表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/106

第85話 私が二度目じゃないどころか、あなたもですか!?

 ざわり、と辺りがどよめく。

 『異端』の響きは、『異教徒』より重い。


 シュテルンは静かに言う。


「証拠は?」


「そんなものを貴様に見せる義務があると思ってるのか、アホが。『楽園』に来たら山ほど見せてやるわ」


 鼻を鳴らすルビン。

 ……おや?

 私はルビンとフィニスの顔を見つめた。

 どっちもなんとなーく、視線が泳いでるな。


 これは……ひょっとして……?


 ――あー。多分こいつら、証拠つかんどらんぞ。ハッタリとねつ造での違法逮捕じゃ、これ。


 ――シロもそう思う!?


 だよねーーー!!

 これ、他に方法がないからとにかく異端ってことにした、ってやつですね!?

 ちょ、おま、無茶しやがって!!!!

 下手したら、あなたたちのほうが死刑だわ!!!!


 ――仕方あるまい、シュテルンが唯一つかめていなかった人脈が魔法使いじゃから。フィニスはそれを目一杯活用したんじゃ。


 ――それはそうだけど!! ううう、証拠、証拠、出るのかなあ!? 出なかったらフィニスさまたちのほうが身の破滅だよー!! 小鳥ちゃん、シュテルンは拷問されるほうも得意だって言ってし!!


 ――ふむ。ならばヒントでもやるか。多分右足の太ももあたり。


「……? 右足の太ももに、何があるの!?」


 私は思わずつぶやいた。


「太もも? シロと喋っているのか」


 フィニスが見下ろしてくる。

 強く反応したのは、シュテルンだ。

 

「あはははは!! そこまでわかるのか。さすが竜と通じてるだけあるなぁ。そうそう、足を切ったらわかるよ。ここに、小さいころに自分で埋めこんだ魔法具がある。僕はこれを通じて、天書に自分の記憶を保存してるのさ」


「これはまた、凄まじい告白をしてくれたものだな。天書のページを盗んだだと?」


 ルビンがふっと真顔になる。

 フィニスは黙って父親を見つめ、シュテルンは続ける。


「そう。きっかけは偶然だったんだよね。最初のころの僕はバカ正直で、周りの食い物にばかりされててねぇ。そんな中、ダニエラだけが僕を守ってくれたんだ。希望と絶望はセットで来る。彼女が君を産んで死んでからは、この世界に僕の味方なんかだーれもいなくなっちゃった」


 ダニエラっていうのが、フィニスのお母さんか。

 私、初めて名前を聞いた。

 これだけフィニスと一緒にいたのに、初めて。


 シュテルンはフィニスを見つめ、やんわり目を細める。


「最初の君は、すぐ死んだ。誰も育てなかったから。ごめんね、つまらない人生を歩ませて。まあ、でも、それからの僕の人生もつまんなかったよ。僕は落ちるところまで落ちて、川の泥さらいなんかをやっててね。そこで、半死半生で川に捨てられた魔道士に会ったんだ。彼は僕に太ももの魔法具を託した。――金色の目をした魔道士だったよ。彼は、」


