町の救世主
別荘から離れて2日。 俺達は狩りを行っていた。
それには訳があり、そもそもトズナの街を出る際に買い物をし忘れていたのだ。 色々と突拍子の無いまま話が進んだせいで食糧にまで手が回らなかったのは俺の落ち度だった。 飢えを凌げない訳ではないが、いかんせん同じもので飽きていた事もあり、鈍った身体を動かす意味でも、総力をあげて、狩りに挑んでいたのだ。
「うーん。 久しぶりの野性味溢れる味っす!」
ファルケンがそう言うのも無理はない。 何しろ馬車を手に入れてから買い貯めをすることが多くなっていたので、加工品が多かった。 そのせいかこっちの肉やらがやたら新鮮に感じてしまう。
「それで、次の町までは、あとどのくらいにありそう?」
木の実を食べながらゼルダが質問をしてきたので、その質問に答えるべく俺は地図を開いた。
「ファルケンの見立てでは今はちょうど間の所にいるらしい。 だからドーホース達の体力とかを考えて、とりあえずは2日で着ける予定にしてある。 町とは言えかなり小規模。 ボラッタ様が確認が取れている町じゃないかもしれないな。」
「国土が大きくなればなるほど、町外れの管理が難しくなるからな。 下手をすると、私達が行く前に無くなっている可能性もなくなはい。」
なるべくならそれは無いようにしたいところではあるんだよな。 国の地図の内容が変わるのだけは、さすがに困る。 とにかく行ってみるしかないか。
そんなこんなで大体2日程が経過した頃、俺達が森を進んでいて、休憩として待っている間に、ファルケンが辺りを見渡すと言って、空を飛んでいった。 ああしてファルケンが空を飛んで見渡すのって、なんか上空観測機みたいだなと思った。 ファルケンは機械ではないが。
「師匠。 なにやら小さな建物の集合地が見えたっすよ。」
「どっちの方角だ?」
「この道を真っ直ぐ行って、ちょっと左に行ったところっす。」
ファルケンの言い分と俺達のおおよそのいる位置を地図で照らし合わせてみる。 すると俺達が向かっている町だということに気が付けた。
「よし、この休憩が終わり次第、そのままその町に入るぞ。」
『了解。』
そしてみんなの声が重なった辺りで、俺も少しだけ身体を伸ばしておいた。 こうしないと身体が鈍るんだよね。
「ところでファルケン。 町の様子はどうだった?」
「特に変わった様子は一切無かったっすよ。 普通の町だったっす。」
「ま、上からならそんなもんだよな。 なにもないならそれでよし。 なんかあっても対処できない事はないようにするのが一番なんだが・・・」
さて、どうなるか。 良くないことだけは避けたいんだが。
「なにをしに来たんだお前達! この先へは行かせないぞ!」
町の門番に開口一番でそんなことを言われてしまった。 しかも理由がなにも分からない。
「ちょっと待って下さい。 我々はここに来たばかりですよ? 一体なにを・・・」
「ええい! 喋るんじゃない! 貴様達が悪の使いなのは百も承知! 貴様らをこの町に入れることは断じてさせんぞ!」
なんだ? 最初っから混乱しているのか? そもそも俺達はここに来たのはついさっき。 一度もこの町に入ったことすらないのに「悪の使い」呼ばわりとは、おおよそ旅人に向けて言う言葉ではない。
「現に、貴様はその魔物を使役しているではないか! それは言い逃れ出来ぬ事であろう!?」
門番の1人にフードを被ったファルケンを指差されました。 しまった。 飛んでるところを見られていたか。 しかしそれだけで魔物呼びするのはさすがに癪に障ったので、どういう経緯であれ、言っておきたくなった。
「確かにファルケンは人族じゃない。 だが彼は魔物じゃない。 亜人という種族なんだ。 それに彼は見た目に反して大人しい性格なんだ。」
「信じられるかそんな言葉! 見るからに怪しい集団ではないか!」
イラァ・・・ 話を聞かねぇなこのやろう。 完全に安全な保証がないのはこっちとしても分かっちゃいるが、聞く耳持たないのも甚だしいぞ。
「お止めなさい。 その者達が困っているではありませんか。」
そう後ろから別の人物が現れた。 容姿としてはサヴィ程の若さで、薄い茶色のポニーテール。 顔立ちだけ見れば俺や零斗さんと同じような・・・同じような?
