取り戻すことが出来た。
「そうだ・・・あの時俺は後ろから水流に飲まれて・・・ここはその水の中の世界か? とすると俺は夢を見ているのか?」
色々と頭を悩ませるが、俺はある場所に向かうことに決めた。 そこに答えがあると感じたからだ。
俺は急いで着替え、部屋を出て、ベランダに向かう。 そこにはパジャマに着替えて、眠たそうに目を擦っていた有栖の姿があった。
「・・・お兄様? お出掛けになられるのですか?」
こうして改めて有栖を見直すと、本当に似ていた。 俺があの世界に行って、初めて会ったあの少女に。 だからこそ
「有栖。 夜の散歩をしようか。 大丈夫、そんなに遠くには行かないからさ。」
「お兄様が行くのなら私も行きます。 すぐに着替えて・・・わっ!」
正直時間が惜しかったので俺は有栖をお姫様抱っこして外に出た。 有栖は軽いなとか、有栖の靴とかは考えてはいなかった。 ただ一心にある場所へと向かいたかったからだ。 今の俺の行動原理はそれにしか過ぎなかった。
そして有栖を抱えながら移動すること数十分。 たどり着いた目的地というのは
「・・・お兄様の、学校?」
そう、俺の通っている高校だった。 そもそも今日1日を通して家、通学路、学校としか移動をしていないので、家でも通学路の途中でもなければ、消去法で何かあるのは学校しかないと考えた。
そして俺は何故か開いていた正門を通り、運動場を歩いて校舎側に向かうと、数名の影が昇降口に立っていた。
「お兄様? あの方たちは?」
「・・・やっぱりそうか。 最初から違和感だらけだったんだな。 この世界は。」
昇降口にはみんなが集まっていた。 俺の今住んでいる世界でのみんなが。
「悪いなみんな。 こんなところに集まらせて。」
「帰るのだな。 自分の世界に。」
「ああ。」
「この扉を開ければ、先輩の元の世界に繋がってるよ。」
「短い間だったっすけど、楽しかったっす。」
「あっちのあたいにもよろしくね。」
「ここに戻ってくることは無いだろうが、こういう世界もあったと思ってくれ。」
「お気をつけ下さい、野村君。」
みんなの言葉を飲み込みながら有栖を下ろす。 そして扉に手を翳そうとした時に、不意に裾を有栖に掴まれる、が、有栖も分かってくれたようで、すぐに離してくれた。 悲しい顔から、優しく微笑んだ顔になる。
そして俺は扉を開けて、中に入っていった。
『やぁ。 この空間を脱出したのは君が初めてだよ。』
どこからか声がするが、声の主はいない。
「お前は誰だ? 探索者たちを連れ去ったのはお前か?」
『僕は洞窟の奥の空間で育った大木。 正確にはその意思になる。 連れ去ったというのは少し違うかな。 全員生きているし、君と同じ様に夢を見ているだけさ。』
「・・・目的はそれだけか?」
『うん。 それだけ。 ただ僕の栄養と君達の持っている栄養を交換はしているけどね。』
「なぜ他の人は脱出出来ない?」
『ちょっとした違和感に気が付いていない、もしくは見てみぬフリをしているからかな? 夢を見るというのは時に視野を狭めてしまう。 そしてその夢が大きければ大きい程、盲目になりやすい。』
「・・・害がないようなら俺はお前を伐採したりはしない。」
『へぇ、君は随分と優しいことを言ってくれるね。』
「だが同じ様になっている人達は全て帰させてもらう。 お前を倒す以外でやり方はあるのか?」
『僕の方から違和感を強調しておくよ。 ああ、でも君のお仲間さんたちは自分達で脱出出来そうだからそのままにしておくね。 多分君が目覚めて、30分くらいにはみんな戻ってきそうだし。』
「そうか。 後は他の人達の説明だよな。」
『その辺りも僕が何とかしておくよ。 君が一番の理解者だからね。 これ以上の手間はさせないよ。 さ、もう目覚めさせてあげよう。』
そう言い残して、俺は目映い光に包まれたのだった。
夢は覚めるものです