「そこまで!! 捕らえよ!!」


 ルビンの怒号。

 同時に異端審問官がシュテルンに群がる。


「あははは、お手柔らかに~」


 シュテルンの乾いた笑いに、私はぞっとしてしまった。

 これ、彼の何度目の人生なんだろう。

 そんなに何度も生きるって、どんな気持ちなんだろう。

 そして――フィニスは。

 どう、思ってるんだろう。


「行こう。あとは『楽園』の管轄だ」


 フィニスは静かに言う。

 私は彼を見上げた。


「はい。あの、でも、大丈夫ですか」


「シュテルンの話はただの夢と思え。わたしの人生は、ここにしかない」


 フィニスは告げ、馬車のほうへ歩き出す。

 少し悲しそうだけど、しっかりした声で、しっかりした足取りだった。

 そっか。

 フィニスはもう、とっくに覚悟してきたんだ。


 お父さんが、自分を愛してないことも。

 自分が、お父さんを殺すことも。


「……はい。そう、ですね」


 つぶやきながら、考える。

 私は、覚悟ができてるだろうか。


 フィニスを愛すること。

 フィニスの隣にいること。

 彼をしあわせにすること。

 そのためにしなきゃいけないことをする、覚悟。


「あの!!」


 私は立ち止まり、叫んだ。


「どうした。何か、後悔しているのか」


 フィニスも足を止める。

 静かな声。

 まっすぐに見つめてくる目。

 私は、強く、強く、こぶしを握る。

 言わなきゃいけない。

 今、言わなきゃいけない。


 心に引っかかったままの、あのことを。


「していません!! 後悔なんか。でも、言っておかなきゃいけないことがあります」


「そうか」


 フィニスは冷静だ。

 誠実に、全部を受け止めようとしてくれる。

 だから、がんばれ、私。

 本当の、言葉を。


「私。私!! 私も!! い、一回……死んでいて」


 情けないくらい、声がゆれる。

 怖い。どう思われるかな。

 わからない。

 フィニスの目が、見られない。

 でも、止まるわけにはいかない。

 私は息を吸いこみ、一息で言った。


「前世で私、あなたの、婚約者で、あなたと結婚する三日前に、誰かにあなたを殺されました!! それが悔しくて、悲しくて、認められなくて、私――ちゃんと、死者の門をくぐれなかった!!」


「知っている」


「えっ、そうですか。……え。えええええええええええええ!? な、何をご存じでありあれあるおられ!?」


 落ち着いて、私! 言葉が崩壊してるよ!

 いや、でも、どうやって!?

 どうやったら落ち着けるわけ!?

 一世一代の告白が、華麗にスルーされたんですけど!?


 私が口をぱくぱくさせていると、ルビンが口をはさんだ。


「あー、その件な。精査の結果が出たので、先にフィニスに知らせておいた。こいつ、お前のことを絶対皇妃にする、そうじゃなきゃ皇帝とかやってらんねーって暴れたもんだから。おかげで今日も元気に三徹明けだ」


「寝てくださいって言ったでしょ!? 髪の毛抜けますよ!! っていうかどういうことなんですか、私が前世からフィニスさまの追っかけだったって本人にバレてるってことですか!? 死んでも推してるって!? うわああああああ恥ずかしいぃぃぃぃぃぃいやぁぁぁ、重い女だと思われる!!!!」


「今さらだろ。面白いな、お前。あと、別に二度目じゃなかったから安心しろ」


「は、はい!?」


 ルビン、今、なんて!?

 凍りつく私に、今度はフィニスが言う。


「君が門をくぐり直した記録はどうしても出てこなかったそうだ。ただし君は、金眼と同じ、神からの贈り物の持ち主ではあるらしい。つまり、天書に接続する力がある」


「は、はあ……? 三行で教えてもらっていいですか?」


 わかるようで、全然わからん。

 こっちは筋トレに必死で、魔法知識なんか欠片もないんです。

 ルビンは、うーん、とうなったあとに言う。


「簡単に言うと、お前は『二度目』でも異端でもない、ということだな!! 神から前世の記憶を与えられてるだけだ。ちなみに、なんでかこいつもお前と同じ状態にあったぞ。笑えるだろ」


 こいつ、と指さされたのはフィニス。

 はあ。はい。えーっと?


「フィニスさまが、私と同じ状態。そりゃ、最近萌えは習得してくださってますけど、月と泥くらいの差があります。主に容姿」


 私は、頭の上にいっぱい「?」を浮かべながら言う。

 フィニスは静かにうろたえた。


「なんでそうなる。君を讃えるべきわたしの詩才が虫レベルだからか。? 前回みたいな丸暗記じゃないほうが心が伝わるような気がしたんだが、やはり苦手分野は丸暗記が必勝法だったのか?」


「前回みたいな丸暗記……?」


 なんかフィニス、お父さんと似たようなこと言い出したな。

 でも、フィニスは何回目とかじゃないんだよね?

 やっぱりわからん。どゆこと?


「つーまーりー、だな。こいつ、お前と同じ前世の記憶がある」


 面倒くさそうにルビンが言う。

 私は。

 私は――。


「はあああああああああああああああああああああああ!!!!????」


 叫ぶくらいしか、なくない……!!??

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