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第101話 結婚披露宴二次会は、無礼講です!

 宮殿での夜会は夕方から。

 まずは謁見、次にダンス、遅い夕食、さらに語らい……って感じだけど、無礼講の場合は、ぜーーーんぶすっとばして、夕方から軽食つまんで踊って飲んで語る。


 それを知った私の第一声は、


「結婚披露宴、それでいきましょう!!」


 だったんだけど、さすがに初回は無理で。

 豪奢で完璧な結婚披露宴をやった五日後に、ぐっだぐだの身内披露宴が開かれました。


 しかもこれ、天書解体から一ヶ月半もあとのこと。




「いやー……。やっぱり、筋肉ないと駄目だわ」


 私はぼそりとつぶやく。

 ソファの隣に座っていたフローリンデが首をひねった。


「きんにく? 筋肉のお話ですの?」


「あ、ううん。いやー、ここ一ヶ月寝こんでたせいで、筋肉落ちたなーって話。フローリンデは筋肉は趣味じゃないもんね。少年剣士推しだもんね」


「ええ、その、そうですの……。まさか、セレーナさまがこんなにも趣味のあう方だったなんて、私、さっぱり思ってませんでしたわ。正直、現実の騎士がこんな感じだとも思ってませんでしたけど」


 フローリンデは、ぽ、と頬を染め、大広間をガン見した。

 本来なら男女ペアで軽やかなダンスが披露されてるべきその場所。

 そこで今は白と黒、二色の騎士たちがバカをやっている。


「貴様ら!! いくら内々のご成婚祝いとはいえ、皇帝陛下の御前であるぞ!? なんだ、その格好は!! 東部辺境のバカで土臭い風習を宮殿の中まで持ちこまないで頂きたい!!」


 怒鳴ってるのは、びっかびかの礼装の楽園守護騎士、リヒト。


「はあああああああ? この色鮮やかな衣は皇帝陛下と皇后陛下を讃えるため、帝都の! 一番の! 仕立屋に作らせた最先端モォドだぜ? てめーこそ、帝都の水槽でたぷたぷ安楽に生きすぎて、目から腐り出してんじゃねーーーーの!?」


 対するは、漆黒の軍服に『皇帝陛下、皇后陛下命』と縫い取られたどピンクの羽織ものを羽織ったザクト。なお、羽織り物は出席した黒狼騎士団員全員おそろいです。

 余興は、異様にそろったダンスでした。

 あの謎ダンス、新しすぎて、ちょいキモで、絶対流行る気しかしない。

 

「リヒト~、ザクトのこと許してあげて! これでも黒狼騎士団の催しものとしては大分まともなほうだから! これが駄目だと女装とかヤキュウとかになるから!!」


 私が叫ぶと、リヒトが長い髪を揺らして怒鳴る。


「そんなふざけたものを御前にさらすようなことがあれば、獣くさい田舎者集団など、この剣の錆にしてくれます!!」


「ああん!? だったら今すぐやって見せろや!!」


 いきりたつリヒトとザクト。

 そこに、トラバントが割って入った。


「はいはいはい、やめなさいやめなさい、そこの暇人。騎士同士の決闘は禁止だって言ってるでしょーが! どうしても対決したいなら~~……はいこれ」


 ひょい、と渡された棒状のクラッカーを見て、ザクトが顔をしかめる。


「なんだこれ、クラッカー? これじゃさすがに人殺しできねえだろ」


「むしろ、これ渡されて人殺ししようとする君の頭の中が心配ですねえ。そうじゃありませんよ。ザクトとリヒトでこの長いクラッカーの端と端を噛んで」


「端を噛んで???」


 解せない顔のザクトとリヒト。

 トラバントはうなずく。


「そう。で、お互いどこまで食べられるか勝負するんです。先に顔逸らしたほうが負けね。で、唇がついたらそれも負け。はい、始め!!」


「「「なんで!!!!???」」」


 豪奢な天井画の描かれた天井に、三人の絶叫が木霊する。

 おっ、今叫んだの、ザクト、リヒト、フローリンデだな。

 フローリンデ、元気に目覚めつつあるな!!

