亜人としての苦労
リーツェ様は自分の生い立ちを語り始めた。
「私も昔はなんら変わらない人間だったのです。 両親共々人族でしたし。」
「じゃあなんで亜人の国の王に?」
「亜人が産まれる理由は、親からの亜人の由来となる何らかの細胞が入り込んだことによる変異と言うのは間違いではありません。 そちらのお二方も、そうだったのでしょう?」
そう言ってリーツェ様はゼルダとファルケンを目配せする。 確かにこの二人、いや、亜人の大体はそうなるのが普通だと思う。 出なければ亜人などという種は産まれない。
「しかし私の場合は違った。 幼い頃にただの小言だと思って聞き流していたのですが、成長するにつれてそれが口から発せられているものではないと気が付いた時は、両親は困惑していました。 心が読めるのだと分かった瞬間に他人が考えていることや嘘本当が鮮明になったのです。」
「リーツェ様はその事について、当時はどう思われたのですか?」
ベルジアが聞くと、リーツェ様は暗い顔をなされた。
「この時点で私は普通の人族ではないと自らに悟ったのです。 とはいえ口に出さなければ不思議がられないし、こうしてバイザーをすればある程度は制御できます。 それでも筒抜けになってしまう部分はありますが。」
全部聞こえるよりはマシだろうと考えたが、四六時中人の思考を見続けるのはクるものがあるのだろう。
「それで元となった生物について調べてもでてくることはなかったのです。 後天性というだけでもかなり稀なのですが、そのような生物など聞いたことが無かったのです。 そこで出てきたのが」
「俺の覚妖怪という言葉か。」
つまり俺なら何かしらは知っていると思って聞いたんだろうな。 互いの情報を出し合うことは利益にはなるだろうが・・・
「残念だがさっきも思った通り、覚妖怪は俺達の世界でも存在する生物じゃない。 だからどんな生物かの説明も出来ないし、そもそもそんなのが遺伝的になったなんてあり得ない。 それは亜人生誕の定義から外れる。」
「そうですか。 一縷の望みと聞いてみましたが、存在しない生物・・・ですか。」
「お力になれず、申し訳ありません。」
「あなたに非はありませんよ。 亜人との交流を促進してくれている存在を無下には出来ませんよ。」
それはご丁寧に。 たが後天性という話ならば、俺は一つ言いたいことはあった。
「あなたは元々本当に人間で、突然他人の心が読めるようになった。 しかしあなたはその力を悪用しなかった。 だからその力に悩まされるようならこう思えば良いのです。 「この力は神様が授けてくれた個性の一端だ。」と。 そうすれば気が楽になると自分は思います。」
そう優しく語りかける。 それを聞いたリーツェ様も笑って
「そうですね。 もしも私が悪いことに使っていたら、どこかで神様から裁かれていたかもしれないです。 そうならないよう、これからも精進していかなければいけませんね。 なんて言ったって、神様から貰ったものですから。」
自分の力に溺れるよりも、ちゃんとした使い方をすれば、神様もなにも言うことはないだろう。
とはいえ同盟に関しては、どうするかの相談はしなければならない。 ここで拒否をされることだけは避けておきたい。
「大丈夫ですよ。 同盟の加入は致します。」
「でしたらこちらの方もお読みください。 より詳しい内容が書かれているので。」
そしてリーツェ様に同盟の事の載った書類を渡して、しばしの暇が生まれる。
「セイジ、その生物は一体なんなのだ? 何故存在しない生物なのだ?」
「俺達の世界ではそう言った存在もいるって言うのがあったり無かったりするんだ。 だから似たような生物ってなると、覚妖怪しか出てこなかったって訳だ。」
「拙者達の世界では魔法なぞ存在せぬ。 故に摩訶不思議な現象はそのようなものの仕業、という形で逃避をしているのでござる。」
俺と零斗さんの説明をするも分かっていないような表情をしていた。 俺達だって説明しがたいものを、全く分からない人間にしても無謀というものだ。
「分かりました。 この件に関しては私が直接出しておきましょう。 その方が信憑性が生まれるでしょう。」
