12.本気なのか?
本日2話投稿しています。今回が2話目です。
(ギガン族王子 ゼダ目線)
リリとダライの距離が近い。
二日前に城で見た時よりも、二人は確実に仲良くなっている。
ダライは視線を合わすことにも苦労しているようだが、リリはすっかりダライを信頼している様子だった。本人達は気が付いていないだろうが、他の男が近くを通る度、リリは自然とダライに近付き背中を任せている。
リリが巨人族の男が苦手だと言っていたので、俺は今日の訓練をとても心配していたのだ。同時に、リリをあいつらから守ってやろうと意気揚々と参加したわけだが、余計なお世話だったようだ。
少し、面白くない。
後でダライとリリの間に割り込もうと心に決め、俺は弓矢を手に取った。
今日は弓の訓練初日だったが、思いの外、多くの男達が集まった。
純粋に戦士として弓道に興味を覚えた者もいれば、単純にリリ個人に興味をそそられて参加した者もいる。どちらかと言えば後者が多い……圧倒的に。
しかし、それは仕方のないことと言える。
ギガン族……特に純血の戦士程、頭を使うことや『型』を嫌う。弓のように繊細で緻密な動作が要求される武器は性に合わないのだ。弓の威力は先日思い知ったとはいえ、指導者がリリという知的で美しい女性でなければ見向きもしなかっただろう。
案の定、リリが心を尽くして『型』を教えても、デレデレと鼻の下を伸ばすばかりで一向に上達する気配がない。
気持ちは分かる。実によく分かる。
今日のリリは、下はゆったりとしたズボンを履いているが、上は袖の無い短めのシャツに鎧の胸当てを着けているだけの簡易な服装で、何かと刺激が強い。
これでも、ダライの母親や姉が露出を減らす努力した結果なのだという。
リリが矢を射る度、歓声を上げる阿保どもに交じって俺も何度か「ヒューゥ!」とはしゃいでしまったが、これは内緒にしておこう。
まあ、元々「上達する気が無い」リリ目当ての阿保どもはさておき、真面目にやっているのに上達しない男もいた。……ダライだ。
ダライは文官だが、武芸の才能が無いわけではない。
本人は自己評価が極端に低いのだが、一時期剣術の指導をしたことのある俺はダライの才能を評価している。
しかし、何をするにも熟考してから行動する癖や、好戦的なギガン族とは思えないほど心優しい性格のせいか、他の子供達よりも初期の成長が遅かった。
もう少し続けていれば、たちどころに頭角を現していただろうに、ダライは自分には才能がないと思い込み早々に稽古を止めてしまったのだ。
学問の成績が非常に良かったこともあって、勿体ないとは思いながら俺も何も言わなかった。
「私の教え方が悪いのでしょうか……」
ぼそっと呟き、リリが肩を落とした。
残念ながらリリはダライの才能に気が付いていないようだった。……無理もない。他の参加者は、的に当たるかどうかは別として、少なくとも一度で弓を引き、前方に放つことが出来たからだ。
しゅんとするリリが不憫だったため、ダライには悪いと思いながら俺は本気を出すことにした。
その結果、2回目以降は全ての矢を的のど真ん中に命中させることが出来た。
まあ、天才だから仕方ない。
俺の弓が的を射抜く度、リリが子供の様に目を輝かせて喜ぶので、調子に乗って射ちまくり「ハーイ!」とハイタッチまでしまった。
勢いでハイタッチに応じた後で、恥ずかしそうにオロオロと手をパタパタさせるリリの仕草が愛おしい。
ヤバいな。リリが可愛い。これが噂に聞く『大人可愛い』というやつか。
思わず頬が緩んだところで、すっかり存在を忘れていたダライと目が合った。
ダライはグッと何かを堪えるように眉間にシワを寄せたが、すぐに無言のまま矢を番え、黙々と訓練を続けた。
……正直な所、その時はまだダライをライバルだとは感じていなかった。自分の方が圧倒的に有利だったからだ。
