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二度目の余命300日  作者: 海野宵人


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光魔法の使い方 (2)

 もったいぶるコレットに、国王は忍耐強く尋ねた。


「あなたの前世での名前は、何というのかな?」

「サトウ・アイナです。あ、サトウが名字で、アイナが名前です」


 国王の誘導により、コレットは前世の話を始めた。



 * * *



 あたしの前世は、ニホンという国のOLでした。あー、OLっていうのはですねえ、会社勤めをしている事務職の女性のことです。


 あっちで生きてた頃から、この世界のことは知ってました。「メイデン・オブ・ライト」っていう乙女ゲームの世界なんです。


 乙女ゲームっていうのはですね、何て説明したらいいのかな。簡単に言っちゃうと、女性向けの恋愛小説みたいなものです。読み進めていくうちに選択肢が出てきて、どれを選ぶかでストーリーが変化するんですよね。選んでいく選択肢によって、結末も変わります。


 主人公は、コレット。つまり、あたしです。えへへ。


 「メイデン・オブ・ライト」は乙女ゲームなんで、もちろん攻略対象がいます。攻略対象っていうのは、要するに恋のお相手のことですね。うまく選択肢を選んでいければハッピーエンド、失敗すればバッドエンドになります。


 攻略対象は、全部で八人いました。エヴラールさまだけが例外で、あとは全員が王宮魔術師です。あたしの最推しは、マリウスさまでした。でも、なんか、この世界のマリウスさまは、ゲームのマリウスさまと全然違うんですよね……。


 ゲームのマリウスさまは、女嫌いっていう触れ込みだけど、なんだかんだ頑張るうちに仲よくなれるんですよ。だけどこの世界のマリウスさまって、いつでもけんか腰だし、仲よくなれる要素がどこにもないじゃないですか。がっかりしました。


 その点、エヴラールさまはゲームと一緒でしたね。優しいし、紳士だし、すてきです!


 他の攻略対象は────あ、別にいりませんか。そうですか。


 「メイデン・オブ・ライト」は、「光の乙女」の称号をめぐって競い合うゲームでもあって、そのライバルがフェリさまです。恋のライバルでもありますね!


 フェリさまって、きれいで優しいし、才能ある上に勤勉だし、ぶっちゃけあたしに勝てるところなんて、ひとつもないじゃないですか。でも「光の乙女」に選ばれるために必要なのは、実は魔法の力だけなんですよね。他が負けてても、それだけ勝てればいいんです。だからあたし、頑張りました。


 ゲーム知識があったおかげで、頑張れたんです。いろいろと。


 ────いろいろとっていうのは、具体的に言うとおまじないとかのことです。たとえば自分の能力を高めたり、フェリさまの能力を落としたりできるんですよね。これがなきゃ、フェリさまになんか勝てるわけありませんよ。


 フェリさまが勝手に脱落宣言しちゃったせいなのか、おまじないの効果はちょっと微妙でしたけど。でも、まるきり効果がないわけでもなかったんで、知ってる限りのおまじないを駆使して頑張りました。


 おまじない用の魔法陣は、王宮魔術師団の図書室にあります。────当たり前ですよ。あんなもの、あたしが自分で作れるわけないじゃないですか。


 どこに何があるかは、ゲームだとイベントをこなす中で偶然に見つけていくんです。だけど、あたしにはゲーム知識がありますからね。どこに何があるか、最初からわかってました。だから楽勝だったんです。


 でも、ゲームとは違うところもちょこちょこありましたよ。


 ナバール風邪の特効薬では、もっと濡れ手に粟な感じで荒稼ぎできる予定だったんですよねえ。あたしのお小遣いでも手を出せる投資でしたから。でもゲームのときと違って、イマイチでした。情報を流してあげた知り合いのほうは、もっとうまくやったみたいですけど。


 ────その知り合いの名前ですか? コルネイユ伯爵家のルイゾンさまです。攻略対象じゃないけど、話して楽しい人ですよ。


 この世界へは渡ってきたというか、生まれ変わったらヒロインだったって感じです。前世の最後の記憶は、歩きスマホしてて駅の階段から足を滑らせて落ちたところで途切れてます。だからあのとき、死んじゃったんじゃないですかね。


