人身交渉
ドーホース達を走らせること3日。 俺達はソベルタの中心街に着いていた。
「・・・やはり変わってしまったので御座るな。」
寂しそうに呟くのは零斗さん。 零斗さんはこの世界には、勇者を呼び出す何らかの方法で召喚された時の余波により、訳も分からずについた日本人。
俺は一度死んでからこの世界に来ているので「転生者」、零斗さんは召喚及び何かしらの方法でこの世界に来た「転移者」と、似ているようで違う形でこの世界の住人となった。
しかしそれぞれの生き様は全く違うものだった。 零斗さんは右も左も分からずにこの世界に呼び出され、そしてこの国で傭兵をしてやっていくことで、自分の居場所を確立させた。 そうせざるを得なかったのだ。 そしてそんな国が零斗さんの、というよりは傭兵部隊を必要としないと言われ、国にいる意味が無くなった零斗さんは陸続きのこの世界で俺達に会うまでサバイバルを行っていたそうな。
だからここに戻ってくること自体に意味はほとんど無い。 だが俺達の行く先がここならば、ついてきてもらうしか無いのだ。
「前はどんな国だったのよ。」
「城壁や武器庫ばかりの、なんとも殺伐とした場所で御座った。 これだけ小綺麗になったのならば、平和が訪れているという意味では、拙者としても嬉しい限りなので御座るが・・・」
どこか腑に落ちない様子で、中心街に入るための門を見ていた。 確かにアイルメーヌとソベルタの国境には検査所のような物はあったものの、検査員などがいなかった。 検査員がいなくなる程平和になっている、と言えば確かにそうなのだろうが、傭兵国だったことを考えると、そんな手のひらを返すような平和があるのかと疑問にすら思うほどだ。
「実際レイトはどうみてるの? 今のこの現状。」
サヴィからの質問に零斗さんはしばし考えた後に
「拙者は傭兵部隊故、国の安泰を願って戦ったで御座る。 しかしそれが無くなった今となっては、やはり拙者は、この国にいるのは、少々酷だったで御座ろう。 平和であれば傭兵は要らぬ。 平和な国など、拙者には似合わぬ。 遅かれ早かれ、この国とは離れていたで御座ろうな。」
そう悲しそうに語っている。 しかしそれは零斗さんが決めたこと。 公開などはしていないようだ。
「さ、行くで御座るよ。 この街は舗装がされているで御座るから、馬達も歩きやすかろう。」
どこか急かすように歩を進ませた零斗さん。 苦しそうにはしていないが、こうなったなら、一刻も早くこの国とは離れた方が零斗さんの為なのかもしれない。
そう思ったのはこの城に入ってから数時間前の事だったなと、この話を聞いた後ながら思い出してしまった。
「どうしたのですレイト・コマツバラ。 話が聞こえなかったのですか?」
目の前で座っている人物。 明らかに俺達よりも幼い、アリフレアとどっこいどっこい位の少年が、王座に座り、王らしいコートのようなものを羽織っていた。
「・・・いえ、話は聞こえていたで御座る。 ソベルタ国王殿。」
「その呼び方はおよしなさい。 昔のように「ナーフ」とお呼びになって下さい。」
「では、そう呼ばせていただくとするで御座る。 ナーフ殿。」
ナーフと呼ばれた少年はその言葉に微笑みかけていた。
「しかしまさかナーフ殿が後任されていたとは、思いもよらなかったで御座る。」
「確かに候補は複数いたが、なんとか勝ち取ったのだ。 その後にレイトがいなくなって寂しい想いをしたのだぞ。」
俺は2人のやりとりに困惑していた。 いや、そもそもそれでは先程の話の織りがつかない。 なんとか説明にまでこぎ着けたいのだが・・・
「それはご失礼を致したで御座る。 では失礼を承知で、先程の話をもう一度してはもらえぬで御座ろうか?」
「いいでしょう。 他ならないレイトの為だ。」
そう言ってナーフは深呼吸をする。 そして、
「レイト・コマツバラ。 もう一度この国の民にはならないか? 衣食住はこちらで保証しよう。」
先程と一言一句同じ言葉を繰り返し、ようやく話が見えてきた。
「・・・つまり、零斗さんにこの国での永住権をくれるってことでいいのかな? ナーフ国王。」
