表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/106

第68話 小鳥ちゃんって、お兄ちゃん似です。

「お客さま、どちらへ? この先は倉庫ですけど!!」


 私は声をかける。

 地下牢に続く階段の手前で、人影は立ち止まった。


「え? ああ――わたし、城下の者で。倉庫に用があるんです」


 おっ、ごまかしに来たな?

 その下は倉庫じゃないのに、話をあわせてきてる。

 内部に詳しくない証拠だ。

 フィニスが一歩前に出る。


「用の前に、少しわたしたちとおしゃべりしていけ。犬カフェもあるぞ」


「いや、急がないと怒られちゃいます、か、ら!?」


 言い訳する男をつかみ、肩に担ぐフィニス。

 なお、服はドレス。

 お父さん、お母さん、セレーナは今、不思議なものを見ています。


「一体誰に怒られるのか、あとでくわしく聞こう」


「くっ……!!」


 男は顔をゆがめた。

 すばやく胸元から取り出したのは、棒状の砂袋。

 暗殺武器だ。


「フィニスさま!!」


 私は短剣を抜く。

 それを投げる前に、フィニスが男を放り出した。

 中庭に転がる男。


「くそっ。……!?」


 すばやく立ち上がった男は、騎士団本部のほうを振り向いた。

 そっちから地響きが近づいてくる。


「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」


「わ、わあ……騎士団のみんな、来てくれたんだね……っ!!」


 私がちょっと引いてるのは、みんながだいたい女装済みだったからです。

 いや、その。かわいいよ。

 かわいい、ん、だけど。

 

 ――あのかっこで雄叫び上げて走るのは、ちょっとどうかのぉ。


 はい、それ。

 肩のシロが言う通りです。

 中庭に転がった男は震えあがる。


「ひ、ひええええええ!? ど、どどど、どうなってるんだ、この騎士団は!!」


「わたしもたまに疑問だ。セレーナ、こいつは奴らに任せる」


 フィニスが言い、私はうなずく。


「はい!! 下の様子を確認しましょう!」


 私たちは、急いで狭いらせん階段を下りた。

 騎士団本部の下には、結構な広さの地下牢がある。

 戦争になるとこれでも足りなくて、近隣の城廃墟も使うんだそうだ。

 地下牢は薄暗くて、湿っていた。


「侵入した者はいないか?」


 フィニスが見張りの騎士に声をかける。

 騎士は口をおさえた。


「は、はい……。えっ、あの、フィニスさま、キレイ……!」


「よく言われる。……あっ」


「どうしました、フィニスさま」


 フィニスが急に止まったので、私も止まった。

 フィニスは険しい顔で言う。


「――これは、弟に女装を見られてしまう流れではないだろうか?」


「えっ、今気づきました?」


「今気づいた。まずい」


「まずいも何も、もう見えてると思いますけど」


 私はちらっと奥の牢を見た。

 殺風景な地下牢の中では、特別きれいな牢だ。

 床には乾燥した藁が敷き詰めてあるし、寝台のマットはつめものたっぷりだし、書机もあり、円卓もあり、なんなら衣装棚もあり、本も積まれている。

 そこにちょこんとたたずんでいるのが、フィニスの弟。


 うん、こっち、見てますね。

 めっちゃ見てます。


「わ! 見てください、フィニスさま!! 小鳥ちゃんが三角座りしてない!! ここ数週間で、あんなに生き生きした小鳥ちゃんは初めて見ました!」


「普通、悲惨な境遇にある少年は、兄の女装で生き生きするものか?」


「フィニスさまの周り、あんまり『普通』がないんでわかんないです」


「なるほど?」


 遠い目のフィニスに、私は聞く。


「で、どうします? 弟さんに女装も見せたし、無事そうだから戻ります?」


「それも手だが――」


 そこまで言ったところで、階段のほうがさわがしくなる。

 見張りの騎士が叫んだ。


「何やら大勢押しかけてきてます、フィニスさま! それと女装集団がもみ合っておりまして、なんというか、すごくすごいです!!」


「……小鳥を連れだそう。奴らに見つからないよう、移動させる」


「了解です!」


 私は敬礼し、見張りの騎士から鍵を預かる。

 フィニスの鍵と見張りの騎士の鍵をあわせると、牢の扉が開いた。


「小鳥ちゃん、おいで。怖くないよ。きっとあなたを守るからね」


 私は言う。

 小鳥ちゃんこと、フィニスの弟は、ここへきてから全然喋らない。

 最初は舌がないんじゃないかと心配されたくらいだ。

 毎日暗い目で壁を見つめてる小鳥ちゃんを、私たちはみんな心配していた。

 ……でも。


「………………」


「おお!! 小鳥ちゃんが歩いた!! 自分の足で、フィニスさまのほうへ!」


 すごい!! まさか女装にここまで反応するなんて。

 そういえばフィニスって長男で、他の兄弟の面倒を見てたって聞いたことがある。

 この子とは面識がなかったらしいけど、基本的には弟、妹に尊敬されるポジなのかな?

 多分、というか、確実に、実家では女装とかしなかっただろうな。


 小鳥ちゃんはフィニスを見上げて言う。


「ねえ……さま?」


「どこがそう見える」


 ちょっと青ざめるフィニス。

 その質問、墓穴じゃないです?

 小鳥ちゃんは首をかしげたまま続けた。


「……どこからどう見てもそう見えますし、不吉なくらいに鮮やかな紫のドレスに金の瞳がよく映えて、まるであなた自身が宝飾品のよう……さらにすとんとしたスカートのラインが足の長さを強調し、わざと不揃いな裾の流れはもとより美しい足のラインをさらに際立たせています。化粧も白い肌に透明感を付け加え、鋭すぎる目元に煙るような色気を掃いて性別を忘れさせ、まるで神話時代の装いのようですらある。あなたは大変うるわしい……」


「ふ、ふわ!? 小鳥ちゃんが、ちっちゃフィニスさまになった!?」


 すごい、語彙が豊富!!

 こうしてみると小鳥ちゃん、フィニス似だなあ。

 全体を見ると地味なんだけど、とっても品良くかわいい。


「口説き語彙だけ刷り込まれているようだな、悪趣味な。とにかく行くぞ」


 フィニスは難しい顔だ。

 なるほど、そういう取り方もあるか。

 フィニスは肩のヴェールを取って小鳥ちゃんにかぶせ、階段の上へ向かう。


 ――しかし、この後どこへ行くんじゃ? 騎士団本部は客だらけじゃ。どこが安全ということもあるまいよ。


 シロが心の声で言った。

 私は少し考える。


 ――そうなんだよねー。いっそ、もっと盛り上げちゃうのはどう?


 ――ふむ? 祭りを盛り上げて、勢いですべてをうやむやにする作戦か。


 ――そうそう。で、そういうときは、あのひとだよ。うちの騎士団一口が上手くて、詩も上手い彼に、舌先三寸で盛り上げてもらおう!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