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第69話 東部辺境美脚伝説の始まりです!

 ――よーし、承知じゃ!!


 シロがちょろっと駆け出した。

 らせん階段をのぼりきると、たくさんのひとが押し合いへし合いしている。

 誰が怪しい人物で、誰が野次馬なんだろう!?


「あっ、フィニスさまー!! 見てください、この俺を!! この意外と似合ってるタイトな真っ白ドレスを!!」


 手をブンブン振っているのはザクトだ。

 シンプルな白のドレスが、筋肉と不思議なくらいマッチしてる!


「わー!! ザクト、意外と色っぽーーい!! いけるいける!」


「セレーナ! いいよなー。俺もいけると思った!!」


「どこかへ行く前に『お客さま』たちをどうにかしろ! セレーナ、わたしが血路を開く。小鳥を預けていいか」


 フィニスは大真面目だ。

 私は答える。


「もうちょっと待ってください! トラバントさまにどうにかしてくれるよう、伝言を送りました! フィニスさまが頑張っても、多分ファンが増えるだけなんで」


「……面倒だな、わたしは」


「面倒なんですよ。でも最高に推せます!!」


 真顔でやりとりした直後、上からジャーン!! と派手な音がした。

 見上げると、塔の上で騎士が大鍋のふたを打ち合わせている。

 その隣には、銅製の拡声器を持ったトラバントがいた。


『みなさん、盛り上がってますかーーーーーー!!!!』


「「「おおおおおおーーーーーー!!」」」


 反射的に叫ぶ、よく訓練された騎士たち。

 基本的にお祭り好きだよね、みんな。

 トラバントは続ける。


『よろしい!! 収穫祭の盛り上がりは早くも最高潮!! そもそもこの祭りは収穫の喜びを讃え、収穫物の一部を太古の神に捧げるものでした。しかーーーーーし!! 東部辺境の神はそれくらいでは満足しませんッ!!』


「「「おおーーー!!」」」


『古くはこの湖に、若い娘を生け贄として捧げていたのです!! もう充分に子を持っている家の末子が選ばれやすかった!』


「えっ、そうなの!? 野蛮だ……」


 思わずつぶやく私。

 フィニスは表情を変えない。


「太古の神と同じくらい、人間も野蛮だ」


 静かに言うフィニス。

 その手は、ヴェールをかぶった小鳥ちゃんの肩にある。


 ……そっか。そうだね。

 小鳥ちゃんも多分、親の、人間の、野蛮さで犠牲になった子だ。

 どうにかしあわせになれないかな。

 そもそもいけにえって必要かな。

 他の方法は、なかったのかな……。


『ですが今は、太古の神もいけにえ以外で納得しています!! それすなわち!! 黒狼騎士団による、女装で湖水に大ジャンプ大会!!!!』


「そうなの!!??」


「嘘だ。あいつ、わたしたちになんの恨みが……あるな。恨みは、あるな」


 うん、まあ、あるね。

 私も、トラバントに色々任せすぎの自覚はある。

 トラバントは叫ぶ。


『湖面に着水する際のポーズが美しければ美しいほど高得点となり、太古の神もお喜びになられます!! さあ、今年のいけにえ女王となるのは誰だ!? 大ジャンプ大会、スターーーーーート!!』


「「「行くぞおおおおおおーーーーーー!!」」」


 地響きを立てて騎士たちが走り始める。

 ほんっっと訓練されてるな!?

 でも、いいね!

 お客も巻きこまれて走り出してる!!


「私たちも行きましょう! 隙を見て、人気のないところへ小鳥ちゃんを連れて行くんです」


「わかった。しかし――」


「えっ、フィニスさま、ジャンプしたいですか? えっ、えっ、正直なことを言うと私もちょっと見たい気もしなくもないんですが、万が一フィニスさまのうるわしいおみ足がそれ以上露出されると、私の目が栄養過多で腐り始める気がして、それだけが心配なんですよね……まだ冬までは使うので」


「違う。殺気だ」


 ――殺気?

