魔法使いの隠れ里
いきなり声を掛けられた俺達は、路地裏の先にいる人物に目をやった。 フードを被っているので分かりにくいが、声が少々ひしゃげていたので、老いた人物であることは分かった。
「なんです? お婆さん。 こんな日陰に入って。」
「すまんね、わしゃ日の光があまり得意じゃなくてね。 こんな形での対面で申し訳ないねぇ。」
こう言う時にリーツェ様の力は十二分に発揮できるんだけどなぁ。 まあピンポイント過ぎて使いどころに困るが。
「それで、声を掛けてきた理由は?」
「あんたは魔法使いは存在すると思うかね?」
魔法使い。 ファンタジーの世界になら必ずと言っていい程出てくる職業、もしくはそう言った種族を指す。 具体的には体の中にある、魔法を使うための魔力?みたいなものを詠唱を行うことでそれを体外に形として放出する・・・みたいなのが正直頭に浮かんでくる魔法使いの想像の設定。 実際のところは人間が強くなるが為に禁忌に触れたものだとか、そう言った魔術的な本を持っている者がそうだとか、作品が違えば魔法使いの定義も特色も色々あるので、確立しているものが存在しない。
閑話休題
目の前で「魔法使いはいると思うか」という問いに対しての答えを出さなければならないが、まずは同じ質問を聞いていたみんなに目配せする。 と言ってもこの問いは俺に向けてのものなので、目配せしたところで意味はないが、みんなは半信半疑な感じでいた。 だから俺はこう答えることにした。
「いないとは思ってはいないです。 会ったことがないので曖昧な答えにはなりますが。」
正直自分も半信半疑なのは確か。 どう捉えられようとも俺は俺なりに答えを出した。 そうすることしか出来なかったから。 すると老婆は「フフフ」とどこか嬉しそうに笑っていた。
「完全には「いない」と否定しなかった。 それだけでも信じて貰うには十分に価値がある。」
俺の言った答えが正しかったのか分からないが、機嫌を損ねているわけではないのは感じ取れた。
「着いて来てくれるか。 とある場所に案内したいと思うのじゃ。」
「とある場所?」
「魔法使いしか棲むことが出来ぬ領域。 わしゃを通じて案内しよう。」
路地裏のある一角で行われようとしている事。 それは俺達に魔法使いの領域に案内するというものだ。 魅力的な誘いと同時に疑問だらけで簡単には路地裏には入れない。 正確には更に奥に踏み込めないでいる。
「フフフ。 警戒するのは当然の事。 ここでホイホイと着いてこないところも評価できる。」
「・・・あんたの目的はなんだ?」
「そうさね。 いきなりすぎるのも悪かった。 じゃがお主の事も試したかった。 それだけは許して欲しい。 わしゃ隠れ里で水先案内人をしておる「アーリー・マテリアル」と言う者じゃ。 お前さんにはある人物に会って貰うために声をかけたのじゃ。」
「なんで俺なんだ? こんなに亜人がいるのに、なんで人族である俺なんだ?」
「人族故、いや、魔法使いにしか分からぬ、身体に流れる「魔力の流れ」というものが、お主の中にはち切れんばかりにある、と言えば納得して貰えるか?」
そう言われても得体の知れないものを信じろという方が難しいんじゃないか? 苦し紛れの言い訳にも聞こえる。
「ま、聞くよりも見た方が断然早いじゃろ。 ・・・ほれ。」
そう言ってアーリーと言った老婆はなにもない空間に指で円を描くと、次の瞬間、明らかに向こうにはない景色が写し出されていた。 どこかの森の集落の入り口だ。
「ここから先がその隠れ里だよ。」
「・・・行けるのは俺だけか?」
「信頼できるというのなら、連れていっても構わんぞ。」
そういうことならと、俺はみんなを連れていくことにした。
「大丈夫なのか? 魔法使いの有無に関しては、まだあやふやな部分が多いのだ。 そんなのを信じてしまって。」
