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二度目の余命300日  作者: 海野宵人


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30/40

講師解任

 幸いなことに、この日を限りにマリウスは魔法の講義から解放されることになった。コレットの光魔法が、徐々にまた弱まってきたからだ。


 マリウスが講義を受け持っていても弱まったのだから、もはやコレットの主張は通らない。


 しかもその挙げ句に、マリウスが過労で倒れてしまった。ある意味、タイミングがよかったとも言える。このような好機を逃す父ではない。フォンテーヌ公爵パトリスは、息子の尽力に意味がなかったばかりか体調不良を招いたとして、兄である国王にマリウスの即時解任を迫ったのだった。


 ────という顛末を、フェリシエンヌはパトリスの口から聞いた。


 パトリスはマリウスが倒れた一週間後、領主館にやって来ていた。彼は夕食の席で、こうした一連のいきさつを満面の笑顔で説明した。


「マリウス、けがの功名だな。ちょうどいい口実になったよ」

「助かりました、父上。ありがとうございました」


 マリウスの負担が減ったのは喜ばしい。しかしパトリスは同時に、少しばかり不穏な知らせももたらした。


「だが、次は標的がフェリに移りかねない。わたしのほうでも警戒しておくが、マリウス、お前も十分に気をつけなさい」

「わかりました」


 いきなり自分の名前が出てきたことにうろたえて、フェリシエンヌは目をまたたかせた。戸惑ってパトリスとマリウスを交互に見ていると、パトリスが苦笑しながら説明した。


「フェリの具合がよくなったと知ってしまったからか、また一緒に講義を受けたいと言い出したそうなんだよなあ」

「まだ諦めてなかったのか」

「むしろ執着が増してるぞ。わたしからは断ったが、あの手この手でフェリに接触しようとするんだよ。理由がわからないから、打つ手がどうしても後手に回りがちで困っている」


 パトリスは大きくため息をついた。フェリシエンヌもため息をつきたい。


 理由に関しては、彼女にも皆目見当がつかなかった。だがコレットの執念深さには、何とも言えないおそろしさを感じた。真夏なのにゾッと寒気がする。反射的に身震いして、二の腕をさすった。


(本当に、コレットさんはどうしてしまったのかしら)


 コレットと最後に顔を合わせたのは、いつだっただろうか。確か、彼女が王都の公爵邸を突撃訪問したときが最後だ。


 「前回」はフェリシエンヌが離宮に隔離されて以降、一度も会うことがなかった。けれどもだからと言って、コレットが彼女と会いたがっていたという話は聞いた記憶がない。どうして「前回」と違うのだろう。何か原因があるのだろうか。


 ぐるぐると頭の中で考えをめぐらすうち、ふと気づいたことがあった。さっそくパトリスに尋ねてみる。


「エヴラールさまのご婚約は、もうお決まりですか?」

「いや、まだだよ。どうした? 気になるのかい?」

「気になると言うか……。わたくしとの婚約解消は、てっきりコレットさんと婚約を結ぶためだと思っていたのです。ですが解消からだいぶ経つのに、ご婚約のお話を耳にしていないものですから。どうなさったのかしらと思って、お尋ねしました」

「ああ、なるほど」


 パトリスはあごをさすって少し考えてから、「フェリは聡いね」と笑みを浮かべた。


「たぶん兄はそのつもりだったと思う。けど、あの娘じゃ、ちょっとなあ……」


 フェリシエンヌは苦笑した。パトリスが言葉をにごした部分は、彼女にも想像がつく。いろいろとやらかしがひどすぎて、婚約者にふさわしくないと思われてしまったのだろう。「前回」は、あんなことはなかったのに。


 パトリスは皮肉げに嘆息する。


「兄上も、光魔法にこだわりすぎなんだよ。そんなものより、人となりのほうがよほど大事だろうに」


 そして彼は茶目っ気たっぷりに、彼女に向かってウインクしてみせた。


「ま、おかげでフェリがうちに来てくれたわけだけどね。マリウス、よくやった」

「玉砕覚悟だったんですけど。受けてくれてよかった」


 パトリスとマリウスにそれぞれ微笑みかけられ、フェリシエンヌは何とも言えずくすぐったい思いがする。


 しかし、これではっきりした。エヴラールとコレットは、いまだ婚約していない。「前回」は夏至の前夜祭で発表されたと聞いたのに。コレットの奇行の根底にある理由は、もしかするとこれではないだろうか。


 とりとめもなく彼女がコレットのことを考えていると、マリウスが気遣わしげに声をかけた。彼女がうわの空なのに気づいて、心配したらしい。


「フェリ、どうした?」

「あ、ごめんなさい。コレットさんのことを考えていました」


 名前を聞くのも不快そうに、マリウスが眉をひそめる。無理に話したい内容ではないので流そうとしたのだが、彼は重ねて質問した。


「彼女がどうした?」

「以前、あのかたが王都の屋敷を訪ねていらしたときのことなのですけど。『陛下から切磋琢磨して競い合うよう激励された』というようなことをおっしゃっていたのを思い出したのです」

「ああ、そんなこともあったね」


 フェリシエンヌは言葉を選びながら続けた。


「あのかたの思い込みは、もしかしたらそれがきっかけだったのかもしれません」

「どういうこと?」

「陛下の激励のうち『競い合う』という部分だけを切り取って、わたくしと競わなくてはならないと思い込んでしまったのかもしれないように感じました」


 そこから先を説明するための言葉を彼女が探していると、パトリスが続きを引き取った。


「ああ、なるほど。競った上で勝ちたい、勝てばエヴラールとの結婚が待っている、というわけか」

「うわ。いかにもありそうだな」


 彼女は曖昧にうなずくことしかできなかったが、マリウスは即座に父に同意した。


 けれども、やはり不思議なのだ。


 すでに競争から脱落しているフェリシエンヌを、わざわざどうして引き戻そうとするのか。そんなことをしなくても、コレットの不戦勝となるだろうに。よけいなことをするから、周りから「おこないに問題あり」と見なされてしまうのだ。


 何はともあれ、マリウスは魔法の講義から解放された。これからはまた、ゆっくりと二人の時を過ごせばよい────と、このときの彼女は思っていた。


 八月九日。冬至の日まで、残り134日。

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