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追放されたシゴデキ令嬢、ユニークスキル【万能ショップ】で田舎町を発展させる  作者: 絢乃


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005 資金調達

 前世で会社を経営して学んだことがある。

 なによりも「一発目が大事」ということだ。


 そして、人を惹きつけるのは(ロマン)である。

 地球でも、この世界でも、人を動かすにはロマンが必要だ。


 翌朝、私は町外れに町民を集めた。

 さすがに全員とはいかなかったものの、過半数が揃っている。

 周囲には膝丈まである雑草が繁茂していた。


「こんな朝から町長の就任祝いですかー!?」


「農作業が終わったばかりで祝賀会なら昼過ぎがええのう」


 町民は私がパーティーを開くと思っていた。

 貴族は何かとパーティー好きだから、そう思われても無理はない。


「いえ、私の就任祝いなどいたしません! 皆様からいただいた大事な税金を、そのような無駄なことには使いません! ここに就任できただけで、私にはお祝いのようなものですから!」


 私が言うと、町民は「おお!」と感嘆した。

 掴みは完璧だ。


「皆様にお集まりいただいたのは、ユニークスキルを披露するためです!」


「ユニークスキル? なにそれ?」


「そういえば、昨日も言っていた気がするのう」


「光る水晶玉に触ったら手に入れたとか何とか……」


「どのようなものかを口頭でご説明しても伝わらないと思いますので、この場で実践いたします!」


 私は〈万能ショップ〉を発動し、草刈り機を購入した。

 四輪の自走式で、長い取っ手が付いているため腰を曲げずに使える。

 安全性を考慮して電動のバッテリー式を採用した。


 500ルクスもしたが、これは必要経費だ。

 言うなれば協力を得るための先行投資である。


「うお!」


「何か出てきた!?」


「なんだ! この鉄の塊は!?」


 町民たちが驚く。


「ふっふっふ! ご覧ください! いきますよ!」


 私は草刈り機を起動させて、周囲の雑草を刈り始めた。

 自走式なので、両手で取っ手を持って軽く動かすだけでいい。


「雑草が刈られていくぞ!」


「それも凄まじい速度だ!」


「手作業とは効率が違う!」


「それにマリア様は涼しい顔をしているぞ!」


「なんなんだ、あの鉄塊は……!」


 まさに求めていた反応だ。

 私は草刈り機を止めると、最高の笑顔で言い放った。


「これは草刈り機という“機械”です! ユニークスキルを使えば、このような機械をはじめとする革新的なものを買えてしまうのです!」


 さらに、大げさに髪をかき上げた。

 もちろん、この行為にも大きな意味がある。


「草刈り機……すげぇ!」


「というか、マリア様、すごくいい香りがする!」


「本当だ! なんだこの匂いは!」


「そこらの貴族が塗りたくっている香油(こうゆ)とは全然違う!」


 思惑通り、町民たちは香水に気づいた。

 この世界の貴族は、体臭を隠すのに香油(こうゆ)を使っていた。

 女性はローズ、男性はムスクをベースとしたものだ。

 どちらも甘ったるくて重い香りがする。


 一方、私はシトラス系の香水を選んだ。

 軽くて爽やかな香りなので、香油との差別化には最適だった。


「私はユニークスキルの力で、必ずやこの町を発展してみせます! そして、皆様が大都市に対する憧れを抱かずに済むような環境を築き上げます! そのために、どうか皆様のお力をお貸しください!」


