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14. 断罪

(巨人族王子ゼダ目線)

 アーミャがとんでもない問題を起こした。


 よりにもよって国賓であるリリ姫を骨折させたうえ、蹴り殺そうとしたのだ。しかも今は魔王との戦いを間近に控え、他国と争っている場合ではないというのに。

 本人は「そんなつもりはなかった」と容疑を否認しているが、あれだけの目撃者が居た中、言い逃れは出来ないだろう。


「ゼダ。アーミャはどうしている」

「夜遅くまで暴れていましたが、流石に一晩経って頭が冷えたのでしょう。今は地下牢で大人しくしています」

「そうか」


 父が額に手を当てながら「ふぅ」と大きくため息を吐いた。


 これまでも、アーミャが問題を起こすことは度々あった。公爵令嬢という唯一無二の立場と、幼さ故の癇癪だと許されてきたのだが、それで天狗になってしまったのだろう。


 めったに感情を表に出さない父が、あからさまにため息を吐くのは珍しい。

 それほど大きな問題なのだと、国王の間に集まった重鎮達は改めて姿勢を正した。


「王子よ。リリ王女は何と?」


 アーミャに良く似た男が、蒼白な顔で問いかけてきた。アーミャの父で、俺の幼馴染でもある。彼自身は善人だが、一人娘を『蝶よ、花よ』と溺愛してきた付けが回って来たのだ。沙汰によっては娘共々処刑されることになるだろうが、同情する気は起きない。


「リリ姫は、謝罪だけで結構だと笑ってくださった」

「そ、そうですか」


 あからさまに安堵する男に、俺は苛立った。鼻から血を流しながら、意識を失う直前までアーミャや俺の心配をしていたリリの姿が忘れられない。胸の奥が熱く疼く。

 なのにこいつは、娘を心配するあまり娘がしでかしたことの意味を理解できていない。


「勘違いするな。リリ姫が許したからといって、罪が無くなる訳ではない。貴様は、もしもアーミャが他国で謂れなき罪を着せられ、骨を折られ、蹴り殺されかけたとして、不問にできるのか?」

「それは……! しかし、リリ姫様が軽率だったことも事実で」

「貴様!」


 思わずカッとなり、俺は腰の短剣に手をかけた。傍にいた者達が、慌てた様子で俺の腕を押える。


「邪魔をするな!」


 俺は風魔法を放ってそいつらを蹴散らした。そのままの勢いで男を切ろうと跳躍する。が、突然凄まじい重力が体にかかり、ズドン、と床に叩きつけられた。

 俺に対してこんな事ができるのは、王である父だけだ。


「父上、邪魔しないでください!」

「……百年前」


 魔力を込めた父の美声が低く響き、ハッと、その場にいた全員が息をのんだ。頭に血が上っていた俺でさえ、父の圧倒的な魔力に肝が冷えた。


 父は玉座から立ち上がり家臣達を見降ろしている。

 ギガン族では誰よりも小柄な父だが、圧倒的な魔力が彼を数倍にも大きく見せていた。

 強力な魔力の圧に押され、全員が膝を突く。


「百年前、魔族との戦によりギガン族は滅びようとしていた。救いを求め、当時の王は単身で海を渡り、エルフの国エルジアに辿り着いた。だが、エルフ達は巨人を人類とは認めなかった。助けを拒むだけでなく、王を捕らえ牢へ繋いだ。我らが祖先は、祖国から遠く離れた地で理不尽な理由で殺されたのだ。その無念を忘れてはならぬ」


 誰もが息を潜めて王の言葉を聞いている。これはギガン族なら誰でも知っている、そう遠くない昔話だ。


「アスラン」

「はっ!」


 名を呼ばれ、アーミャの父が頭を垂れた。父はゆっくりとアスランに近付き、その肩に手を置いた。


「アスラン。リリ姫は共に魔王と戦うために、単身で海を渡り我が国を訪れた一国の王女だ。その誇り高き崇高な女人を、そなたの娘は理不尽な理由で侮辱し、殺しかけたのだ。これは我らが祖先に起きた悲劇と何が違う?」

「!? お……お許しください! 王よ!!」

「ようやく過ちに気付いたか。幸い、心優しきリリ姫のおかげでトルク王国との戦にはならないだろう。だが、お前達の言動は我らギガン族の信念を穢すものである。……公爵家だからと、沙汰を甘く見ていたのであろう。残念だが、今度ばかりは許すわけにはいかん」

「……申し開きのしようもございません……!」


 父の言葉に、アスランは床に額を擦り付けるように頭を垂れた。水を打った様に、王の間が静まり返る。


「公女アーミャ・ドナウの罪により、ドナウ家は爵位を剥奪のうえ島流しとする。また、罪に加担した侍女2名についても同罪とする。……アスラン。アーミャの教育をし直すがよい」

「は……はは!」


 父は穏やかな性格だが、正義感が強く公正な人物だ。

 王女殺害未遂に対する沙汰としては甘いが、唯一の公爵家に対する処罰にしては重すぎる。

 島流しはネコール王国では死刑に次ぐ刑罰だ。王国から遠く離れた手付かずの小さな島で、獣同然の生活を送り、生涯を終えることになるのだ。アーミャの様な少女には死よりも過酷であろう。

 王国の姫として大事にされてきたアーミャの最期を想像し、誰もが言葉を失っている。

 ふと、アスランが僅かに顔を上げた。

 俺と目が合う。

 苦悶に満ちた眼差しは、俺に減刑を求めているように見えた。

 確かに、王子である俺ならば父の判決に異を唱えることもできるだろう。だが、それはアーミャに非が無った場合、あるいは笑って済ますことのできる悪ふざけの範疇だった場合だ。

 ……俺の婚約者候補としての座を奪われまいとしての行為だったと分かっているが、正式に婚約していた訳ではない。勝手にアーミャの家が騒いでいただけで、俺も父もそのつもりはなかった。

 従妹であり赤ん坊の頃から見ていたアーミャに情が無いわけではないが、明らかに罪を犯した者を庇う気にはならない。

 第一、どんな理由があったにせよ、あの美しい人に手を出した時点でアウトだ。


「命があるだけマシだと思え」

「……王子……!」


 がくり、とアスランが項垂れた。

 結局、誰一人として減刑を求めることはなく、3日後、アスランの一族は島送りとなった。


 ……アーミャは最期まで罪を認めなかったという。


お久しぶりです!

色々あって更新が遅れました。すみません。

今日は3話くらいまとめてアップします。

よろしくお願いいたします!

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