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二度目の余命300日  作者: 海野宵人


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19/40

前世と前回 (1)

 フェリシエンヌは努めて穏やかな声でコレットに尋ねた。


「コレットさんは今日、どのようなご用件でいらしたの?」

「フェリさまにお願いがあって来ました」


 予想どおりの答えである。何となく続きも予想がつくような気がしたが、フェリシエンヌはもの柔らかに言葉を続けた。


「まあ。どのようなお願いかしら?」

「フェリさま、お願いですから魔法の講習に戻ってきてください」


 予想どおりの答えが返ってきた。フェリシエンヌは静かに首を横に振る。


「ごめんなさい、それはできないわ」

「どうしてですか?」

「もう必要のないことだし、わたくしには他にやらなくてはならないことがあるからなの」

「それは魔法の勉強よりも大事なことなんですか?」

「ええ、そうよ」


 コレットはうつむいて、唇をかんだ。フェリシエンヌは不思議に思う。どうしてこれほどまでに、彼女に執着するのだろう。理由がさっぱりわからない。


「逆に伺いたいのだけど」

「はい」

「コレットさんは、どうしてわたくしに魔法の講習を受けさせたいの?」

「フェリさまと一緒じゃないと、寂しいからです!」


 あまりにも自分本位な理由に、フェリシエンヌはぽかんと口を開きそうになった。隣のマリウスから、怒気が膨れ上がるのを感じる。彼女は彼の膝の上に手を置き、なだめるようにさすった。


 コレットは自分がどれほど利己的なことを言っているのか、わからないのだろうか。コレットが寂しいからといって、必要もないのにフェリシエンヌが一緒に講義を受けてやる義理はない。彼女はコレットの子守りではないのだ。


「でもわたくしは二年以上、ひとりで講習を受けてきたのですもの。コレットさんだって、これからはおひとりで頑張れるはずよ」

「でも、でも……」


 コレットは口ごもりながらも、何か必死に言葉を探しているようだ。


「それは、光魔法を使える人が他にいなかったからでしょう? 今は二人いるんだから、一緒に受けるのが当たり前じゃないんですか?」

「そんな決まりは、どこにもなくってよ」


 フェリシエンヌは首をかしげた。コレットがどうしてこんなふうに思い込んでいるのか、原因がわからない。


 コレットは、なおも言いつのった。


「でも、互いに切磋琢磨して競い合うようにって」

「どなたがおっしゃったの?」

「国王陛下です」


 なるほど、とフェリシエンヌは得心した。最初にそのように激励された言葉を、愚直にとらえてしまったのだろう。


「そのときと今とでは、お考えが変わっておいでだと思うわ」

「なんでですか?」

「わたくしが脱落したからよ」


 フェリシエンヌはコレットに安心させるように微笑みかけた。


「だからね、コレットさん、もうわたくしと競う必要はないの。大丈夫。これからはコレットさんおひとりでも、力を伸ばしていけるはずよ」


 だがコレットは、浮かない表情をしている。フェリシエンヌの言葉に納得した様子がない。


「だけど、フェリさまが一緒じゃないと……」

「わたくしが一緒でないと、どんな困ったことがおありなの?」


 コレットはフェリシエンヌの問いには答えず、きょろきょろと視線をさまよわせた。じっと返事を待っていても、そわそわと落ち着きなく身じろぎするばかりだ。


 だいぶ長いこと待った挙げ句、フェリシエンヌは苦笑した。


「ほら。何もないのだから、ご安心なさいな」


 コレットは納得のいっていない顔で何度か首をひねった末に、ようやく渋々といったふうに「はい」とうなずいた。


「お話はこれだけ? それともまだ他にご用件がおありかしら?」

「いえ、これだけです……」

「そう。コレットさんのご懸念を晴らすことができて、よかったわ」


 フェリシエンヌにしてみたら、これにてすっきり解決である。コレットが満足したかどうかは、別にして。


 彼女の表情を見れば、満足していないことは明らかだった。だからといって、フェリシエンヌには迎合するつもりなどなかったが。


 だってコレットの望みとは、すなわちフェリシエンヌの時間を彼女のために割くということなのだ。それも一回限りのことではなく、定期的にずっと。「前回」は時間に限りがあるとは知らなかったから、特に不満を抱くこともなく付き合った。


 けれども今は違う。時間は有限だ。しかも決して長くはない。


 だからフェリシエンヌは、時間を大事にしたい。コレットのわがままをかなえるだけのために、自分の時間を無駄にしたくないのだ。


 話が終わったと見るや、ずっと沈黙していたマリウスはサッと立ち上がった。フェリシエンヌも彼にならって立ち上がる。


 この二人の動作により、コレットもさすがにこれ以上は居座れないと悟ったらしい。のろのろと立ち上がった。部屋のドア付近に控えていた従僕がすかさず一礼してドアを開け、玄関ホールまで先導して案内した。


 従僕はそのまま足早に馬車を呼びに行く。彼が戻るのを玄関ホールで待っていると、コレットがフェリシエンヌにささやいた。


「もしかして、フェリさまにも前世の記憶があるんですか?」

「え? 前世?」


 フェリシエンヌは首をかしげた。「前世」である。「前回」ではない。前世と言えば、一般的には生まれる前の別の生のことだろう。彼女が経験しているこの「同じ時間のやり直し」とは違うもののはずだ。


 フェリシエンヌは興味津々で尋ねた。


「まあ。コレットさんには、前世の記憶がおありなのね? どんな記憶なのかしら。教えてくださらない?」

「え……。いえ! 何でもありません!」


 はぐらかされてしまった。自分から話題を振ったくせに、と思うと何だか釈然としない。けれども相手は気まぐれなコレットだ。これ以上、深く尋ねようとしても無駄だろう。フェリシエンヌは肩をすくめて、忘れることにした。


 そうこうするうちに、従僕が戻ってきた。玄関前に付けたエベール侯爵家の馬車へ案内しようと、コレットに手招きする。するとコレットが「あっ、そうだ!」と弾けるように顔を上げた。


「すみません、すっかり忘れてました。ご婚約おめでとうございます!」

「え、ええ。ありがとう」


 まったくもって今さらである。しかしどうしたことか、コレットは満面の笑顔だった。つい今しがたまでぶすくれていたくせに、わけがわからない。戸惑うフェリシエンヌに、コレットは笑顔のまま続けた。


「あとでお祝いの品を贈りますね!」

「ありがとう。でも、お気持ちだけで結構よ」

「たいしたものじゃないけど、受け取ってください! それとも、あたしからのプレゼントなんて受け取れませんか……?」


 急にしょんぼりするコレットに、あわててフェリシエンヌは「そんなことなくってよ」と声をかけた。


「お気持ちは本当にうれしいの。だから、お気持ちだけで十分なのよ」

「わかりました! 後で送りますね!」


 まったく会話がかみ合っていない。だがコレットが上機嫌なので、もうそれでよしとすることにした。とりあえず話を蒸し返すことなくおとなしく帰ってくれるなら、何でもいい。

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― 新着の感想 ―
コレットが何か企んでいそうで嫌な感じですね。苦しい思いをして生き戻ったのだから、このままカヤの外で、安らかにいて欲しいけど、どうでしょうね。
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