だが、訓練後に事件が起きた。
阿保の一人がリリに手を出し、キレたダライが喧嘩をしたのだ。
(……あれは、本気だな)
ドクン、と胸が鳴ると同時に、血の気が引いた。
あんなダライを見るのは初めてだった。
幼い頃、「誰かを傷付けるくらいなら傷つけられた方がいい」と言って泣いていた少年が、その信念を忘れるほどに怒っていた。
それほど本気でリリを想っているのだ。
ドクン、と再び胸が疼く。
リリを土竜で送りながら、俺は浮ついていた気持ちが急に冷えて固まっていく感覚を味わっていた。
リリの事は好きだ。
自分なりに本気だと思っていた。だが、それは『物珍しいものを手に入れたい』という欲求とは別の物だったろうか。
リリの美しさに惹かれたことに間違いはないが、リリの内面を自分はどこまで知っているのだろう。
あの阿呆共と何が違うと言うのだろうか。
「……どうかなさいましたか? ゼダ王子」
「ん? あー……」
不意にリリから声をかけられ、俺は返答に困った。俺の前に座っているため、リリは後ろを振り返りながら不安そうに俺を見上げている。いつもよくしゃべる俺が急に黙ったので不安に感じたのだろう。
「いや、明日からの訓練は今日より人が減るだろうなと思って」
「……そうですね。残念です」
俺の適当な回答に、リリは心底哀しそうな顔で相槌を打った。
せっかく二人きりの口説きチャンスだというのに、ダライの事が頭から離れず、リリの肩に手を置く程度のことすらはばかられた。城からダライの家まではそう遠くない。あと数分で辿り着くだろう。その短い時間が異様に長く感じられる。
「ゼダ王子。私、間違っているのでしょうか」
俯きながら、ボソッとリリが呟いた。
何のことか分からず、俺は「ん?」と返した。
「体の大きなギガン族が私の弓を使えれば、大きな戦力になると思ったんです。魔王は、きっとカイトやサ……勇者や聖女が倒してくれると思います。でも、魔族や魔物の侵略を食い止めるには全人類の協力が不可欠でしょう? なのに私の部族は巨人族の中でも戦闘力が低く、知性もありません。せめて私だけでも何かお役に立てればと思ったのですが……騒ぎを起こしてダライ様を傷付けてしまっただけで、迷惑しかかけていません」
「そんなことはない!」
反射的に否定しながら、俺はリリの言葉に心臓を掴まれた気分を味わっていた。
リリは、一国の王女としてここに居るのだ。
それなのに自分は、一国の王子でありながら浮ついた気持ちでリリと接していた。そればかりか、魔王のことなど微塵も頭に無かったのだ。
男としても王子としても未熟。無能と言ってもいいだろう。
「リリ姫」
「はい」
俺は後ろからリリ姫の右手をそっと掴んだ。一瞬ビクッと肩を震わせたが、リリ姫はじっと俺の言葉を待ってくれている。
(ああ。やはり美しい)
こうして近くで見れば見るほど、リリ姫の瞳から知性や思慮深さが伝わってくる。遊び半分で接していい相手ではない。
この人は、生まれながらの王女なのだ。
「あなたは何も間違っていない。足りないのは私達の誠意です」
私は土竜を止め、リリ姫の手の甲に口付けをした。
心からの謝罪と、精一杯の誠意を込めて。
「ネコール王国王子ゼダ。リリ姫を国賓として全面的に支持することを誓います」
自分が騎士であったなら、騎士の誓いを立てたであろう。
こんな気持ちは初めてだ。父にすら、これ程の敬意を感じたことはない。
「……ありがとうございます。ゼダ王子」
月明かりに照らされ「私、頑張りますね」と女神のように微笑むリリ姫の笑顔は、光の水のようにスゥッと体に入り込み、俺の心を満たしていった。
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恋する男子ズの回が2話続きました。
頑張れ、男子!




