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第86話 萌えは絆を繋ぎます!

「いやでもあれそれこれどれがどうでそういう結論になりました!? 全然そういうそぶりなんかなかったっていうか、いや、うっそだーーーー、覚えてませんよね????」


 まくしたてる私に、フィニスは言う。


「セレーナ、目がすわっててちょっと怖い。いや、一応ドレス姿になったときに、これ完全に見覚えあるやつだなーと気づきはした」


「どういうことですか???????????」


 全然わかんなかったですけど??????

 私の最推し記憶ファイルを超高速で再生中ですけど、そんな態度なんか全然、あ、あーーーーー!? はぁーーー、確かになんか言ってますね、言ってます、言ってました、たまに怪しいこと言ってました、私がドレス着たあたりから特に!!

 難易度高ッ!!

 私じゃなきゃ覚えてもいないレベルだよ、こんなの!


「金眼ってそもそも、天書が読める眼のことなのだ。俺にもちょっとある。こいつは見事な金眼のわりにぜーんぜん才能なくって、残念な奴と思われてたんだが。まさか、本人がぼーっとしてて能力に気づいていなかったとはなあ。実にびっくりだ!」


 ルビンは言い、自分の目を指さした。

 言われてみれば、ルビンの青い目には金色も散っている。

 だから無駄にギラギラしてたんだな。

 っていうか、ですよ!?


「ぼーーーっとって!! どんだけ? どんだけぼーっとしてたんです、フィニスさまは!? 眼を開けて寝てたのか!?」


「そうだ」


「否定してください!!!! ええええええ!?」


 そんなことってある……?

 クールビューティーの中身が素ボケでぼんやりって、そんなことってある……?

 ギャップで萌えちゃうじゃない……?

 外がクール中身がオラオラより、中身かわいいほうが絶対私の萌えじゃない!!??

 完璧か、この!! いや、元々完璧だったわ、はい!!

 結論が出たところで、フィニスが言う。


「生まれつき妙なものが見えすぎたので、基本、ぼーっとやりすごす癖がついていた。初見のものに見覚えがある、というのもふつうだし。君は男装で出てきたのでイマイチよくわからなかったが、出会った瞬間からむちゃくちゃかわいかった」


「ヴッ、心臓が」


 前のめりになる私。

 フィニスはそっと私を支えて続ける。


「嫌な記憶は少しも蘇らなかったな。かわりに、離れたくないと思った。君のそばにいたかった」


「待って。素が厳しい。あまりにも破壊力がつよい。体バラバラになる」


 私がうめくと、フィニスはぎゅっと抱きしめてくれた。

 し、自然すぎて逃げる隙なし。

 もう、好きにして……。

 私は脱力。

 フィニスは言う。


「ならない。今度は、ならない」


 あ。これ、あのときの話だ。

 あのとき。

 前回の人生――じゃないんだっけ?

 とにかく、二人で死ぬしかなかったあのときの、話だ。


 不思議。

 本当に、私たち、同じ記憶を持っている。


「……でも、フィニスさま。前回の私のこと、好きでもなんでもなかったですよね……?」


 うっ。ちょっと意地悪な言い方かな。

 前世の私は、ただのお嬢さんで、足手まといだったし。

 好かれなかったのは、当たり前なのになあ。


「わたしは……」


 フィニスさま、ご無理なさらず!!

 いいんです、前回の私は好きじゃなくても。

 私は、前回のあなたも、今回のあなたも好きだから。

 だから――。


「君の目に映るわたしは、許すことができた」


 …………?

 私はフィニスを見上げる。

 ばちん、と視線があった。

 彼は私の目を見ていた。


 あ。

 思い出した。

 前回も、あなたは、こうやって、私の目をのぞきこんでいた――。


「前回の君は、わたしの何も知らず、ただひたすらに星みたいな目でわたしを見上げてきた。最初は奇異にすら思ったけれど、君は変わらなかった。君の目に映るわたしはいつでも、きれいなだけの誠実な紳士で――ずっとそうでありたいと、思っていたよ」


「フィニスさま。私」


 そこまで言って、言葉につまる。

 胸にどかんと、重いものがのしかかる。

 最初のころを、思い出す。

 あなたに感じたことを。

 胸からあふれて、あふれて、止まらないで、世界を明るく染め上げた気持ちを。きゅうくつな私の世界を、キラキラに変えてくれたあの気持ちを。

 あの気持ち、あなたにも、見えてた?


「最期のときを覚えているか」


 フィニスが囁く。

 内緒話をするみたいに。

 私も囁く。


「はい。あなたは、最期まで、私を守ろうとして」


 フィニスは笑った。

 嬉しそうに、私のほおをなでた。


「そう。そんなふうに死ねた。美しい死をありがとう、セレーナ」


 …………………………。

 フィニスさま。

 私。


「きっと、そこから始まった恋だった」


 心臓がふるえる。

 うれしい。

 でも、ちょっとだけ、怖いよ。


「あの。とても、感動的なんですが、こう……あんまりにも、遺言みたいで……」


 おずおずと言う。フィニスはまばたきをした。


「そうだったか」


「はい。……私、思うんですけど。あなたは、もっとたくさん望んでいいんです。もっと、もっと、生きている間のしあわせを、たくさん!!」


 フィニスもそっとうなずく。


「生きている間のしあわせも、君が教えてくれ。きっと今度は越えられる。あの日を」


 私が、あなたに。

 生きている間のしあわせを。

 嬉しいけど、何をしよう。

 フィニスと刺繍するわけにもいかないし、本作りもヤバい。そもそもフィニスは自分に萌えてないだろうから、フィニスのイメージ花束作りとか小物作りも興味ないよね?

 もしかして、私の趣味って、推し事に偏りすぎでは!?


「……わかりました。わかったんですが、まずはあらためて、趣味のすりあわせをですね、ひゃっ!? な、なにをされてますか!?」


 急に体が宙に浮く。

 フィニスにお姫さまだっこされたんだ。

 フィニスはしれっと言う。


「これ以上逃げられても困るので、さらっていく」


「は……………………はああああああ!? 全世界婦女子の夢か!!!??? 顔面を裏切らないフィニスさまの破壊力が世界をなぎ払って焼け野原ですけど!?」


「調子が出てきたな。いいことだ」


 うっ。ドスが利いた萌え叫びにひるまないフィニス、強い。

 だ、大丈夫かな。私の心臓、もつかな。

 クール美形で中身がかわいいギャップ萌えで紳士で強くて動物になつかれがちで詩がへたくそっていうだけで大分キャラ盛りすぎなのに、超時空貴公子ムーブまで加わったら……最強がすぎるのでは……? フィニスさまファンクラブ会誌にそのまま書いたら、強さのあまりその場で本が爆発するのでは???


 って、いうかですね!!

 私、どこへさらわれていくのかな!?

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