「いてもいなくても、あの向こうに見えている空間が明らかにこことは違うのはもう視覚が証明している。 真偽はそのあとでも構わない。 それに俺は正直ワクワクしている。 本当に魔法使いが存在するのかってな。」
俺は疑問半分、興味半分でこれから向かうのだ。 本物でも偽物でも、魔法が存在していることには興味あるし。
そうしてその捻れた空間の中に入ると、確かにさっきまでいた街の風景など一切関係無くなり、周りは森で囲まれ、木の太い枝に家を器用に建てていた。
「魔法使いの里、というよりは一民族の集落にも見えるな。」
「木の上に、お家が、建って、います。」
「あ、見てくださいっす。 あの人、羽もないのに宙を飛んだっすよ。」
みんなは周りの景色に目移りしているが、俺はそれよりもまだ聞けていないことがあった。
「あんた、さっき会わせたい人がいるって言ったな? どんな人物に会わせようとしてるんだ?」
「わしゃ達の中でも魔力の高い女性じゃ。 しかしその者はこの里の長ではない。 まだまだ若すぎるからのぉ。 しかし若さゆえに好奇心が旺盛、そんな方じゃ。」
若すぎる? 確かにアーリーからしてみればここにいる人、魔法使い族は若く見える。 不思議なことは言ってないはずだが、なにか引っ掛かる言い方だった。
「なんか、魔法使いだって言うのが嘘みたいっす。 魔法使い族っていうのは本当なんすかね?」
しばらく里を歩いていてファルケンがそう口にしていた。
「しかしこのような密閉した里では、そこまで魔法をしないので御座ろう。 ここまで来て実際に魔法の力を目にしていないので、確かに嘘か真か分からないで御座るな。」
半信半疑なのは仕方の無いこと。 あれだけ言っておきながら「あんたらに興味があるだけだ。 魔法使い族の里と言うのは嘘だ」と言われたら堪ったものではないぞ。 そんなことを考えていると、一つの家の置いてある大木を前にアーリーが立ち止まった。
「ここが目的の人物のいる家かい?」
「そうじゃ。 サヴィ様。 サヴィ様は在宅されていらっしゃいますでしょうか?」
アーリーが叫ぶ。 すると数秒後にその家の戸が開けられた。
「どうしたのアーリーおばさま。 また外から人を連れて・・・」
そう言いかけた女性は、俺と同じくらいの年齢で、灰色のロングヘアーで目は寝起きのようだが猫目の女性だった。 寝巻きなのかかなり際どい服で、ゼルダには敵わないにしても豊満な物は持っているようだ。
「・・・へぇ。 今回は大当たりも大当たりだと見るわ。 あたいもここまでのは初めてだわ。」
「サヴィ様。 まずはお召し物をお気になさってくださいな。 客人の前ではみっともないですよ。」
「あっと、そうね。 下心があるような顔をしていなかったから別にそのままでもいいかなって思ったけど。 ちょっと待ってて。 あたいも服を着てくるから。」
そう言ってサヴィと呼ばれた女子は奥へと引っ込んでいった。
「なぁ、あのお転婆な彼女に会わせたかったのか?」
「そうですじゃ。 しかしただのお転婆娘じゃありませんぞ。 サヴィ様はこの里の中では敵わない程の優れた魔法使いなんじゃ。 合成魔法はもちろん、魔力の消費を抑えた魔法の出し方なんかも、サヴィ様の好奇心あってこそ発見できた代物。 我々老人からしてみたら、若さの素晴らしさを体現しているかのようじゃ。」
「相変わらず大袈裟ねアーリーおばさまは。 あたいはあたいなりに魔法の研究をしただけなんだから。」
そう言ってサヴィは先程の際どさとは逆に帽子にコート、シャツにセミロングスカートと、魔法使いに相応しい格好になっていた。
「初めまして人族の方。 あたいはサブミニノ・ハイロゥ。 みんなからは略称でサヴィと呼ばれているわ。 そちらの方も自己紹介からお願いできるかしら? 私自身もあなた達には物凄く興味があるし、色んな事を聞いてみたいからね。 名前が呼べなきゃ不便でしょ?」




