未来視、投影水晶、病
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?
なんだろう? 今の会話に、最後に言った言葉に違和感があった。 確かフィアンセ様って・・・いや、気のせいだよな。 王族ご一行のお出迎えでちょっと驚いて、あること無いこと聞いてしまったに違いない。 空耳だ空耳。 この半年でなにかと頭を使う機会が多かったから、脳が疲れているせいで聴覚にまで影響しちゃったんだろうな。
「いかがなされましたか?」
そう思っていると心配そうに声をかけてきたミルレ様。 これは心配をかけてしまったな。
「いえ、すみません。 なにぶんここまで来るのに様々な事がありましたもので、思考と状況を整理しておりました。」
「そうだったのですか。 唐突な事だったことをお詫び致します。」
そう言って頭を下げるミルレ様。 うん。 そうだよな。 こんなに気を遣ってくれている娘が予想だにしない事を言うわけ無いよな。
「では改めて行きましょうか。 セイジ様。」
「・・・その前に1つ。」
さすがにこれは聞き逃さなかったぞ。 うん。 だっておかしいもの。
「えーっとミルレ様? 自分はまだ名前を名乗っておりません。 なのに何故自分の名前を知っておられるのでしょうか? あと差し支えなければなのですが、先程自分の事をフィアンセと言ったと思うのですが・・・?」
「その辺りもお城にお着きになりましたらご説明致しますわ。」
そう言って踵を返すミルレ様。 悪い娘に見えないだけに怪しさの残るやり取りをしてしまった。 これは着いていっていいものだろうか? いや、真相は知らなければならないだろう。 俺達は着いていくしか出来なかった。
「では改めまして。 私はエンシフェアの現女王 ミルレ・フェアラティスでございます。」
「わしが現国王 カシオ・フェアラティスである。 少し病を患っているため、立つことも少々苦しい。 このような形での挨拶で申し訳ない。」
「ミルレの母でカシオさんの妃のケーラ・フェアラティスでございます。」
城に連れてこられるのはもう何度か経験したことなので慣れてはいたが、先程のミルレの言葉が離れず、少し軽々しい感じで返してしまう。
「本題に入る前に、確認しておきたいことがあるのですが。」
そう言ったのはベルジア。 いや、この場合はみんなの代表として、言うつもりだろう。 はぐらかすことの出来ない、第三者の視点から。
「先程ミルレ様は、セイジの事を「フィアンセ」と呼ばれていたそうな。 しかし彼はこの国を一度も訪れたことはないと申し上げておりますし、なによりミルレ様との面識が一切あるわけではありません。 初対面である彼に「フィアンセ」と呼ぶのには、どのような訳があるのでございましょうか? お教えいただけないでしょうか?」
さすがベルジア。 的確な質問だが、聞いていて不快に一切ならない。 元々威圧的な印象は無かったが、次代を担うと言う使命を背負っていると言うこともあってか、最初は高圧的な印象だった。 それが今やこんなにもなって・・・と感動はまた後だ。 実際のところはどうなのだろうか?