 〈万能ショップ〉は名前のとおり万能だが欠点も多い。

 現状では、商品価格が高いため考えなしには連発できないことが問題だ。

 町の環境を底上げするには、圧倒的にお金が足りなかった。

 いずれは「ルクスを消費する」という仕様も欠点として浮上するだろう。


 金欠の問題を解決するには、多くの協力が不可欠だ。

 そして、皆の答えは――


「もちろんです! 町長様!」


「マリア様、わしは何だって協力するぞ!」


「俺もだ! この町を大都会より発展させようぜ!」


「私も! マリア様に従います!」


 まさに求めているものだった。


 ◇


 昼前、私はすべての町民を集結させた。

 朝にいなかった者も、人づてに私の力を知っていた。


「〈万能ショップ〉を最大限に活用するため、まずは外貨の調達に打って出ます!」


「「「外貨……?」」」


 皆が首を傾げた。

 もちろん想定内の反応だ。


「簡単に言うと、〈ドーフェン〉以外の場所にあるお金のことです。もう少し噛み砕くなら、他所の地域に物を売って得られるお金を指します!」


 現在、〈ドーフェン〉が外貨を獲得する手段は一つしかない。

 農作物の販売だ。


 しかし、そうして得た外貨の大半が町に留まらない。

 むしろ、町にあるお金の総量は徐々に減っているのが現状だ。

 行商人から物を買うのに消費するためである。

 また、公爵に納める税金……いわゆる「領主税」も痛い出費だ。


 このあたりは詳しく説明しても伝わらないだろう。

 現代の経済学に関する話になるからね。


「外貨を効率よく調達するには、〈万能ショップ〉で物を買うための資金が必要になります! そこで皆様にお願いです! 一人3000ルクス、私にご出資いただけないでしょうか!?」


「「「なんだって!?」」」


 町民たちの顔つきが変わった。


「マリア様の力で俺たちを幸せにしてくれるんじゃなかったのか!?」


「逆にお金を取るっていうのか!?」


「貴族が庶民にお金を求めるのか……?」


「しかも3000ルクスって……結構な大金よ」


 一転して、皆は難色を示した。

 想定内の反応だ。


 私は折れずに話を続けた。


「もちろん無条件とは言いません! これは寄付ではなく投資です!」


「「「投資……?」」」


「3000ルクスの見返りとして、現時点でこの町に住んでいる方の税負担を全額免除します! 領主税は今後の収益から支払います!」


「「「えええええええええええええ!」」」


「そのうえ、稼いだ外貨は必要以上に蓄えず、さまざまな形で皆様にお返しします! 詳細は未定ですが、町を発展させたりユニークスキルで買った物を無料で配布したりする方向で考えています!」


「「「おお!」」」


「成功を確約することはできませんが、皆様を後悔させないための努力を惜しまないことはお約束できます! ですから、どうか私に投資してください!」


 私は深々と頭を下げた。

 皆がどう反応するかはわからない。

 ただ、どんな反応をされようと気にしなかった。


 前世で何度も経験していたからだ。

 だから、ここで皆に断られた場合の対策も考えてある。

 そのときは自分のお金で小さく発展させていくだけだ。


「俺は乗るぜ! 3000ルクスどころか7000ルクス払う!」


 中年の男性が声を上げた。

 これが呼び水となって、賛同者が次々に現れた。


「俺もだ! 実は『投資』って言葉の意味がわからないけど、マリア様の気持ちは伝わってくる! 他の貴族とは違う!」


「私もマリア様を信じるわ! だって、上下水道を整備してくださった方ですもの!」


「わしの命はもう長くない。カネなんか貯め込んでも意味がない! 1万ルクスをマリア様に託すぞい!」


 皆の反応は、私の想定以上に好意的なものだった。

 前世で経験したことのない反応だったので、感動して涙ぐんでしまう。


「皆さん……! ありがとうございます!」


 最終的に約900万ルクスも集まった。

 手で持ち運べる量ではないため、大半を我が家の金庫に保管しておく。

 もちろん金庫も〈万能ショップ〉で買ったものだ。


「さあ、マリア様、俺たちに夢を見させてくれ!」


「これからどうするんだ!? 何だって協力するぜ!」


 皆が目を輝かせて私を見る。


「では、馬車の用意をお願いします!」


「「「馬車!?」」」


 私は「はい!」と笑顔で頷いた。


「皆様のおかげで、最初から大きく仕掛けられます! そこで、まずは各地のお金が集まる『外貨の終着点』から外貨の獲得を狙います!」


「外貨の終着点!? それって、もしかして……」


 私はニヤリと笑った。


「お察しの通りです! レオンハルト公爵に商談を持ちかけてきます!」


 私を極刑から救ってくれた大貴族レオンハルト・ノーブル。

 彼であれば、私の話を聞いてくれるはずだ。

 最初からラスボスに挑むようなものだが、私の胸は高鳴っていた。

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