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第24話 幼なじみの愛はちょっと情報が古いようです!

「え」


 私は思わず固まる。

 まさか、見抜かれるなんて。

 待って、落ち着いて。まだわからないよ、かまかけなのかも。

 実際見抜かれたからって、どうなの? 私は何も悪いことはしていない。

 ……多分。


「んふふ。『まさか、見抜かれるなんて。だけど、私は何も悪いことはしていない』。そんな顔だな? ば~か!! 死者の門を拒否して誕生の門をくぐり直すなんぞ、六門教的に完全にアウトだ。いいか、次はまともな門はくぐれんぞ。地獄行きだ、地獄行き!」


「何をおっしゃってるんです? 門をくぐり直す? そんなこと出来るわけないでしょう?」


「いいぞ、いいぞ! しらばっくれろ。俺は嘘を吐く人間が好きだ。嘘吐きに本当のことを見せてやるのがだーいすきだ!『楽園』に異端審問所があるのは知っておろう? そこで裁かれる者の中にたまーにおるのだ、『二度目』。あ、もちろん、バレたら全員死刑な」


 ルビンは嬉しそうに目を細める。

 魔道士たちが集う『楽園』。その内部のことを知るひとは限られている。

 私の知識では、間違った門をくぐって生まれ直してしまうひとの話は、昔話として聞いただけだった。

 けど、やっぱり、あるんだな。


 死刑。

 ……死刑。まあ、そうか。

 そうだよね、何せ、一回死んでるんだし。

 これは、神さまの意志に反することだ。


 私、死ななきゃいけないんだ。


「『二度目』どもはこの世に執着して舞い戻ってくる。女の執着ときたら、大抵は家族のことか、恋であろう。んー……んふふ。失恋か? ふ、は、ふははははは、なるほど! お前、フィニスに惚れていたんだな!?」


 ……そこを掘り下げます?


 ずーんと暗くなっていた気持ちに、ちらっと火が灯る。

 ルビンはにやにやと続けた。


「惚れて惚れて、だがフィニスを別の婚約者に盗られたか? いや――お前の家柄なら本気を出せば婚約者になれたはずだな。じゃあ、フィニスが皇帝になったあとに出会ったか……そうか、そうだ! お前、フィニスと結婚する前に、俺に殺されたのだろう!?」


 ぽかん、と頭の中が白くなった。

 私はゆっくりとまたたく。


「……あなただったんですか、ルビン」


 死の間際の光景がよみがえる。

 廊下から扉をぶちやぶってきた、壮絶な炎。

 魔法の炎。

 私を焼き尽くした魔法――でも、あの魔法はフィニスをも焼いた。


 なぜ?


「あっはっはっは!! 本当か! 本当に俺に殺されたのか! 自分が殺した相手に感想を聞けるだなんぞ、大爆笑だな!! なあ、どんな気分だった?」


「答えてあげてもいいけど、私からも質問があります。あのとき、あなたはフィニスも殺した。……なんでです? あなたはフィニスの幼なじみで、フィニスが皇帝になるのを応援していたんでしょ?」


「ああ? あー……。そうか。『前回』はフィニスも死んだか」


 ルビンはすっと無表情になり、シロを持った手を下ろす。


「あいつはバカだからな。きっと、俺の忠告を無視してお前と結婚すると言い張ったんだろう。バカが。あいつを皇帝にしたい人間は多いが、家柄が足らん。安直なのは結婚でそこを補うことだ。だが、そんなことになったら婚約者の実家が力を持ちすぎる」


 そこまで言って、ルビンはどこか子どもっぽい笑顔になった。


「フィニスを皇帝にするのは、この俺だ!! 他の誰であってもいかん!! だからこそ、前回の奴は俺に殺されたのだろう。――そして今回は別の方法で皇帝になる。ま、今回もお前の存在が邪魔なのは同じだが」


 このひと、おかしい。

 思ってたのの百倍おかしい。

 おかしいけど――でも。フィニスのことが、好きなんだな。

 そのことがすとん、とお腹に落ちてきた。


 私、ルビンのことが怖い。

 怖いけど、なんだか、それ以上に、悲しかった。

 きっと『前回』フィニスを殺してしまったルビンは、悲しんだと思う。

 殺すしかなかった、それしかなかった、って自分に言い聞かせながら、ものすごく泣いたと思う。


 私にはわかるよ。

 私も、フィニスが好きだもの。


 ――セレーナ。危なくなったらわたしを呼んで。わたしの名を。そうすれば、魔法使いの結界を破ってそっちへいける。


 頭の中で声が響く。

 私は答えた。


 ――ありがとう。私、あなたが誰だかわかった気がする。


 ――セレーナが思った通りの存在だよ、わたしは。名前はわかるね?


 ――大丈夫。


「いいか、貴様はここで俺に殺される。死にゆくお前にだけ、フィニスがこれからどうやって皇帝になるか、教えてやろう」


 ルビンは胸を張って言う。砂地に小山を作って威張る子どもみたいに。

 私は彼を見つめて、言った。


「神話」


「……何?」


「あなたの『フィニスさま皇帝化計画』って、どうせ神話を作るんでしょ? 元々変だとは思ってたの、いきなりフィニスさまを温泉に誘うとか、エロすぎるし。だけど、あなたがここに来た理由は、温泉バカンスなんかじゃない。

 ここに聖水の泉があるのを知っていて、自分とフィニスの神話を作りに来たんだ。ふたりで天啓に従い山を登り、聖水の泉を見つけた~これぞ皇帝の器だ! とかなんとか言うんでしょ?」


「さすが『二回目』、飲み込みが早い。素晴らしい計画だろう?」


「ダッッッッッッッッッッサ!!」


「はあ!!??」


 ルビンは目を丸くしたが、私は一気にまくし立る。


「ダサくてダサくて三回転くらいしてますけどやっぱりダサいです!! 大体フィニス様、ぜんっぜん皇帝とかなりたくなさそうでしたよ?」


「そっ、そんなわけがあるかーーーーー!! フィニスは俺と共に皇帝になると誓ってくれた、弱冠六歳のときに!!」


「情報古ッ!! 幼児の夢をみんながかなえたら、この世はパン屋と花屋でいっぱいですよ!! フィニス様愛を語るんなら、せめて直近一ヶ月分の観察日記くらいつけてください、基本でしょ!?」


「変態の基本を指南するな!! 魔法使いは『楽園』からめったに離れられんのだ! 遠く離れていても心は通じ合っているのが、真の親友であろうが!」


「うっわ。体が離れてたら、心も普通に離れます。人間界の常識ですから、今から覚えて」


「俺は人外ではないッ!! とにかく、絶対絶対、フィニスは俺のこと好きだもん!!」


「だから、そのフィニス様はあなたの妄想のフィニス様ですよって言ってるんです! あなたは自分の妄想の中のフィニスさまとちゅっちゅしてたらそれでいいんです! はい、解散!!」


「するか、阿呆! 死ね!!」


 叫んだ途端、ルビンの長い赤毛が炎のように巻き上がる。

 星の光めいた火花がぱちぱちと彼を包み、まぶしいくらいだ。

 背後には聖水の泉。

 これは、魔法攻撃が来る。

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