「そうなりますね。 あなたは・・・」
「自分はセイジ・ノムラというものです。」
「なんと。 レイト以外にも同じ様な名前の配列者がおられるとは。」
「零斗さんとは旅先であったもので。 しかし今の話は・・・」
「おっと、そちらが自己紹介をしたのですから、僕の方も行うのが礼儀でしょう。 みなさん初めまして。 僕は「ベルトナーフ・ソベルテ」。 現国王となっている人物だ。」
その言葉を聞いた後、俺は零斗さんに声をかける。
「零斗さん。 知り合いみたいなので、補足をお願いできますか?」
「彼は前国王の5人の子供の末っ子で御座る。 歳としてはアリフレアと同等で御座るよ。」
「やっぱりですか。 それよりも、そんな人材がなんで国王になっているのかと、零斗さんがなんで知り合いなのか聞きたいです。」
「恐らくは前国王が、後任させるためのなにかをさせたので御座ろうな。 汝も王権と聞いて大体は察せられると思うで御座るが、本来王族の跡継ぎというものは、その次世代の長男、いなければ長女が継ぐものとなっているで御座る。 末っ子が跡継ぎをやるなど、その上の者達が廃嫡されなければあり得ないことで御座る。」
「そのあり得ないことが起きたと?」
「分からぬ。 拙者が会っていた時は、今以上に幼かったが、他の者以上に拙者に懐いてきてくれてきたので御座るよ。」
懐いてきていた王族の末っ子か。 傭兵として雇っておいて、使うことがなくなったら捨てた国だろ? それで改めて永住権だって? ややこしいことこの上ないな。
「お言葉ですがナーフ国王。 レイトは今は我々と共に旅をしている仲間であります。 それにそのような話を前触れもなく話されてしまっては、レイト自身も困ってしまいます。」
「・・・確かに道理は通る。 しかしベルジア次期領主殿。 僕だってこの話をこんな形で唐突に話したかった訳じゃない。 変わろうかと思った時には既に旅立っていたのだから、止めようがないじゃないか。」
ナーフ国王もそこの非は認めるようだ。 確かに帰る場所があるのはいいことではあるだろう。 俺みたいには少なくともならないのだから。
「・・・改めてどうかな? レイトの功績は僕自身が良くみている。 それなりの境遇を与えることを約束しよう。」
この場合決めるのは零斗さん本人だ。 しかし俺は零斗さんの決断を止める事はしない。 それも零斗さんの選んだ道なのだから。
「・・・ナーフ殿。 確かにその提案は魅力的で御座る。 だが拙者にはセイジ殿達も、共に過ごしてきた中で、この国で与えられた以上の仲間意識が芽生えているで御座る。 そう簡単には決められぬ。」
「・・・」
「そこでどうで御座ろう? 制約に最も乗っ取った方法で決めるというのは。」
そう言って零斗さんは自分のホルスターをナーフ国王に見せる。 するとナーフ国王も笑って返した。
「確かにその方が確実かな。 では僕が勝てば永住権は受け取ってくれるね?」
「うむ。 では拙者が勝てばセイジ殿達といることを認めて欲しいで御座る。」
『制約 レイト コマツバラの永住権について』
「セイジ殿。 拙者の近くに来てもらえるで御座ろうか?」
「アドバイスはしないですよ?」
「そのようなもの、必要ないで御座るよ。」
そう言って俺は零斗さんの近くに行く。 するとそれに合わせて、サヴィも近くに寄ってきた。
「え? サヴィも近くで見るのか?」
「面白そうなことでも起きそうだと思ってね。 別にいいでしょ? ジャッジは公平に行うわよ?」
「そんなことしねぇよ。 しなくても零斗さんは強いからな。 勝てるかどうかは別だけど。」
その言葉にサヴィは首を横に傾げた。
「まさかこうしてレイトと戦える日がまた来るなんてね。」
「拙者としても色々と聞きたいことがあるで御座る。 それも踏まえて、今回はこのような形を取ったで御座る。」
「でもいいのかい? 僕もレイトもそれなりにカードゲームはしているはずだから、互いに特徴は知り尽くしてる筈だよ?」
「構わんで御座る。 それでは」
そうして言葉を閉じ、零斗さんとナーフは同時に叫んだ。
「「さぁ、劇場の幕開けだ(で御座る)」」




