お嬢様とご対面
メイド長に着いていく。とても広く、未だに覚えていない屋敷の廊下を歩く。
一際目立つ扉の前でメイド長は足を止めた。
「リディア。覚えてくださいね。ここがエリザベートお嬢様のお部屋になります」
「はい……」
「返事が聞こえません」
「はっ、はいっ!」
酷い圧を感じて、わたしは精一杯返事をする。
それから、メイド長は扉をノックする。
「どうぞ」
部屋の中から聞こえてくる声は酷く冷たいものであった。
わたしはその瞬間に、ずきんと胸が痛む。激しく緊張していることに気づく。わたしの心情など知る由もないメイド長は、躊躇することなく扉を開く。
部屋に一歩入って、メイド長は頭を下げる。わたしは真似をするように頭を下げた。ガチガチに固まりながら。
「失礼いたします。エリザベートお嬢様。本日よりお嬢様に新たな専属メイドをお付けいたします」
メイド長の向かいには女の子がいた。金髪縦ロールに青い瞳、白い肌。わたしと同い年らしいが、わたしよりも身長は小さめだった。そんな見た目も相まって、黙っていれば気品のあるお嬢様に見える。可愛らしいお人形さんのようだった。油断したら頭を撫でて、愛でたくなってしまう。
だけれど、口を開けばそんな印象は一瞬で吹き飛んでしまう。欲望も溶けるように消える。
「あら、また連れてきましたのね。どうせその者もすぐに辞めることになるのでしょう? アリシアメイド長。あなたがわたくしの専属メイドになればよろしくて? そうすれば解決ではありませんこと?」
「お嬢様。お言葉ですが、わたくしが専属になってしまったら、グランツ家の家事が回らなくなってしまいます」
「知りませんわ、そんなことは。そのメイドがすぐに辞めて、わたしが困るのが目に見えますわ。そちらの方が大切ではなくて?」
「その通りでございます。ですが、安心してください。彼女……リディアは気骨があります」
「それ前の奴の時にもお聞きましたわ」
「今回はわたくしのお墨付きです」
「……それも前に聞きましたわ」
「とにかくそういうわけですので、お嬢様どうぞお手柔らかにお願いします」
「…………」
「それでは、わたくしはお仕事がありますのでこの辺りで失礼します」
メイド長は逃げるようにこの部屋から去っていった。
なんとなくわかる。ああ、わたしは面倒事を押し付けられたのだと。明らかにメイド長は逃げた。に、逃げるな!