 スマホっていうのは、うーん、通信機です。こっちの世界にも魔導通信機ってあるじゃないですか。あれの超進化版みたいなものです。魔導通信機だと、決まった場所同士で手紙をやり取りするしかできませんけど。


 スマホなら、いつでもどこでも誰とでも通信できちゃう。優れものなんです。しかもそれが携帯できる大きさなものだから、ダメって言われてても、つい歩きながら見ちゃうんですよねえ。まさかそれで死ぬとは思ってませんでしたけどね……。


 前世で死んだ後、目が覚めたらコレットに生まれ変わってました。あ、生まれ変わったって言っても、赤ちゃんの頃から意識があったわけじゃないんですよ。この体の中にいるって気がついたのは、フェリさまと初めて会ったときでした。


 そのときに前世の記憶が流れ込んできて、あたしの意識が覚醒したんです。だから前世を思い出す前のことも、ちゃんと記憶はありますよ。もっとも、最初のうちあたしは見てるしかできなかったんですけどね。


 でもせっかくヒロインに転生したんだから、ゲームの知識を活用したいじゃないですか。だから何とか自分で体を動かしたいと思って、頑張ったんです。そうしたら熱を出して死にかけたときに、動かせたんですよ!


 押さえつけられるような感覚もあったんですけど、それに負けたらまた見てるだけになるでしょ。だから負けないように頑張りましたよ。そしたら、ついに自分で体を動かせるようになったんですよ。


 そういうわけなんで、異界から渡ってきたんじゃなくて、転生しただけなんです。



 * * *



 しゃれこうべから聞こえてくるのは、不思議なことにコレットの声だ。あっけらかんと明るい声で語られる内容に、フェリシエンヌは身震いした。どこからどこまでも身勝手で自分本位な話だった。


 彼女は「頑張った」と言うけれども、単に邪法の呪いに精出しただけではないか。


 もしかしたら邪法とは知らなかったのかもしれない。けれどもコレット自身の能力を上げるのはともかく、フェリシエンヌの能力を下げるとわかった上で使っている。どう考えても「おまじない」なんてかわいいものじゃない。呪いとしか言いようがない。


 ナバール風邪の特効薬の件だって、ゾッとするほど利己的だ。


 高騰するという知識があっても、自分ひとりが稼ぐためにしか使わない。その知識を例外的に分け与えるほど親しくしているのは、ルイゾンだと言う。危うくアメリーが毒牙にかかりそうになった、あのクズである。類は友を呼ぶ典型としか思えない。


 前世の死因も同様。「歩きスマホ」とやらは、そもそも周囲からとがめられてしかるべき行いであるような口ぶりだった。それで階段から落ちたとしても、自業自得でしかない。自滅するだけならまだしも、周囲を巻き込んでけがをさせた可能性だってある。そういう心配を一切していない倫理観の欠如が、薄ら寒い。


 そして最後。体を動かそうとして、押さえつけられる感覚と戦った末に動かせるようになったと言っていた。それはつまり、コレットの体を奪い、乗っ取ったということだ。そんなことをしなければ、コレットはまだ生きていたのではないかと思えてならない。


 フェリシエンヌが苦い思いをかみ締める一方で、国王は相変わらず表情の読めない顔で静かにうなずいた。


「なるほど。もとの世界では、すでに死んでしまっているのか」

「たぶん、そうです」


 国王はあごをさすって、再びうなずいた。


「異界を渡った魔女かと思っていたが……。魔女ではなく、死霊だったのだな。コレット嬢はその死霊に取り憑かれ、殺されてしまったのか」

「魔女でも死霊でもありませんってば。ただ生まれ変わっただけです!」


 ムッとした声で、コレット────いや、コレットの体を奪っていたアイナは言い返す。どうやら彼女は、自分の姿が変わってしまったことに気づいていないようだ。長手袋をしているせいで、白骨化した手が見えていないからかもしれない。

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