 聞き返す前に、私は身構える。

 そのとき、小鳥ちゃんが澄んだ声で言った。


「お守りします、にいさま」


「その必要はない。守られていろ」


「なぜ?」


 すごく不思議そうな小鳥ちゃん。

 直後、弓の鳴る音!!

 私とフィニスは、ほとんど同時に地面に転がる。

 起きると同時に、私たちは走った。

 フィニスは、小鳥ちゃんを抱えたまま!


「どんな理由が聞きたい? どんな答えを予測している?」


 この状態でふつうに喋るフィニス、すごいな!?


「僕を、味方につけておきたいから? 僕は、便利にできています。僕は、忠誠を誓ったら裏切りません」


 小鳥ちゃんもめちゃ冷静だ。

 ライサンダー家、ほんとどうなってんだろ。


「はずれだ。お前には想像力がない」


 フィニスは答える。


「――お父さまも、そう言いました」


 小鳥ちゃんは、なんとなく嬉しそうに言った。

 ちょっとだけ、もやもやする。


 フィニスが、あのお父さんと同じだって言われるの。

 なんだか――こわい。


「わたしは」


 フィニスがつぶやく。

 ほとんど同時に、ばらばらっと怪しい人物が出てくる。

 フィニスは小鳥ちゃんを降ろした。

 そして、小鳥ちゃんの両肩に手を置く。


「わたしは単に、お前を助けて、おにいちゃんごっこをして、すっきりしたい」


「え?」


 きょとんとする小鳥ちゃん。

 フィニスは言い直す。


「わからないか。小さくて美しいものは萌える、ということだ」


「……え?」


「フィニスさま、それ、私言語なんで。小鳥ちゃんはますますわかんないと思います」


 おそるおそる突っこむ私。

 フィニスは小鳥ちゃんを背後に押し込んで言う。


「ならば、黙って任せておけばいい」


 ――かっこいいな、フィニス。

 かっこいいんだけど、ドレスの背中がめちゃきれいです。

 筋肉のつきかたが女性とは違うんだけど、そこがまたびっくりするほどうるわしいです。魚拓ならぬ、背中拓取りたい。嘘。そんなはれんちなことはできない。できないので、いつもどおり目に焼きつけよう!!


 とかやってたら、怪しい人たちが突っこんできました!!


「援護します!!」


 私は小型石弓を構える。


「不要だ。敵も、大した武器は持ちこめていない」


 フィニスは言い切る。

 怪しいひとたちは、細長い砂袋を振り上げる。

 フィニスはそれを華麗に避けて――がらあきになった首筋に、かかと落とし!!

 ひとり、ふたり、三人、足技だけで沈めていく。

 いやあ……足……。

 フィニスさま、足、長ッ!!

 しかも、きれい…………。


「足……」


 敵も、うっとりと言って気絶しました。

 最後の記憶がフィニスの足って、しあわせそう。

 いい夢みなよ。


 小鳥ちゃんはぽんやり立ち尽くしている。


「………………にい……ねえさま」


 おっ、セリフの最後にハートマークが見えましたよ。


「なんで言い直した? 湖の連中に合流するぞ。お前が手を出さなくてよかった。わたしの評判は落ちてくれたほうがありがたいしな」


 フィニスは言い、やってきた従者たちに倒した敵を任せた。

 評判、多分落ちない気がするなあ。

 むしろ、美脚伝説が流布されて終わりでは……。


 そんな予感にさいなまれつつ、私たちは走った。


 ――無事で何よりじゃ、セレーナちゃん。


 ――シロ!! 戻って来てくれたんだ? 私たち、これから湖に行くの!


 合流したシロに話しかける。

 シロはちょっと首をかしげた。


 ――構わんが、トラバントの言ってた伝説、真実じゃぞ?


 ――はい?


 ええっと? 

 トラバントの言ってた伝説って、いけにえの話?


 それってつまり――あの湖にも、太古の神的なやつがいるってことです???

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