第93話 世界の終わりって、どういうことです!?
「おお……」
「素晴らしい。これは、天の光か」
「天が新皇帝を祝福しておられる」
どよめく来客たち。みんなの感想は能天気だ。
でも、私はそこまでお気楽に考えられない。
魔道士たちを見た。
ざわついてる。
やっぱりこれ、魔道士たちの演出じゃない。
だったら、何!?
「フィニスさま!!」
私は飛び出した。
まっすぐフィニスのもとに駆け寄る。
止める人間はひとりもいない。
フィニスと、傍らにいたルビンは、二人して天窓を見上げていた。
「セレーナ」
私に気づいたフィニスが、手をのばしてくれる。
私はその手を取って、彼にしがみつく。
「フィニスさま、この光、おかしいです! 私、さっき変なものを見ました。夢みたいな、幻みたいな景色でした。魔道士が見るような幻影だったのかもしれない。トラバントが、ただ事じゃない感じで……!!」
「わたしも見た。この光は東から来たんだ。おそらく、東部はもう、ない」
物静かに言われて、私の頭はからっぽになる。
ない?
ないって、どういうこと?
ルビンは空を見上げたまま、うわごとみたいに繰り返す。
「――ああ、そうか。そういうことか」
「ルビン!! ルビン、教えて、何が起こってるの? あと、この光は絶対よくない気がする。避けようよ!!」
私は怒鳴った。
でも、ルビンは空を見上げたままつぶやき続ける。
「わかった。わかったぞ。すべてが。そうか。おい、フィニス!! 世界の終わりが来る!! 何度目かもわからん。誰のせいでも、なんのたくらみでもない。おそらく貴様の父親はこれを知っていたのだ。ひとりの魔道士が『楽園』からこの未来を盗み、貴様の父親に託したのだ!! これは天書が定めたことだ!! あるいは、天書が定めなかったことだ……!」
叫ぶルビンの目は血走っていた。
彼の鼻から、つうっと血が出る。
フィニスは顔色ひとつ変えず、ルビンを蹴り倒した。
「おいいいい!! 今、蹴るところか!? 完全に違うだろう、なんで蹴った!?」
「お前はもう見るな。死ぬぞ」
フィニスは言い、起き上がろうとするルビンの頭を踏む。
「ばかもんが!! 死んでも見たいのが魔道士にきまっとるだろうが!! もっと見させろ、今、ここには、真実がある!! 俺たち魔法使いが求めてやまない、真実だ!!」
ルビンは叫んで立ち上がろうとする。
どうなってるんだろ。
ルビンは今の光に何を見たんだろ。
フィニスは、どこまで『見えた』んだろう。
そのとき。
どぉん、と、すさまじい衝撃。
塔自体が揺らぎ、足下がぐらついた。
客たちから小さな悲鳴があがる。
「あ、ちょっとだけ、光が弱くなった……?」
私はほっとして天井を見上げる。
ばちん、と、真っ青な目と視線があった。
な……何……?
天井から……真っ白な、竜の首が、生えてる!!??
――わしじゃよ、セレーナちゃん。
「し……シロ!!!! 心配したんだよ、シロ!! あと、この登場は派手すぎない!?」
私は思わず怒鳴った。
シロはこの塔のてっぺんにとまって、天井の穴から顔を出しているんだ。
びっくりした……!!
でも、よかった!
なんかとんでもない事態だけど、シロがいてくれるのは心強い。
シロは長い長い時を生きた魔法生物だ。
私たちが知らない、この世の仕組みも知っているだろうから!
――こんなじじいを心配してくれたとは、嬉しいのう。やはり、そなただったんじゃの。わしの目は正しかった。
目を細めるシロ。
私は叫ぶ。
「ねえ、シロ、この光ってなんなの? 私、変な景色を見た! 魔法の力が高まってるってことなの?」
――世界の人間が半分になったころじゃから、魔法の力も高まっておろうなあ。
「世界の人間が、半分」
ぽかん、として繰り返した。
シロが何を言っているのかわからない。
頭に、入ってこない。
シロはやんわり目を細める。
――うん。あの光に触れたらすべてが終わる。だからわしが助けてやろう。恐れるでないぞ。
「へ」
「セレーナ、来い!!」
フィニスが怒鳴り、私の手をつかむ。
引っ張られる。
階段のほうへ。
でも、間に合わない。
シロは大きな口を開き、私たちに向けて、どおっと炎を吐き出した。




