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追放されたシゴデキ令嬢、ユニークスキル【万能ショップ】で田舎町を発展させる  作者: 絢乃


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006 ルインバーグ

 レオンハルト公爵がいるのは、公爵領の第一都市〈ルインバーグ〉だ。

 私が町長を務める〈ドーフェン〉からは、馬車で12時間の距離にある。


 この「12時間」とは、休まずに移動した場合の時間だ。

 実際には人馬とも休息が必要になるため、倍近い時間を要する。


 そのため、私が〈ルインバーグ〉に着いたのは翌日の昼だった。


「相変わらずすごい街並み……! 人の数も〈ドーフェン〉とは桁違いね」


 〈ルインバーグ〉は人口20万人以上を誇る巨大な城郭都市だ。

 建物は軒並み石造りで、地面も石畳で舗装されている。

 王都の次に栄えており、通りを歩く人々の格好も洗練されていた。


「マリア様、本当に大丈夫なんですかね……? 使者も出さずにいきなり訪れるなんて前代未聞ですよ……!」


 御者のルッチが言った。

 私と同年代の若い男で、「ドーフェンの色男」の異名を持っている。

 町ではイケイケのプレイボーイだが、ここでは地味な青年だった。


「タイムイズマネーです! 安心してください、話すのは私ですから! ルッチさんは馬車のメンテナンスだけよろしくお願いします!」


 大通りを抜けて、いよいよ都市の中央にやってきた。

 レオンハルトの居城がそびえ立っている。


「そこのみすぼらしい馬車、公爵様の城に何の用だ?」


 門の前で馬車が停まった。

 どうやら「みすぼらしい馬車」とはこの馬車のことらしい。


「えっと、自分たちは……」


「ルッチ、あとは私に任せなさい」


 公の場なので、私は口調を変えて命令した。

 ゆっくり馬車を降りて、門番の様子を確認する。

 甲冑にまとった衛兵が二人立っていた。


「私は――」


「マリア様だ!」


「どうしてマリア様がこんな馬車に!?」


 名乗るまでもなく、衛兵たちは私のことを知っていた。


「あれってマリア様じゃない?」


「本当だ! 上下水道を整備してくれた人だ!」


「わー! マリア様だー!」


 付近にいた市民も私に気づいて驚いている。


(我ながら上下水道を整備したのは偉大だったわね)


 8年前の決断が正しかったと再認識したところで、衛兵に用件を伝えた。


「驚かせてしまい、申し訳ございません。私は〈ドーフェン〉の町長を務めております、マリア・ホーネットでございます。本日は事前のご連絡も差し上げず、突然の参上にて失礼いたしましたが、町を代表してレオンハルト閣下に拝謁の栄を賜りたく存じます。恐れ入りますが、どうかお取り次ぎいただけますでしょうか」


 貴族の作法に則って丁寧にお願いする。

 当然、衛兵たちは慌てふためいた。


「もちろんでございます! ただちに確認してまいります!」


「先ほどは『みすぼらしい馬車』などと言ってしまい、誠に申し訳ございませんでした!」


 私は「いえ」と笑顔で受け流す。

 その間にも、私を一目見ようと市民が集まってきていた。

 そうして人だかりができた頃――


「お待たせいたしました! 公爵様がお会いになるそうです!」


 入城の許可が下りた。

 私は衛兵に礼を言い、市民たちに手を振ってから馬車に乗った。


「本当にお目通りが叶った……!」


 ルッチはアポなし訪問の成功に驚いていた。


 ◇


 私は応接間に通された。

 この世界では非常に珍しいソファが置いてある。

 それも革張りでクッション性のある代物だ。

 地球ではルネサンス期以降に登場する。

 普通に買うと数万ルクスはくだらないだろう。


「ずいぶんと早い再会になったな。次に君と会うのは公務で〈ドーフェン〉を視察するときだと思っていたよ」


 レオンハルトは、部屋の奥に据えられた重厚なソファに腰掛けた。

 私はその向かいに置かれた下座のソファに座る。

 どちらも革張りの品だが、こちらは装飾も少なく簡素な造りだ。

 この場には私とレオンハルトの二人しかいない。


「いきなり押しかける形になって申し訳ございません……!」


 レオンハルトの口調に合わせた言葉を選ぶ。

 公務の場とはいえ、常に綺麗な貴族口調が正しいわけではない。

 それが私の考えであり、この場においてはそれが正解だった。


「さて、今回はどういったご用件かな? 倉庫の一角を埋めている君への感謝状をすべて持ち帰りたいとか?」


 レオンハルトは冗談っぽく笑った。

 とはいえ、目は笑っておらず、私の真意を推し量ろうとしている。


 私は彼の冗談に笑ったあと、真剣な顔で言った。


「実は私、〈ドーフェン〉にて不思議な能力を獲得しました」


「不思議な能力?」


「はい。その力を活かして公爵様の領地発展に貢献できればと考えています」


 レオンハルトは「回りくどい言い方だな」と笑った。


「要するに商談を持ってきたわけだな」


「その通りです。ただし、普通の商談ではありません。先ほど申し上げた不思議な能力……〈万能ショップ〉やユニークスキルと呼んでいる力がポイントになります」


「スキル……? なんだそれは? おとぎ話に出てくる魔法のようなものか?」


「そのご認識で問題ございません。変なことを言っているとお思いでしょうから、実際にユニークスキルの力をお見せいたします」


 私は〈万能ショップ〉を発動した。

 ペットボトルのコーラを購入し、目の前のローテーブルに召喚する。


「なっ……!?」


 突如として現れたペットボトルに、レオンハルトは驚愕した。

 そもそも、彼にとってはペットボトル自体が驚きの対象である。


「マリア、これは一体何だ!?」


 珍しく声を荒らげるレオンハルト。

 怒っているのではなく、純粋にびっくりしていた。


「この容器は〈ペットボトル〉といい、中に入っている液体は〈コーラ〉という飲み物です。このように、この世界には存在しない物品を買えるのが私のユニークスキルです」


 私はペットボトルを手に取るとキャップを開けた。


「こうして蓋を回すことで開く仕組みになっています。炭酸飲料ですので、振らないようにしてください」


「炭酸飲料?」


 おっと、この世界には炭酸飲料そのものがなかった。

 首を傾げるレオンハルトを見て、私はそのことを思い出した。


「そこはお気になさらず! レオンハルト様も同じように蓋を開けて飲んでみてください! リンゴ酒やハチミツ酒とは違った美味しさがありますよ! アルコールも入っていませんので酔うこともありません!」


「アルコール?」


「と、とにかく、飲めばわかります!」


 私は立ち上がり、左手を腰に当てて、豪快にコーラを飲んだ。

 貴族に似つかわしくない完璧な飲みっぷりを披露する。


(コーラ、うんまぁーい! なにこれ! 最高でしょ!)


 18年ぶりに飲む炭酸飲料は、つい叫びたくなるほどの美味しさだった。


「くぅぅぅ! 美味しぃいいいい! キンキンに冷えていて最高!」


 いや、叫びたくなるほどではなく、思わず叫ぶほどの美味しさだった。


「本当にこの黒い液体が美味しいのか……?」


 レオンハルトは不安そうにしながらも、ペットボトルに手を伸ばした。

 キャップを開け、おもむろに立ち上がる。

 私に倣ったのだろう、左手を腰に当てて、右手でグビッと飲んだ。

 そして――


「なんだこの飲み物は! 神の奇跡か!?」


 感動のあまり目の色を変えた。

 その反応を見て、私は確信した。


(この商談、もらった!)

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