「それは私の「未来視」による「将来像」が映し出されたからです。」
「未来視?」
「まずは前提をお話ししなければなりませんね。 まず私の父は「妖精族」の血を持っているのです。 母は人族ですので、私はその2つの血が流れているのです。 「ハーフフェアリー」と呼べば分かりやすくはなるのでしょうか?」
「妖精族! その昔その特殊能力があるゆえに乱獲されかけて、絶滅寸前まで追いやられたと言われる種族ね!」
サヴィが興奮気味にそう発する。 彼女はこう言うところがあるので、少々無礼が働く部分もあるが、その辺りは許して貰いたい。
「伝説や噂を流してそれらを回避はしたのですが、そのせいで同胞達は散り散りになってしまい、子孫であるわし達の世代も、こうして世にほとんど知られること無く暮らしているのである。」
なんとも不憫な扱いを受けているが、自分達の種族がいなくなりかけているのだから、必死だったのだろう。
「それでその力が娘さんに受け継いでいる、と?」
「わしの力とはまた別のものだがな・・・ごほっ。」
「そして私の未来の姿は、その方と婚約をすること。 しかし私もそれがどのような人なのか一切分からなかった訳です。」
「それはそうですよね。 未来の事なんだし。」
「ですから私はもう1つの「観れる」ものを使って、セイジ様を観ていたのです。 それがこの「投影水晶」というものです。 これは観たい人物その周りの風景を部分的に映像として観ることの出来る代物です。 ですが、その消費魔力も凄まじく、私も1日に何度も観ることは出来なかったのです。」
あの水晶で観られていたのか。 なんか前の世界のドローン撮影みたいだな。 うーん、でも部分的にか・・・ 綺麗な部分しか映し出されていないのなら、それはそれで危ないような気がするんだよな。
「ちなみに見えるようになったのはいつからなのですか? 未来視も、水晶の方も。」
「今から3、4ヶ月程近く前の事になりますわ。」
今からだとファルケンと会ったくらいの時期になるか? この国での日数計算が分からないからなんとも言えないが、少なくとも季節だどうのこうのというのを今のところ感じていない。 全員ほとんど同じ服だしな。 しかしそうなってくると、あること無いこと観られてるような気がしてならないな。
「あの、部分的にということは、ミルレ様にとっても、心苦しい場面を、観ることに、なったのではないですか? 人というものは、人の見えないところで、どんなことをしているか分からないものですから。」
「ご安心下さい。 そのような部分も含めて、セイジ様の事をフィアンセとして決めたのですから。」
そう言われると、嬉しいような、複雑なような・・・
「いや、それよりも。 いいんですか? 娘さんこう仰っていますが、こっちはただの旅人ですよ? それこそ妖精族の力が、どこぞの馬の骨かも分からない人間に行き渡ってしまうのかも知れないのですよ?」
そう俺が言うと王も王妃も顔を見合わせる。 が、すぐにこちらに向き直る。
「確かにわしとしても気の知れぬ男に渡すつもりはないが、ミルレが君の事を水晶で観ている時の表情が嬉しそうだったのでな。 それに君自身も、会ってみて優しさや気を使う精神力がとても紳士的だと思った。 わしとしても政略結婚やらで変に婚約相手国に力を使われるよりは、君のような人物に娘を任せた方が断然安心が出来るというわけだ。」
「私としても、孫の姿は生きているうちに拝んでおきたいですね。」
それでいいのか、親として。 しかし俺だって好意を持たれるのはやぶさかではないし、むしろ嬉しい。 だが向こうは俺の事を(どれだけの事なのか)知っているにしても、俺の方が全く知らないし、そんな王族と結婚なんて事を考えるわけもなかったので、どうしたらよいのか、俺の方が困ってしまう。
「・・・いきなりの申し出で困ってしまうのは分かります。 確かに互いの事をよく知らず結婚など、昔のやり方です。 なので最初は互いを知ることから始めませんか?」
どうやらその辺りは向こうも汲み取ってくれたらしい。 そういうことなら俺も安心できる。
「分かった。 俺も君に本当に相応しい人物になれるか、考えてみる。」
「ご主人様?」
「心配するなアリフレア。 別に王族と結婚したところでなにも変わらないさ。 ま、許嫁のようなものが出来たって考えた方が気は楽かもな。」
「あまり楽観的にならない方がいいと思うぞ。 私としても怪しい素振りは無かったが、さすがに理由が急すぎる。 腹の探りあいだけは避けたいところだ。」
そのベルジアの意見には同意する。 こっちだって好意を貰っているのに疑いたくはない。 だからこそ俺達のここでの目的があるのだから。
「ごほっ、ごほっ。」
「あなた、無理をなさらなくても良いと言ったのに。」
「この目で確かめたかったんだよ。 娘が「投影水晶」で見ていた人物が、どのような人なのか。」
気持ちは分からなくはないが、それはちょっと頑張りすぎじゃないか? そう思っていると、サヴィが前に出ていった。
「ちょっとよろしいかしら?」
「君は?」
「病としては少し妙な部分が見えたので。 どこか部屋を貸して貰えますか?」
「え、ええ。」
そう言ってサヴィは王様を連れて、どこかに行ってしまった。
「まぁ、サヴィなら余計な事はしないだろ。」
そう思わざるを得なかった。




