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第95話 救世主なんかいりません!!

 ま、待って待って待って、ほんとに待って!!

 ええー……引くわ。

 あまりにあんまりな話に、私はぽかんとしてしまった。


 神はちょっと慌てている。


「大丈夫? 理解した? 君たちはまだ、もうすぐ皇帝になるフィニス・ライサンダーと、婚約者のセレーナ・フランカルディなんだよ。死に際に『次の人生』の夢をみていたんだ」


「わしの炎の中で、な」


 かわいく付け足すシロ。

 私の頭の中で、ぷちっと音がした。


「どんな炎よ、それ!? 待ってください、全部夢!? だったら、私のこの十五年間どうなるんですか!? 出会ったひとは? 仲良くなったひとたちは?」


 私は叫ぶ。

 神はけろりと言う。


「目覚めたら、なかったことになる」


「そんなの嫌です!!!!」


「セレーナ」


 フィニスが名前を呼んでくれる。

 ぶわっと涙があふれそうになった。

 今までの十五年が頭の中にあふれはじめる。


 初めてのことがたくさんの十五年だった。

 死んだはずの乳母ともずっと一緒にいられたし、狩り小屋では夜の森の音を聞いたし、騎士団でたくさんのひとたちと出会った。

 苦しかったこと。血の臭い。涙。そしてたくさんの喜び。

 何もかも大事で、なにひとつ捨てたくなかった。


「私……私、は、私、は……この、人生が、好きでした」


 血を吐くように言う。

 神はちょっと困り顔になって返す。


「知ってるよ」


「知ってるわけない!! あなたみたいに、何もかも、世界ですら好き勝手できる神さまが、私の十五年間の気持ちをわかるわけない!!」


「うん。それはそうかもしれない。でもね、僕も今は、この『世界の終わり』の先を求めている」


 神は言い、首をかしげた。

 私は怒りながら聞く。


「世界の終わりの、先、って、なんです!?」


 神はちら、とシロを見る。

 シロは肩をすくめて話し出した。


「セレーナちゃん。そもそもこの世界は遊技場のようなものじゃった。別世界から救世主がやってきて、好き勝手遊んで去って行くための遊技場じゃ。お前たちは言ってみれば、救世主の背景にすぎん」


「意味不明です。私たちが救世主の背景? ……救世主のために、私たちがいるってことですか? 神話の救世主って、私たちのためにやってくるものじゃないです?」


 私が言うと、シロは、ふふ、と笑った。

 長い長い髪をゆらしながら、シロは自分の胸に手を当てる。


「鋭いな~~ゆらがんな~~割と冷静じゃよな、セレーナちゃんって。そう。この世界は最初からちょっとおかしい。ちなみにわしは、救世主に最終的に殺される役じゃった。わしのことを倒すと、この世界は完全な平和になる。そこで、『めでたし、めでたし』。この世界は役目を終えるのじゃ」


「役目を終えるって……やっぱり世界が終わるってことじゃないですか。救世主が来ても世界が終わるの、あまりにも役立たずです。いらないです、それ」


「んふふふ。いらんよなー。セレーナちゃん的にはいらんよな。そして実際、救世主は来なかった。この世界が未完なのとも関係があるかもしらん。わしは役割的に全部しくみをしっとったから、あまりに役目が果たせなくてひまでひまでひまでひまで………」


 ひまで、のとこだけめっちゃ力入ってるな。

 きれいなシロを眺めながら、私はまだうっすら怒っている。


 だってなんか、変じゃない?

 あんまりにも理不尽じゃない?

 来もしないだれかの背景になるために、私たちが存在してたとか。


 私たちは、生きてたのに。


 今度は神が口を開く。


「――君たちからしたら、勝手だなとか、のんきだなって思うかもしれないけど……僕は、救世主が来ないこの世界を見てるの、好きだったんだ。だって君たち、『生きていた』から。救世主が来ないぶん、君たちは自由だったかもしれない。


 だいたいフィニスくんの一生――つまりは二十五年ぶんくらいで、ずーっと繰り返す仕様の世界だったけど。繰り返すたびに、別の人生が生まれた。君たちの数だけ生まれた。……それって、すごくない?」


 や、すごいですよ。

 人生なんて、全部すごいです。

 でもねえ、どう返せばいいのかな!?

 お前が言うな、でいいですか!?

 よくないですね、はい、黙ろう。


 神は自分の両手のひらをそっと見下ろす。


「幸福になる人も不幸になる人もいたけど、とにかく、みんなに可能性があった。未来があった。それってすごく、希望に満ちたことだな、と、僕は思う」


「……でも、必ず二十五年とかで終わっちゃうんでしょう?」


 あ、つい、口に出ちゃった。

 神は困り顔でうなずく。


「必ず終わるよ。この繰り返しを止めたって……いや、繰り返しを止めたほうが、君たちの人生は一度きりで完全に終わってしまうのかもしれない。この意味、わかるかい?」


 えっ。

 それって、つまり?

 私はフィニスを見て、シロを見た。

 みんな、いつの間にか真剣な顔だった。

 みんな、同じことを考えているのがわかった。


 神は、この繰り返しを止める話をしている。

 そんなこと、できるの……!?

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