 一人余裕のトラバントは、爽やかに笑う。


「なんでって、見世物として面白いからに決まってるでしょー」


「てめえ……トラバント!! 黒狼騎士団抜けると思って、好き勝手言いやがって!!」


 ザクトが真っ赤っかの顔でトラバントにつかみかかった。

 好きにつかませたまま、トラバントはへらへら笑う。


「なーに言ってんですか、僕は元から好き勝手言ってましたよ? フィニスさまは気にしなかったし、気にされようがされまいが、テキトーに仕事してテキトーに死ぬ気でしたし」


「えっ、そうだったの!? なんかやだ、テキトーに死ぬんじゃねえよ!!」


 ころっと真顔になってトラバントを振り回すザクト、かわいーなあ。

 この人、ほんとにトラバントの暗いところ、一切気づいてなかったんだなあ。

 トラバントはさすがに引いたらしく、ぺちんとザクトの手を叩いた。


「なーにを今さら。放してください、僕、今はやる気満々ですから。宮廷詩人、兼、史料編纂所長の地位を頂く気満々ですもん」


「なんかそれ、めんどくさそうじゃね? なーーー、やっぱ俺たちともっと騎士やろうよ~、きっと楽しいよ~~」


「いーーーやーーーでーーーすーーー!!」


「うん、子どもの喧嘩だ。でもまあ、元気で何よりだねー、フローリンデ?」


 私はにこにこと言い、フローリンデに向き直る。

 フローリンデは……フローリンデは、青い顔で頭を抱え、宙を見つめていた。


「キラキラ騎士とギラギラ騎士のクラッカー対決……うう……」


「あ、まだそこに引っかかってた? 本気で見たければ命令するけど……」


「駄目ですッ!! 命令では駄目なんです皇后さま!! こういうものは、ぽこっと自然発生するからこそいいんです、私たちはそっとお水をやって育てるんです!!」


 きっ、と私を見つめてまくしたてるフローリンデ、すでにかなり強さがある。


「すくすく育ってね、フローリンデ……」


「育つ……? いえ、背はもう伸びませんけれど……」


 不思議そうなフローリンデの手を取っていると、背後から声がかかった。


「セレーナ」


 どきん、と心臓が鳴った。

 あわわわわわ、あわ、はわ、わわわわわ!!

 さっきまでの余裕をかなぐり捨てて、私はドレスの裾を直す。

 扇で口元を隠して、そーっと振り返ると……。

 はーーーーーい、いらっしゃいました!

 いらっしゃいましたよ、ありったけの勲章をつけた軍礼服にマント姿のフィニスさまです、おめでとうございます、私!!


「フィニスさま……もとい陛下、どうなさったんですか……? 今日も顔が最高にいいんですけど」


「ご期待に添えなかったか? わたしはずっとこの顔だ」


「ご期待の!! ど真ん中ですともッ!!!!」


 私は力強く断言する。

 フィニスはくすっと笑い、長いマントをきれいにさばいてフローリンデに一礼した。


「失礼、フローリンデ嬢。少し我が后をお借りします」


「ひゃっ!! そ、そそそんな、陛下、もったいない……」


 フローリンデは大慌てでソファから飛び降り、床に膝をつく。

 あちゃー……皇帝が頭下げちゃったからだ。

 フィニスってば、まだ騎士の仕草が抜けてない。

 私は慌ててソファから飛び降り、にこにこと二人の間に入る。


「本日は無礼講ですよ、フローリンデ! どうか立ってください。陛下もしゃっきりなさって。私にお話があるんでしょう?」


「ああ……すまなかった、フローリンデ。楽しんでください」


 フィニスはフローリンデに微笑みかけ、騎士団のほうに目配せする。

 ぱっとトラバントが反応したから、きっとフローリンデの相手をしてくれるだろう。


「じゃ、今のうちに」


 私はフィニスの袖をこっそり引っ張って、会場の隅っこに向かった。

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