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終業式の夕方、ディアナは1学期最後のダンスパーティーへと来ていた。
隣にはエスコートするウィルがいる。2位になったご褒美にと懇願されたのだ。まぁ、いつの間にか隣にいるのが当たり前になっていたので、特に迷うこともなかった。
そして反対側の隣には、ユリアをエスコートするジークフリードがいた。ユリアの宣言通り、ジークフリードの母である侯爵様と王妃様まで巻き込んで外堀をがっちり埋めてしまったのだった。
ユリアを思っての事だったが、ジークフリードに拒絶されて臆病になり、一時は距離が出来てしまった2人だった。
だが、前回のパーティーでこのままではディアナに取られてしまうと焦った王女様を止めるものは何も無かった。
ジークフリードも中々しぶとかったものの、昨日のヤッホーベアー事件で完全に吹っ切れたようで、でれでれ甘々でユリアの方が戸惑って赤くなっていて、とても可愛らしい。
ユリアのドレスはジークフリードの髪と同じ水色で、アクセサリーは全て琥珀で揃えていた。
ジークフリードは今日も黒い礼服だったが、さりげなく焦げ茶をアクセントに使っていて、ユリアの瞳と髪の色だと誰が見ても明らかだった。
婚約も夏休み中に交わされるらしい。卒業後は、ユリアに侯爵位が与えられて、女侯爵とそのお婿さんと言うことになるのだとか……
4人が会場に入ると水を打ったように静まり返った……おそらく、ウィルとディアナはよく一緒にいるのでみんなに認識されていただろう。
だが、ユリアとジークフリードは図書室や食堂で大勢でいる姿しか見たことがなかったので、みんなあのジークフリードが甘い表情でユリアをエスコートしているのを驚愕の表情で見ていた。
ユリアもいつもは地味にまとめているのに、今日の美しく着飾って頬を赤らめている姿は、まさにジークフリードの言う通り天使のような可憐さだった。
ユリアの事を地味だと嘲笑っていたルーカスが見たら、さぞ驚いたことだろう。だが、あの女好きに目をつけられでもしたら大変なので、見られずにすんでよかったのかもしれない。
「そんなにジークフリード殿が気になる?」
「え?ち、違うよ!今日のユリア様は本当に可憐で輝いているなと思って……」
「ふふ、そうだな……姉上は昔はあんな感じだったんだ。だがある時期から急に地味に目立たないように振る舞うようになって……今思えばジークフリード殿に拒絶された時期だったんだろうな。
薄々気付いているとは思うが、姉上は母上と同じくらいパワフルな女性なんだ……だから学園に来て、あんなに覇気の無い姉上を見て驚いたよ」
「そうだったんだ……確かに……意外と強引で行動力あるわよね……そっか、本当の姿はこっちだったんだね!
はぁ……それにしても……2人のダンス素敵ね……」
そう、ディアナとのダンスも見事だったが、ジークフリードとユリアのダンスは、まるで元々1つだったピースがピタリと合わさったような、不思議な感じだった。
おそらく幼い頃から共に練習してきたのであろう……ディアナと踊った時は、ディアナが踊りやすいように思いやりに溢れたものだったが、ユリアとは息の合った誰から見てもまさに運命のパートナーそのものだった。
「俺たちも踊ろう。あのステップ、みんなに見せつけてやろうぜ!」