そうしてくれるのはありがたい。 俺達が出してもいいのだが、本人からの方が俺達が来たことの証明してくれるだろうし。
「・・・もしまだ時間があるのでしたら、折角ですから街を見ていってくださいな。 あなた方は我々の同胞を助けてくれた、そのお礼です。」
これからどうしようかと悩んでいた上にその事で困ったのにそこに被せてくる辺り手慣れている。 多分何回もあったんだろうな、こんな場面に。
「しかし本当にあなた達は透き通って見えます。 まるで自身の行動を体現しているかのような心の想いですね。」
「なにも考えてないって言いたいのですか?」
「下手に思考を巡らせる人程考えが意外と筒抜けになってしまう。 なので隠さない方がむしろ清々しいと思いませんか?」
まあ確かにそう言われるとそうかもな。 臭いものには蓋をする。 自分の気持ちをさらけ出した方がやりやすいんだけどな。 人というものは常に暗躍してしまう。 リーツェ様の場合はそう言ったのも分かった上で決断しなければいけないから、さぞ辛いだろう。 心中お察しする。
「それで、実際どうするのだ? 街の観光は確かに行う予定ではあったが、流石に今朝の事で、我々も警戒されているのではないか?」
ベルジアの返答に俺は考える。 確かに俺達は亜人の取り合いで少々面倒な立ち位置にいるのだ。 そんな状態で果たして信用をしてもらえるのだろうか?
「俺達の事を信用出来る人族だと認識して貰うには、時間がかかりそうだ。」
「でもやるしかないのでしょう? 僕達の事もあるから、大変だとは思うのだけれど。」
「うーん。 むしろこれはお前達がいて良かったと思える気もするんだよなぁ。」
その辺りは完全に結果論になってしまうが、それは逆も然りで、ゼルダの奴隷の首輪についての説明が不十分になる。 今は時間が解決することを願うしか、俺には出来なかった。
「師匠。 悩んでも仕方ないっすよ。 俺っち達は元より、亜人のみんなも自分達がそれなりの思いで見て貰えてるとは到底思ってないっす。」
「けどなぁ・・・」
「それを考えるのはセージさんじゃない。 考えるのは世界の方。 産まれてきてしまっている以上、繁栄を止めない限りこの議題は永遠に生まれる。 そんなのまで一心に背負う必要なんかないんですよ。 セージさんは。」
「ファルケン・・・ゼルダ・・・」
2人にとっても決して他人事ではない話なのに、俺の取り越し苦労を見据えているようだ。 そんな風に見ていたら、不意に右腕に衝撃が走る。 見てみると、アリフレアが不安そうに俺を見ていた。 その顔に俺は笑顔で返し、アリフレアの頭を優しく撫でてやる。
「・・・ま、そうだよな。 一人間が抱え込むような悩みじゃないよな。」
「そんなのにまで手をかけていたら、私達の手では到底追えないところまで行ってしまう。 抱える問題は軽いものでいい。」
「だな。 なら最初にやるのは亜人の人達とのコミュニケーションかねぇ。」
「亜人話なら、ボク達から話せば楽になると思うんです。 苦労は堪えないですし。」
自分の事を棚に挙げない辺りはゼルダらしい。 だったら少し亜人の集まる集会所のような場所にでも顔を出しにいこうかな? そんなことを考えながら街を始めた。
亜人の人達も何だかんだで俺達一行を見ているが、嫌悪感は見られない。 別に襲うつもりもないし、朝の一連の流れを見ている人も少なからずいるはず。 英雄になるつもりはないが、それでも少しだけでも亜人の人達が人族の事を信じて貰えればとは思ったりもした。 今朝のあれが人族同士のいざこざだったからそうなる方が今は難しいが。 そんな風に見えいると
「・・・・・・あの・・・が、・・・とすれば・・・を外に・・・」
そんな不鮮明な声が聞こえた気がして辺りを見渡す。
「どうしましたか? ご主人様?」
「・・・空耳か?」
多分他のみんなは聞こえていない。 なら気のせいかと再び歩き始める。 すると
「そこなお兄さん達、ちょっといいかえ?」
路地裏から1人のフードを被った老婆(?)が声を掛けてきたのだった。




