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第14話 推しも昔は、萌えてたみたいです!

 黒狼騎士団長、フィニス。

 彼が語った、『最初の盟約者』の話は、こんな話だった。


『アクアリオさま! 白皮茶を持って参りました!』


『おや、ありがとう。気を使わせてしまってすまな、げっほ!! げっほがっはごっほごほごほご……ふ……ぅ……』


『アクアリオさま!? アクアリオさま、笑顔で儚くならないでください、せめて僕の茶を飲んでからにしてください!!』


 フィニス十四歳。

 アクアリオ二十四歳。

 騎士団に入りたてのフィニスの盟約者に立候補したのは、中堅どころの美しい騎士だったらしい。

 波打つ長い金髪に、夢みる乙女みたいな青い瞳。

 儚く美しいその騎士を、フィニスはせっせとお世話した。


「……はい、ちょっと待ってください。騎士のお世話って、従者の仕事じゃないんですか? なんでフィニスさまがそんなに頑張ってたんです?」


 私が聞くと、フィニスは話を中断して言う。


「なんでと問われると難しいが、おそらくわたし自身がそうしたかったのだろう。アクアリオは剣はやたらと強いのに、少々体が弱くてな。特に寒さが苦手だった。その落差がどうしても気になって、放っておけなかったわけだ」


「ははあ……。私、その感じ、知ってます」


「なんだ? ひょっとして、この感情には名前があるのか?」


「はい。ギャップ萌えです」


「……なるほど、わからん。とにかく、だな」


 わかったような、わからないような顔でフィニスは続ける。


 アクアリオとフィニスは、しばらくはこのうえなく上手くやっていたらしい。

 フィニスの初陣も、アクアリオにくっついていたおかげで無傷で武勲をあげられた。


『何もかもアクアリオさまのおかげです! 僕、アクアリオさまのようになりたい!』


『誰もわたしにはなれないよ、フィニス。お前はお前になりなさい』


『いやです! 剣も、学問も、歌も、あなたを目指します。あなたを超えるためじゃありません。あなたを守るためにです!!』


 フィニスのその感じ、なんだかとっても身につまされる。

 結局彼も、アクアリオに萌えていたんだろう。

 共同生活、戦争、盟約。騎士団って、実はすっごく萌えが発生しやすい環境なのかもしれない。


 そして、盟約を結んで四年目の冬。

 アクアリオは、死んだんだそうだ。

 理由は――。


「女ができた」


 フィニスにさらっと言われ、私はもふもふを抱いたままぶっ倒れそうになる。


「は、あ、はあああああ!? 騎士団って妻帯禁止ですよね? よりによってアクアリオみたいな禁欲的で神のご加護で全身光輝いてそうなひとが、そんな破廉恥なことを!?」


「一体どうして、アクアリオが光っているという話になった? すごい妄想力だな。……だがまあ、当時のわたしもそんなふうに思っていたんだろう」


 フィニスは遠くを見つめる目で言う。

 当時、アクアリオはちょいちょいフィニスの前から姿を消すことがあったらしい。

 盟約者は基本的にペアで生活する。同室だし、訓練も、実戦も、見張り当番も一緒にやる。

 そんな盟約者が姿を消すのは異常なんだけど、フィニスはアクアリオの『詩を作っていたんだ』とか、『偵察だ』とか、『薬草を探していた』とかいう雑な言い訳を信じてしまったらしい。


「萌えってひとを盲目にしますよね……」


「実感がこもった言葉だな。しかし、ついにわたしたちが真実と向き合う日がきた」


 それは、いつまでも決着がつかず、真冬にずれこんだ戦争のさなかだった。

 雪の中、厳しい戦況のもと、黒狼騎士団は野営をした。

 よりによってその途中に、アクアリオは姿を消したんだそうだ。


「天幕の中は凍えるように寒く、狼がいなければ凍死は免れなかった。それでも疲労が勝って、わたしは泥のように眠っていた。どれくらい眠っただろう――大した時間ではなかったろう。私は、狼に体を押されて目が覚めた。見上げると、自分の狼とアクアリオの狼が悲しそうな目をしてわたしを見ていた。アクアリオは、いなかった……」


 フィニスはぎょっとして飛び起きた。

 慌てて外に出ると、ぎりぎりアクアリオのものらしき足跡が見えた。

 フィニスは二匹の狼をつれ、アクアリオを追った――。


「……雪が深かった。わたしは彼が心配だった。彼の体に寒気は大敵だったから。何かとんでもない使命を負っているのかと思った。死んででも達成しなくてはならないような使命を」


 囁くフィニスの顔に、長いまつげがかかる。

 怖いなあ、と、私は思った。

 この先を聞くのが、正直怖い。


「わふ?」


 甲高い声を出し、子狼がわたしの腕の中でもぞつく。


「心配してくれるの? ありがとね」


 優しく抱き直してあげると、子狼は私の胸にちいさなちいさな前足を引っかけ、顎をぺろぺろ舐め始めた。くすぐったさを耐えている間も、フィニスの話は続く。

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