「おお、アリカ様 このような場所に来られてはなりませぬぞ! 彼らは悪の使いなのです! 町の救世主となってくださるアリカ様には、指一本触れさせぬぞ!」
その門番の言葉を無視して俺はアリカと呼ばれた少女を見る。 ここまで俺達に似た顔立ちをしているということは・・・ もしかしたら彼女も・・・ そう思っていると向こうもまた、俺と零斗さんを見て、同じ結論に至ったらしい。 が、いかんせん前の門番2人が邪魔で会話すらままならない。 さて、どうするか。
「旅のお方、あなた方はどのような目的でこの町に来られたのですか?」
「アリカ様、無駄でございます! あのような輩に声をかけるなど・・・ アリカ様の命を脅かす存在なのですよ!?」
「私を前に出さないのは構いませんが、少し話をさせては貰えないでしょうか? 危うくなればそのまま攻撃しても構いませんので。」
「いけませぬ! 口巧みにアリカ様を近付けさせようとするに違いありません。 あなたはこの町を守ってくださる救世主。 あなたが倒れれば、再び我々の地は安住は来ないでしょう。」
「あなた達の保身が出来るかどうかは彼らの行動にもかかっています。」
「奴は魔物を従えているのですぞ!? そのような輩が脅威ではないと申すのですか!?」
「ならばなおのこと考え方を改めなさい。 もし彼等が悪の手先と言うのならば、あなた達は既にこの世におらず、町は崩壊の意図を辿っているのではないでしょうか?」
おお、聞き分けない門番に対してかなり正論を並べている。 しかしただそれだけで町の救世主になれるとは到底思えないのだが?
「そこのお方。」
「俺か?」
「あなた方の旅の目的を聞かせて貰う事は出来ますか?」
「ええ。 俺達は国から国へと渡る旅人でございます。 このトズナから離れる前に、急速も予て立ち寄った運びとなります。」
「あなたは魔物を従えていると言っておられますが?」
「確かに人族とは性質が異なる者はおりますが、決して魔物ではありません。 亜人と呼ばれる種族で、知能はしっかりとしております。」
そこまで説明して、考え込むアリカ。 嘘は言っていないが、信用はされていない。 そんなところだろうか、彼女の今の心境は。
「惑わされてはなりませぬ! あやつはアリカ様を誑かそうとしているのです! 気を確かにお持ちください!」
それはこっちの台詞だ馬鹿野郎。 なんの確証もなく俺達をただただ悪者扱いしやがって。
「あなた達こそ、相手を勝手に判断しすぎです! 本質も分からずに怒鳴り散らしていては、互いに混乱することが分からないのですか! 前回の反省を活かそうとしているのなら、用心をすることにすれば良いのです!」
「入れる前に対応すれば、悪い噂などは立ちませぬ! あなたをもし失うような事があれば我々は・・・」
「あー、ちょっといいですか?」
話を聞いていても埒が明かないし、完全に憶測でものを言っていそうだったので、傍観は止めて割り込むことにした。
「なんだ! 悪の使いに聞く耳など持たんぞ!」
「ならこいつで話をつけてみようじゃないか。 こいつには不思議な力が宿っていてな。 相手の本質を見抜くことが出来るんだよ。」
そう言って俺はディスクとデッキを取り出す。 不思議な力、何てものは嘘っぱちだが、本質を見極めるというものならば嘘は言っていない。
「そのような悪質な手口に乗るわけが・・・」
「良いでしょう。」
「アリカ様!?」
「分かってくれてありがとう。 制約は結ばないからそこだけは安心しな。」
確かにこれではどっちが悪か分からなくなってくるな。 悪もなにも互いになにもしてないのにな。
「お止め下さいアリカ様! あのものはアリカ様の手の内を明かそうとしておられるのです! でなければアリカ様に立ち向かうなど畏れ多い行為が行えますでしょうか!?」
「慎みなさいと言うことが分からないのですか。」
アリカにピシリと言われた門番は、これ以上なにも言うことはなかった。 そして互いにバイザーをかける。
「先程からの無礼をお許しください。」
「なにがあったのかは、これが終わった時にでも教えてくれや。 とにかくやろうか。」
「ええ、行きましょう。」
「「さぁ、劇場の始まりだ!」」




